第57話 人食い妖怪
「三日くらい前からです。美穂の前で急に手足にあざができて倒れたらしくて、連絡を貰って慌てて会社を早退しました。でも意識はあって、そのときは動けたので病院へ行って処方を出してもらったのです。ですが、薬は全然効きません。あざがある以上なにかの瘴気だとは思うのですが、今日は朝から意識がなくなってしまい特別苦しそうで。このあざのおかげで私もあらぬ疑いを医師からかけられまして・・・・・・本当にそのようなことはしておりません」
「ええ、それはわかります」
金一さんの心根は善良だから本当に奥様になにもしておらず、むしろ大切になさっていることが感じ取れる。そして確かに奥様から強力な邪悪さを感じる。
でも治せる。根拠もないのに、私には確かな自信が湧いてきた。
奥様の手を握ってみる。すると、ぎゃあああ、という悲鳴を上げてのたうち回り、苦しみ始めた。中に妖が入っているのは本当だ。
「お母さん」
美穂さんは心配そうに奥様をのぞき込んでいらっしゃる。
「恐らく、私の気で中の妖怪が苦しんだのだと思います。奥様と同化しているから奥様も」
体に手をかざし、深く探ってみることにした。原因の特定だ。
いる。黒く大きなものがなにかいる。
人喰い妖怪――。そう思った。人間の外側ではなく内側に侵入して中から喰らいつくす。この妖怪が、奥様の栄養を全て喰おうと中で肥えている。
「この街の治安はどうですか」
念のために訊ねる。
「それが、最近空き巣やひったくりが多く、商店街からもものがなくなるようで。何人か怪我をしているようです」
一旦外に出て、街の様子を全身で感じる。道路にもゴミがたくさん落ちており、よくない気が街全体を覆っている。
奥様にとり憑いた妖怪が邪悪さを呼んで、他の低級妖怪を呼び、人々の心を荒らし、街も荒らしている。
商店街から物がなくなるのは低級妖怪が食べ物を盗んでいるからだ。
いつ、この街に忍び込んだのか。そこまでは流石にわからないけれど、飢えた、しかも人の生気を生きる根源とする妖怪が人を喰いにどこからかやって来たのだろう。
そうした妖怪は奥様に取り憑いている一匹だけ。
空気に通力を注いでみる。
周囲の空気がすっと反転するかのように変わった。大丈夫。私の力は十分に通じる。
「結界」
手を合わせ呟くと、風がびゅうっと音を立て街中に広がっていく。
この街にいる低級妖怪が浄化されるのを感じる。邪悪な空気も一掃されていく。淀ん
だ空気は即座に綺麗になった。
これでもう、この街に邪悪なものは入れない。奥様にとり憑いた妖怪も逃げられない。




