第32話 神と認められず
翌日から平常心を保つように心がけた。
大山咋命様に静子様とご挨拶をしに行く。
静子様はお休みで、一緒にいたい思いもあ
ったが一人でゆっくりされたいだろうと考え、仁と寿を連れて神社巡りを再開させた。
新しい、浅葱色の着物を着て文京区にある今宮神社を回り、一人一人の名前を呼んでご挨拶をして去ろうとしたとき、ふと風が吹いた。
神聖な気配がする。振り返ると、狩衣を身にまとった背の高い男性が私を見下ろしていた。神様だ。即座にそう思った。
「境内で神々の名を叫んでうるさいったらないわ。誰だおまえ」
粗相のないように名乗る。このかたはこの神社にいるどなたかだろうか。
「あなたは」
「国忍富」
喜びの感情が湧き上がった。初めて他の神様を御拝謁することができたのだ。
ただここに祀られていらっしゃる神ではない。どの神社にどの神様が祀られているのかは、ちゃんと調べてから行くことにしているし、日々知識は身につけている。
「国忍富様はなぜここに」
「ちょっと大国主に野暮用があっただけだ」
「おつとめお疲れ様でございます」
言うと私の顔をのぞき込む。
「お前が神?」
「一応は・・・・・・」
「見たことも聞いたこともない。神と名乗れるものなのか。確かにちっぽけな神気は感じられるが神と名乗ることを許されているのか? どうやってできたんだ」
生まれた経緯を正直に話した。すると気難しそうな顔をされて、最後は鼻で笑う。
「一人の人間から生まれた神? 忌々しい。そんな存在、俺は神とは認めん」
そう吐き捨て姿を消されてしまった。ああ、せっかく初めて七福神以外の神様に会えたと思ったのに弁解する間も許されなかった。まだ、どの神様も神とは認めては下さらない。
落ち込み、そうして影ながら応援してくれているのかもしれない恵比寿様のことを考えると、持ち直すことができた。けれど、腹が立ってくる。
「なによ忌々しいって! 静子様はお優しいかたなんだから!」
思わずそんな子供っぽいことを十一柱の神々がいる御前で叫ぶ。
「あ。これは大変失礼致しました」
拝殿に向かって一礼し、まだ怒りが静まらないまま仁の上に乗って去る。こんなことで怒っていては逆に笑いものになってしまうかもしれない。そんな恥と後悔を抱き、でもちょっと泣きたい気持ちにもなった。
「千福様。神々にも色々なかたがいらっしゃるかと」
仁なりに励ましてくれているのだろう。
「そうね・・・・・・こんなことで落ち込んでなんかいられない。私は私の仕事をするだけ」
「はい。それがよいかと」
隣を歩く寿が頷く。この二匹の存在に助けられた。それから神奈川のほうにも再び足を運び、様々な神社を巡る。
こうでもしていないと、昨日感じた恐れが再び湧き上がってきそうで怖かったのだ。
久々に神奈川に来たからと、私は仁と寿が暮らしていた廃神社へ再び行ってみた。誰の、なんの気配もない。
「千福様の気を感じます。もはやこの場が懐かしい・・・・・・」
仁が言った。
「結界も壊されていないみたいね。すぐ壊されるかと思っていたけど」
「この短期間にご成長されたために、この場の結界も強力なものになったのではないかと推察致します。だから誰も近づけないのでしょう」
寿が言う。成長するごとに私の通力も強くなっていくんだ。だから、国忍富神様もひょっとすると一時的にでも興味を持ってくれたのかもしれない。
「風、起こしてみてもいい」
「はい」




