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第19話 狛犬

仁と寿を連れて、シャッターの閉まったアーケードを抜けてから歩くこと五分。


大山咋命様が祀られている神社へと辿り着いた。白い鳥居を潜ろうとする。


すると――。


ふと、狛犬二匹が私の前に立ちはだかり威嚇し始めた。


一匹は犬で金色の毛並み、もう一匹は白い獅子の姿。花松神社の狛犬だ。私の前にこうした姿で現れるのは初めて。丁重に挨拶をしなくては。


「おはようございます。そして初めまして。私は千福と申します」


「それは知っております。毎日見ておりますからな」


犬のほうが言った。


「威嚇するのにもなにか理由があるのでしょうが、まずはあなたがたのお名前をお聞かせ願えませんでしょうか」


「我ははく。獅子の姿でいるのがてんです」


私は二匹に会釈をしてから一歩踏み出た。


「随分ご警戒なさっているようですが・・・・・・」


「この神聖な領域に、妖怪を入れるつもりでございますか」


白様と天様は仁と寿に対しよくない印象を持っているようだ。だが私に敬語を使っているということは、建前であったとしても礼儀を持って接して下さっているのだろう。


「昨日この二匹は私と契約を結びました。仁と寿です。もう妖怪ではございません」


「もとは妖。まだ小汚い獣臭さが残っているぞ」


天様が仁と寿にそう言っている。ここで喧嘩をするのもまずい。


正統な神の使いは、一体なにから生まれるのだろう。


仁と寿の屈辱感と我慢している思いが伝わってくるが、耐えてくれている。


私はその場に正座をして、頭を下げた。


「本日は私の使いとなりました仁と寿を大山咋命様にご紹介致したく参りました。彼らは非常に心優しく悪さを致しません。私の正式な僕でございます」


「少なくとも神と名乗る者が我らに土下座ですか。呆れますな」


「いいえ。天様と白様へ最上級の敬意を払ってのことでございます」


言うと、仁と寿が私の前に出て、向き直った。


「我ら、千福様に生涯付き従うつもりで参りました。今日はご挨拶に参っただけでございます。どうぞこちらへ立ち寄ることをお許し下さい。千福様に恥じぬよう努力し

て参ります」


天様と白様は威嚇を続けようとしたが、つと大人しくなった。


「主が赦すと申しております。千福殿、顔を上げて参られよ」


言われたとおり立ち上がる。道を開けてくれた。彼らには、大山咋命様の言葉が聞こえるのだろう。


ということは、毎日私がここへうかがっているのをどこからか見て下さっているのかもしれない。


仁と寿を連れ、お賽銭を入れて頭を下げる。


「おはようございます。千福です。今日はこちらの仁と寿と一緒にご挨拶に参りました」


「お初にお目にかかります。仁と申します。我ら妖ではございましたが千福様に命をお助け頂き、忠誠を誓っております。どうかこれからもお見知りおきを」


仁が厳かに言う。寿も拝殿に向かって話す。


「私は寿と申します。精一杯、千福様、そして人のお役に立てるよう頑張っていく所存でございます。我々がこの神域に立ち入ることをお許し下さい」


二匹とも頭を垂れる。ふんっ、という天様と白様の見下したような鼻息が聞こえてきたがここは我慢だ。守護獣としては仁や寿よりも遙かに格上の存在である。


でも、狛犬が自らの意思を持って姿を見せてくれたのは素直に嬉しかった。


私は一礼をすると、向き直った。


「参拝を許して頂きありがとうございます」


「それは主がそう言ったからですよ」


もう一度拝殿を見つめる。


だが、声はなにも聞こえてこない。

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