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第十三話 第三聖

 控え室に戻ったというか初めて入った俺はそこに待ち構えていたオルティア先輩に捕まっていた。


「あの、オルティア先輩何故俺は先輩に捕まっているのでしょうか」


 さっきから俺はオルティア先輩に質問しているが、笑顔のままじっと俺を見つめたまま返事をすることはない。

 若干さっき会ったときとは雰囲気が違うように感じる。


「あの、オルティア先輩?」

「特に問題ないからもう動いても大丈夫よ」

「あの、今のはいったい…」


 戸惑いながらたずねると、最初に会ったときと同じおっとりした口調で返事を返された。


「驚かせちゃったみたいでごめんね~。今のはラフォス君に怪我がないか調べていたの~」

「怪我がないかですか?でもあの魔道具を使っていますし、何より勝負はすぐに片付いたので怪我らしい怪我は特にしていないと思うのですが…」

「それでも一応ね。あの魔道具は確かに怪我をしにくくなるけれど、かなり大きな怪我を結界内でした場合は結界の外にでても怪我が完全に治りきらないことがあるのよ~。だから私たち保健委員会が常駐しているわけなんだけれどね~。それで今『エクセータシー』で怪我をしていないか確認したけど問題なかったから、もう観戦しに行っても問題ないよ~。あ、でも待ってね。会長から伝言預かってるから」


 オルティア先輩に感謝し、観戦しに行こうと思った瞬間に告げられた言葉に嫌な予感しかしなかった。


「か、会長からですか?」

「なんでも、お昼は昨日と同じくよろしくね。だそうよ~。あと、スティーブン君?も一緒に行くらしいから逃げないでね。とのことよ~」


 予想通りでした。

 会長からの伝言でスティーブンが出てくる時点でほぼ確信に変わったが、絶対昼食を用意しておけだよ。

 今、魔武大会中なのに、あの二人は絶対やると思ってたよ。

 余分に食材を持ってきておいて正解だった…。


「あの、質問なんですが、魔武大会中は選手は自由に敷地内を歩き回っても問題ないのでしょうか?」

「問題ないわよ~。でも、試合開始時間に遅れると負けになるから気を付けてね~」

「ありがとうございます」


 良かったー、自由に動けなかったら昼食時に何て言われるか…

 また、変な要求をされていたかもしれない。


 オルティア先輩の治療を終え、一先ず選手用の観覧席へと向かった。

 レイのところにでも行き、オルティア先輩と話している間に終わった試合話をしようとあたりを見渡しながら歩いていると、


「君、同じ一年生の12階聖だったんだね」


 突然声をかけられた。

 驚いて後ろを振り返るとそこには受付の仕事をしているときに特に印象に残っていた橙色の髪の男子生徒がいた。

 この生徒の何が印象に残っていたのかというとそれは使用する武器であった。

 この生徒は武器の欄に“杖”と“クボタン”と書いていて思わず聞き返してしまったのである。

 杖を使う人はたまにトクソ商会にも来るがそれは魔道具としての杖であるし、クボタンと呼ばれる武器にいたっては名前すら知らなかったので両方実際に実物を見せてもらうことになったのである。

 杖の方は黒塗りの持ち手が少し大きい、ものだった。

 武器として使うようだが、若干持ちにくそうな印象であったが、それでも問題ないと本人も言っていたため、特に問題なく使用許可がおりた。

 クボタンは長さ15センチほどで、直径は2センチほどの円筒状の金属で作られた武器だった。

 なんでも護身道具らしいんだが、普通のものと違い仕込み武器?になっているらしい。

 俺自身初めてみる武器なのでよくわからないのだが…


「さっきの試合すごかったね」


 どうやらさっきの試合を観ていたようだ。


「まさか瞬殺しちゃうなんてさぁ~。それで12階聖の第七聖って言うんだから驚いちゃったよ。自分よりも下の順位だと思っていたら自分より強いかもしれないんだからさ~。しかも生徒会にまで入ってるって言うんだからさらに驚いちゃったよ。そうそう自己紹介がまだだったね。僕はサンプソン、12階聖の第三聖だよ。よろしくね」

「あ、ああ。よろしく」


 俺は驚きつつも返事を返し、サンプソンと握手をした。


「得意魔法は火属性と氷属性。好きなことは楽しませること。気軽にサムって呼んでね~」


 サンプソンは初対面のはずだがかなり親しげに話しかけてきて、握手をしたまま自己紹介を続けた。


「ラフォス君はどんな魔法を使うの?」

「サンプソン「サムで良いよ」いや、でも…わかった、サム、お前の勢いでそのまま言いそうになったが、俺たちはこれから試合するかもしれないんだよな」

「そうだよ~」

「それなのになんで先にお互いの手の内を教えようとしているんだ。というかお前はなんで手の内をバラしてんだ?」


 サンプソン…いや、サムの勢いにというか無言のニコニコした笑顔の不思議な圧力に負けて呼び方を決めた俺は不思議に思ったことを質問した。


「えっ、知ってたんじゃないの」


 それはとても驚いたという表情で聞き返してきた。


「いや、なんで俺が知っていると思ったんだよ」

「えっ、生徒会に入っているし、さっき入り口で検査をしていたから知っているのかと思ったんだけどそうじゃなかったの」


 若干呆れながら俺が聞き返すと勘違いをおこしているようだった。


「俺は別に他の同級生の情報を教えてもらったりはしていないぞ。そんなことしたら平等じゃないからな。それに先輩からも教えないと言われているし」


 さっき入り口に先輩といたときに先輩からも釘を刺されたが、他の同級生の情報は教えてもらっていない。

 これは先輩たちからも言われたことだが、生徒会の仕事を手伝っていても基本的に試合で制限のある武器以外のことは教えると不平等とのことで教えないようになっているのだそうだ。

 ただこの時期はまだ一年生の情報が少ないこともあって情報委員会以外は一年生の情報を詳しく知らないらしい。


「そっか~。僕の勘違いか~」


 サムが俺の返事を聞いて少し落ち込んでしまったようで何だか俺が悪いことをしたような気分になってしまった。


「まあ、俺だけ教えてもらうのも悪いから俺の得意属性を教えておくと、俺が得意なのは光属性と闇属性が特に得意だ」

「えっ、いいの。これから試合するかもしれないのに教えちゃって」

「構わないよ。もう教えちゃったしね」

「ラフォス君は面白いね~。普通は教えないよ。これから試合するかもしれない相手に。しかも僕、これでも君より12階聖としての順位は上なんだよ」


 確かに普通だったらこれから対戦するかもしれない相手、しかも自分より順位が上の相手に手の内を明かさないだろう。

 でも俺はサムの雰囲気のせいか自然と自分の得意な属性を話していた。


「でも俺だけ知っているのも悪いし。あと、ラフォスで構わないよ」

「それじゃあそうさせてもらうよ。それにしても光属性と闇属性が得意って珍しい組み合わせだね」

「そうかな。俺はこの二つの属性はすぐに使えるようになったけど。それを言うならサムは火属性と氷属性が得意なんだろ。それも珍しいと思うんだが」


 魔法の属性には相性があって、それによって覚えやすい魔法の属性も決まっている。

 例えば俺なら光属性は水属性や氷属性との相性が良いこともあってこの二つの属性も他に比べて得意なものになる。

 ただ、闇属性は相性が良いものは少なく、唯一呪属性と相性が良いが、難易度では闇属性よりも上であることや、あまり呪属性を使おうとも思わないので呪属性は覚えていない。

 だからこそ俺やサムのように相反する二つの属性を得意とするものは少ない。

 ただし両親が相反する二つの属性をそれぞれ得意としていた場合などはその限りでもなく、少しだけ相反する二つの属性を得意とするものが産まれやすかったりもする。


「まあね。適正があったのもあるけど、この二つの属性は僕のやりたいことのために必要な属性だったからね」

「やりたいこと?」

「僕は見ている人を楽しませるような魔法を使えるようになりたいんだ。そのためにこの二つの属性は必要だったのもあるんだ」


「さぁ~続いては第三試合だ~。選手の入場だ!火属性を用いて中距離からの槍で敵を倒していくのか、フランク。対するはこちらも同じく槍使い。風属性の魔法を操り相手を翻弄するアルゴス。それでは試合開始!」


 ミスティア先輩の実況が始まり、一先ず会話を打ち切った俺たちは闘技場の結界の中に登場した二人の生徒を見た。


 試合開始の合図と共に二人はともに魔法を放つ準備を始め、さっそく魔法の打ち合いが始まった。


「第二試合にも見られたがさっそく魔法の打ち合いが始まった~。フランクが『ファイヤーアロー』や『ファイヤーバレット』を続けて放つなか、アルゴスは『アクアウォール』で防戦一方か~」


 結果から言うと、試合は単なる魔法の打ち合いでしかなかった。


「ここで試合終了だ~。勝者はフランク」


 二人は武器は持っているには持っているのだが、近づこうともせず、ただ魔法を打ち合っているだけであった。


「これは…」


 観ていて若干戸惑ってしまったほどだった。

 俺自身は入学してから模擬戦などもしているがそれは同じ班内のメンバーとだけであるから他の同級生の実力はわからなかった。

 だからこそ少し期待しながら試合を観たのだが、それはお互いの選手が試合開始の定位置からほとんど動かずにほとんど1つか2つの属性の魔法を魔力が切れるまで撃ち合っているというものだった。


「やっぱり反応に困るよね。さっきの第二試合もこんな感じだったし、僕が聞いた話だと一年生の魔武大会は例年12階聖と12階聖以外の少数の一年生以外は単なる魔法の打ち合いになるらしいよ。おもに武術に自信がなくて。まあ12階聖も魔法の打ち合いになることはあるらしいけど、今みたいに単調じゃなくもっと見ごたえのあるものになるらしいよ」

「もう少し実力のあるやつが多いところかと思っていたけど、やっぱり一年生の最初は実戦とかはむずかしいんだね。あと、だいぶ時間がかかるんだな」

「でも、12階聖や一部の生徒は強いらしいからそっちは注意しないとね。時間に関してはラフォス君が早すぎたんだよ。弱い魔法を中心に撃ち合ってるから10分くらいはかかるよ」


 サムの言葉通り第四試合や第五試合も10分くらいの時間がかかった。

 ちょうど昼休憩まで一時間くらいになったので俺は一先ず部屋に戻り昼食の準備をすることにした。


「俺はそろそろ昼食の準備をするから一端部屋に戻るよ」

「昼食の準備?まだだいぶ時間あると思うんだけど」

「俺のところに食べに来るやつがいるんだよ。その分の準備もしておかないと後が面倒なんだよな」

「大変そうだね」

「だから俺は先に闘技場からでるから。サムは試合頑張れよ」

「ラフォス君も頑張って~」


 俺を見送るサムの表情が若干ひきつってた気がするけれど気のせいだったと思う。

 絶対そうであってほしい。


 闘技場をでてすぐに寮に戻ったが、俺のいた闘技場とは微妙に距離が離れていたので時間がかかってしまった。


「ただいま。スキア、今日は誰も訪ねてきてない?」

「おかえりなさいませ。本日はまだ訪ねてきたものはおりません」

「留守番ありがとう。これから昼食の準備をするから手伝ってくれない」

「わかりました」


 留守番をしていたスキアに訪ねてきた人がいないか確認した後に、またスキアと料理に取りかかった。


「本日もスティーブン様とシルビア会長がいらっしゃるのですか」

「そうなんだよね。でも、もう少し人が増えそうだから今日はサンドイッチを多めに作っとこうか。サンドイッチなら余っても持ち運びできるしね」

「わかりました。材料はどうなさいますか」

「一先ずパンは二段目の棚の手前のやつをお願い。具材は今回は野菜中心で良いでしょ。合いそうな野菜を適当に持ってきてもらえる」

「わかりました」


 スキアが食材を用意している間に俺は調理器具の準備に入った。

 スキアのことだから多めに野菜は持ってきてくれるだろうし、サンドイッチだけだと文句を言いそうだから取り敢えずスープも作っておこう。


「これぐらいで足りるでしょうか」

「もう十分だよ。その量もって大丈夫なの」

「これくらいでしたら問題ありません」


 本来はスキアも含めて四人分に二人分ほどの量を考えていたのだが、その量は多く8人分ほどを一人で抱えて持ってきてくれた。

 スキアが大丈夫ということなので一先ず食材をおいてもらい、野菜、わ洗って調理を始めた。


「そういえば、今保管してある食料はあとどのくらいだった」

「パンでしたらあと八食分ほどですね。野菜の方はまちまちですが、こちらは多いものでもあと十食ほどの量だと思います」

「それじゃあそろそろ買いに行かなきゃね」

「それならば明日にでも買いに行って参ります」

「スキアは外に出てはいけないんだから俺が買ってくるよ」

「しかし、我が主に大量の食材を持たせるわけには…。やはりここは」

「そういう訳にもいかないでしょ。ならスキアはパンを焼いといてくれない」

「わかりました」


 調理しながら明日の予定も話し合っているうちにすぐに料理は完成した。

 あとは二人が来てから食べようと、少しの間スキアと雑談をしたのだった。
















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