第20話 依頼遂行
花松町に祟りを起こす神がいる。名前は千福、子供の姿をしている。
幸福神と言われているが、その実一度目をつけられた人間は祟られる。
狼を二匹従え、祟れる人間はいないかといつも観察している。
千福に祟られた人間は、不幸が続いて変死する。
あるものは狂い、あるものは行方知れず。
千福を知っている者で変死した人間は後を絶たない。
祟りすなわち呪い。実は人を呪う神。千福に会ったら気をつけよ。
ちょっと反則技だけれど、これが昨日楠中学校に仕込んだメモの内容だ。
恐怖心を煽って学校中に噂が広がれば、私を視認できる人が増えるはず。
本当にいるのかもしれない、と思わせられれば、その恐怖の心理から私の姿を見ることができる。
都市伝説級の怖い話は中学生の好物だと考えて、このようなちょっと拙い文章を考えた。学校という狭い社会の中ですぐに広まり、信じる子が出てくるだろうと考えてのことだ。
楠中学校へ行き、学校が始まって終わるまでの一日を、仁と寿と共に堂々と教室の中で観察をしていた。
朝メモを見つけた子達が最初は笑っていたものの、あらゆるところにメモが置かれていたことに気づいて気味悪がる子達が昼頃にはちらほらと出てきた。
噂は広がり続けてお昼以降は伝言ゲームのように尾ひれまでつき始めている。
いじめられている子は二年三組の松島翔君。二年生の教室は全て一階にあり、翔君はクラスで孤立した存在になっていた。三組の雰囲気は随分とギスギスしている。
いじめっ子は三人いて、浜町裕紀、新川政夫、神田大地という名だ。彼らは執拗に翔君を罵倒し、殴る蹴るの暴行を加えているのに、教師も他の子達も傍観しているだけだったので、クラスに仁と寿を使って不思議現象を起こしてみた。ある子が落としたノートを拾っても拾っても勝手に落ちる、黒板消しが遠くまで飛ぶ、花瓶が割れる、ドアがガタガタ揺れる、等。
開けてあった窓から偶然蜂まで入ってきたのでクラスの子達はメモを次第に恐れ始めていた。
花にも花瓶にも罪はないけれど・・・・・・翔君を助けるためのまだ仕込み段階。ただこれ以上恐れられると姿が見え始める可能性が高くなるので、五時限目で私は教室を出て、校庭側の窓からひっそりと様子を見ることにした。
「あ!」
クラスの女の子と目が合ってしまって咄嗟に隠れる。
「どうしたの?」
「今そこに小さな女の子がいたの。着物でおかっぱっていうの?・・・・・・日本人形みたいな」
「嘘? どこ」
クラスの子達が一斉に窓の外を眺め回すので私は仁達と校舎の裏手へ回る。なんだか大変な騒ぎになってきた。これでもう私のことは多分、この学校の大部分の人が見られる。
全てのスケジュールを終えたのか、教室から外へ出てくる子達が増え始めた。
なんとか隠れながら翔君を見つけ、あとをつける。学校から遠回りをして川沿いの土手を歩いていた。例の三人が駆け寄って絡み始める。
「おい。いつも遠回りして俺たちから逃げる気か。おまえがいるから教室で変なことが起きたんじゃねーの」
言ったのは体格のよい大地。
頭をいきなり殴って鞄を目一杯翔君の背中に投げつけている。
「祟られているんだろおまえ」
次はつり目で細身の裕紀。
「花瓶代と花代、弁償してもらおうか。金出せよ、金」
政夫が金を寄越せと言わんばかりに翔君に手を出している。
「ねえよ。おまえらがみんなとっただろ。花瓶も花もお前らのものじゃねえし」
いつもお金を取られているんだ。恐喝か。これは酷い。
「金。今日も持ってきているんだろ。母ちゃんからもらってよ。出せよ」
拒めば暴力に発展する――。私は直感的に思って、仁と寿に命じた。
「ちょっと行って、あの子達を襲うふりをしてみて」
「御意」
二匹は駆け出し、四人の正面に回り込んだ。四人は急に立ち止まり固まる。
「ひっなんだこいつら。バカでかい。こんな犬いるのか」
大地が真っ先に言った。よし、全員視認している。だが通り過ぎる人々は私たちのことが見えていないようだ。
仁と寿は大きなうなり声を上げた。
「俺犬嫌いなんだよ。あっち行け!」
裕紀が仁に鞄を投げつけるが、仁は素早く交わす。
「でかすぎたろ。もしかしてメモにあったオオカミなんじゃ。俺たち食われるのか」
政夫が突如怯えだす。
「俺たち本当に祟られているのかも。千福という神はどこだよ」
裕紀が少し焦った表情になり、周囲を見渡す。私は土手から降りて隠れて見ていた。
「祟られているのは松島だろ。大体なんだよ、誰なんだよあのメモ流したやつ」
大地が言って仁と寿を睨みつける。
全長五メートルもある狼が近くにいれば、人間ならば誰だって怖いと感じるだろう。
仁と寿は大地、裕紀、政夫の三人に襲いかかる、ふりをする。明らかに手を抜いた襲いかただが、三人は大きさに圧倒されたのかひっくり返った。
そうして立ち上がると、一目散に逃げていく。




