第58話 白札
家の中に再び入らせてもらうことにした。
「恐らく街に妖怪が忍び込み、奥様が買い物帰りかなにかのときにとり憑かれたのだと思います。あくまで推測でしかありませんが」
「なんで美千子に」
美千子さんというのか。
「このかたもまた、霊力をお持ちです。霊力を持つ者は、他の霊力を持つあらゆるものを呼び寄せてしまうのです。悪いものも善いものも。対策を考えないと、またとり憑かれてしまうでしょう」
静子様や静子様のご家族もきっと、魔物化したご先祖が治安の悪い街を引き寄せていたのかもしれない。
放火や空き巣、通り魔もその祟りで呼び寄せていた可能性が高い。
「見えるからと、特別感を持ちおごっていたのかもしれません・・・・・」
旦那様はそんなことを呟いている。
「それ、中二病っていうんだよ。私も人のこと言えないけどさ」
美穂さんが金一さんを煽る。金一さんは困惑気味に笑う。
私はお札を二枚ほど差し上げた。
ただ自分の名前が書いてあるだけだけれど、これを家の神棚かなにかに貼って頂ければ、私の気で魔は近づいては来られない。
奥様の手をもう一度握り、中の妖怪に出て行けと命じる。だが、美千子さんが苦しむだけで中に住み着いている妖怪は出ていく様子がない。
布団をはいで、美千子さんに「浄化」と書いた札をお腹に貼らせて頂く。
美千子さんはまた絶叫をあげる。が、私の気に耐えきれなくなったのか、腹部からニョキっと妖怪の黒い頭が出てきた。
チャンス!
「仁。お願い」
仁はすぐに女性から出てきた黒いものを頭からくわえて引きずり出した。
すると、美千子さんはそのまま無反応になった。
どうする。どっちが先か。美千子さんは体内の栄養分を全部食われている。
このまま放置すれば死ぬ。すぐ前には黒く目の赤い、身の丈三メートルほどの妖怪がいる。また、誰に取り憑いてもおかしくない。
美千子さんを治癒能力ですぐに治すか妖怪退治が先か。判断を間違えれば命取りになる。
両方やるしかない。一か八か。
持ち歩くようにしていた筆ペンで数秒の間に札に「妖刀」と書いてイメージをしてみる。
札は小さな剣に変わった。左手を美千子さんの体に当てて治癒を開始し、同時に右
手で剣を黒々とした目の赤い妖怪に投げつける。
剣は命中して、叫び声があがった。
仁が捕まえ踏みつける。
神剣はすぐに消えてなくなってしまった。私の力では物体を変化させることができても長時間持たない。
仁が踏みつけている間に美千子さんの体に両手をかざして、失われた栄養分や水分を急いで回復させる。
「お水を飲ませてあげて下さい」
言うと金一さんはすぐに部屋から出て行き、ペットボトルの水を持ってきて飲み口にストローを差し、意識のない美千子さんにゆっくり飲ませている。
「養分回復 治癒」と札に書いて美千子さんに貼り付け、再びもう一枚の札に「神剣妖刀」と書きイメージを少し変えて札から切っ先の鋭い剣に変化させた。
仁の強靱な力の前で、妖怪は逃げられないようだ。
「なぜとり憑いたの」
何度か訊ねてみるが、どうも言葉が通じない妖怪のようだった。ただ、栄養を吸っただけ、邪悪さを増している。この妖怪も幸せにしてあげたいものだけれど、このまま野放しにすれば街の人々が不幸になる。
どんなものであれ殺すのは気が引けるのだが、時には文字通り斬り捨てなければならないものもいる。
あの天狗のように。晴明様は容赦がなかった。
「ここで消えなさい。二度と戻ってこないように」
剣に通力を注いで突き刺すと、妖怪は断末魔の叫びをあげながら、黒い霧となって散った。
「お母さん!」
美穂さんの声が聞こえて振り返る。
呼吸が正常になっており、皮膚のあざも消えていた。
金一さんが美千子さんの額に手を当てていらっしゃる。
「熱も下がっている・・・・・・」




