第33話 盆踊り
人もいないし、風を操ってみることにした。
目を閉じ、空気に私の気を注ぎ込んでみる。そうして軽く木々が騒ぐようにイメージをする。
すると、茂った木々がざわざわと揺らめき始めた。
気と通力は異なる。気は単純にエネルギーを入れるだけ。
通力は、意識して場を綺麗にしたり、病を治したりする。
本当に操れるようになっている。風に通力を込めれば、治癒能力で枯れた草木を蘇らせ、まだ咲いていない花も咲かせることができるかもしれない。
「よし、これから鍛錬する。中学で風を吹かせたときは全く制御が効かなかったから、ちゃんと自在に操れるようにしなくちゃね」
「付き合います」
仁と寿はぴったり同じタイミングでそう言った。
一週間ほど街の人々の雑用を手伝い、神社巡りをしながら廃神社で風を起こす鍛錬に励み、ほとんど風を自分の思い通りに操れるようにした。
例年よりも早く梅雨が明け、七月も十五日がくる。
盆踊りの日だ。
静子様は早めに会社から帰宅されると、盆踊りへ行こうと今年も誘って下さった。
毎年お誘いを受けるのだ。そこには人々だけではなく、死者や神様や妖怪達もやってくる。
そのほとんどが悪さをするものではなく、ただ踊りを楽しんでいる者達だった。
これも私と人と、人ならざるものの交流の場と静子様はお考えになっているようだ。
「ねえ千福、この前頂いた百万円は、なにかに使った?」
青い浴衣に着替えた静子様が、背後からそう言った。
「まだなにも」
「じゃあ今日は自分のために使ってみたら?」
「人に使う前に自分が使うのは・・・・・・」
「堅いこと言っていないで」
静子様は引き出しから封筒をだし私に差し出す。言うとおりにしよう。万札しかないから一万でいいかなと思ったが、今日は様々なものが集まる。
万が一誰かのために使うこともあるかもしれない。なにか、なんとなく直感がそう言っている。
私は十五万ほどを財布に入れ、巾着を持った。多いと思うが変な予感がするのだ。
まずは今夜、どのようなものに出会えるのか楽しみだ。
仁や寿も連れて行こう。大山咋命様も今のところ、仁と寿の出入りを許して下さっている。その証拠に、白様と天様はなにも仰らない。
夜道をともに歩くと、父親に肩車をされた子供の姿がちらほらと見える。
神社の参道には屋台が並んでおり、たいそう賑やかだった。
お面に風車に綿飴。日本の夏の風物詩は、私の心も穏やかにさせてくれる。
「なにかやりたいことはある?」
静子様も、楽しそうに屋台を見て回っている。
「私は人々が楽しければそれでいいので特には・・・・・・」
人々の楽しいという感情が伝わってくる。それだけで満たされた気持ちになるのだ。
「欲がないなぁ。神様って欲がないのかな」
静子様はそのようなことを言いながら、射的を楽しんだあとかき氷を買われていた。
空には星が瞬き、太鼓の音が鳴り響いている。踊りたい人々は、社の前に設置されたやぐらの周りに集まっている。
曲がかかると人々は同時にゆっくりと踊り出す。
「移動して見てみましょうか」
静子様は社務所脇にあるベンチに座り、かき氷を手にしたまま踊りを鑑賞している。
私も隣に座って踊りを眺めていると、徐々に人々の目には見えない者達も踊りに混ざり始めた。
面をつけた妖怪や死者が楽しそうにリズムに合わせて踊っている。ふと――。
私の座っている対局の位置に、うろうろとしている女性の幽霊がいた。
面はつけていない。
踊っている人たちを必死に目をこらして見ている。
誰か探している?
「静子様、ちょっと席を外します」
「なにか見えているのね。行っていらっしゃい」
静子様に幽霊達の姿は見えないようだ。




