第65話 トクさんの家が
二人は日を益すごとに親密になっていった。
それはもう、嫉妬を覚えるくらいに。
静子様は毎晩銀次さんとお会いしている。毎年静子様と見に行っていた花火大会は、今年は銀次さんと行かれてしまった。
休日は留守を任せられるようになり、仁と寿で過ごすことが多くなった。
八月もあと八日で終わる。
蝉の死骸も多く見かけるようになった。
死骸を拾い集め、強烈な残暑の中、街を綺麗に清掃する日々。勝手に神社の清掃もしていると、トクさんが参拝をしにやって来た。
「千福ちゃんがここにいる気がしたよ」
参拝を終えると話しかけてくる。
「ちょっと見せたいものがあるんだ。一緒に来てくれるかい」
「はい」
トクさんを待たせて清掃を終わらせると、あとをついて行く。トクさんの家だ。浩さんもいる。だが、家が青いシートで覆われている。
家が――壊されている。大工さん達が壊しにかかっている。
破壊されていく音がよく響く。私は屋根のほうまで見上げた。
空は青々としている。
「これは。新しく家を建てるのですか」
部屋が片付いていたのはこのためだったのか。随分古く感じる家だったから、もう替え時だったのかもしれない。
「そう。家を建て替えるんだよ」
「どんな家になるのか楽しみですね」
「本当に楽しみだ。ここはね、千福ちゃんの家になるのさ」
「え?」
浩さんとトクさんを交互に見つめる。浩さんも笑顔で頷く。
「私は隣町に住んでいる長男夫婦の家に厄介になることになったよ。お嫁さんに余計な口出しをしたくないから、距離を置いていたんだけどね。でもお嫁さんが誘ってくれて。翔とも一緒に住むんだよ。そうだ、翔も千福ちゃんの話をよくするようになってね――。まあ、それでこの家は取り壊して、町内のみんなで神社を建てることにしたんだよ」
聞いた途端、私はまたいつかのように全身から震えが止まらなくなった。
私の――社ができる?
「でも、そんなお金・・・・・・大変でしょう」
「椙森さんが宝くじを当てただろ? あれからみんなで神社を建てようっていう話が出ていてね。これまで宝くじが当たった人や他にも出資してくれる人が現れて神社を建設することになったんだ。家が取り壊されたらここは千福ちゃんの家になる。神社としては少し狭いかもしれないけれど」
ここが、神社になる? 私の住処となる・・・・・・? ちょっと信じられない。
訊ねると、町内の人々の中に反対する人はいなかったそうだ。
「御利益は病気治癒に商売繁盛、厄除け開運、夫婦円満、縁結び。あとはなにがいいかな」
浩さんがそんなことを言っている。気が早いねえ、とトクさんが笑った。
私がここに移るようになれば、そうしたお守りもできるのだろうか。私はただ呆然と、壊れていくトクさんの家を見つめていた。
「ゆくゆくは宗教法人として運営できるようにしたいと話し合っているけれどね、今はそういうのって難しいみたいなんだ。でももし認められなくてもここには立派なお社ができるよ。それに椙森さんの弟は、他県で神職に就いている。後々ここの神主になってくれるって承諾も得られた。みんな千福ちゃんを拝みにたくさん来るし、私たちも、千福ちゃんのことをこれからもどんどん広めていくからね」
「本当にいいのですか」
「構わないさ」
涙が頬を伝った。嬉し泣きをするのは何度目だろう。思わずトクさんに抱きついた。
「ありがとうございます・・・・・・」
「千福ちゃんは街のみんなをよくしてくれた。これはそのお礼さ。みんな千福ちゃんのことが大好きだよ」
私はきっと、周りの人々に恵まれていたのだ。椙森さんも当たった宝くじを私のために使って下さった。
「依代としての鏡や剣や勾玉もちゃんとした神具屋さんに頼んで今作ってもらっている。狛犬の像も、鳥居もね」
こんな急な形で頂けるなんて。
急に風が吹いて自分の身体に違和を感じた。着物が急にきつく感じられる。
「おや、千福ちゃん。あんた、大人の姿になっているよ」




