第74話 グランドクエストに挑むなら、気合いをいれていけばいいじゃない
険しい旅路は、冒険の連続だった。
切り立った断崖絶壁を一歩ずつ登り、深い谷底へと続く急斜面を慎重に下り、そして光の届かない洞窟の奥へと足を踏み入れる。
病人にはきつい道のりだった。
眼下の絶景など、全く目に入らないほどに。
それでもマリーは蒼白な頬に紅を刷いて、なんとか皆の前では平静を装おうと必死に努めていた。
時折、彼女の息遣いが乱れ、額に汗が浮かぶのを僕は見逃さしていない。
そんなマリーの苦しみを少しでも和らげようと、険しい道では体を支えたり、熱を和らげるための氷嚢を密かに作ったりした。
休憩時は、皆に隠れてできるだけ寝かせて、体力を回復させる。
精一杯のサポートを心がけた。
彼女の負担を減らすことが、今の僕にできる唯一のことだった。
そして、丸二日間の過酷な行程を経て、ひたすら東へと突き進んだ洞窟の最奥部に辿り着いた。
松明の灯りが照らす先に、ついにそれは姿を現す。
大陸西部のグランドクエスト————その扉。
湿った石壁に青白い苔が張り付き、天井からは鍾乳石が牙のように垂れ下がっていた。
空気は重く澱んでおり、どこか生臭い匂いが鼻腔を刺激する。
————その奥で威容を誇る巨大な扉。
黒曜石のような漆黒の表面に、古代文字が金色に輝いている。
扉の高さは優に十メートルを超え、幅も同様に巨大で、まるで巨人族の城門のようだった。
扉の中央には複雑な紋様が刻まれ、七色の宝石が埋め込まれている。
それらの宝石は微かに脈動するように光を放ち、見る者に畏怖の念を抱かせた。
「————ついに、来たね」
「うん……」
巨大な扉を見上げて、前に立つマリーは僕に話しかける。
僕はというと、彼女の体調が心配で、マリーの横顔しか見ていなかった。
「二人とも、準備はいい?」
すると、後ろからレオナに声をかけられる。
笑顔を浮かべ、力強く肩を叩く。
「ここから先は何が起こるか分からねえ。気合い入れていこうぜ」
「足ひっぱんじゃねえぞ、お前ら」
「私達は————勇者————」
「ベストを————尽くす————」
他の皆も次々と励ましの言葉をかけてくれる。
頼もしすぎる勇者達。
それぞれの声に込められた想いが、洞窟の闇を打ち払うようだった。
「皆————これだけは言っておく」
レックスは真剣な表情で、仲間達を一人ずつ見渡す。
彼女の瞳には、リーダーとしての強い責任感と、皆を思う心が宿っている気がした。
そして————感情を込めて、皆に命令を出す。
「死ぬな。全員生きて、クエストをクリアするぞ!」
「「おう!!」」
その瞬間、仲間たちの結束がより一層固くなったのを感じた。
レックスが一人一人が強く頷くのを確認してから、踵を返す。
そして、前提クエストで手に入れた古い真鍮の鍵を、巨大な扉の中央にある鍵穴に差し込んだ。
鍵を回すと、まず低い唸り声のような音が響いた。
続いて、扉全体が淡い光に包まれ、刻まれた古代文字が一文字ずつ順番に輝いていく。
やがて、重厚な石の擦れる音と共に、扉がゆっくりと左右に開かれていく。
ついに、グランドクエストの扉が開かれた。
扉の向こうから、未知の世界の風が吹き抜けてくる。
「————行くぞ!」
皆、扉の中へと足を踏み入れて行った。
未知なる空間の奥を、しっかりと前を向いて歩を進めていく。
レックスはいつも以上に真剣な表情で、剣の柄に手を置きながら先頭を歩く。
ラウムとレオナは少しリラックスしながらも、肩を回して筋肉をほぐし、いつでも戦闘に入れるよう気合いを入れている。
武者丸は鋭い目つきで周囲を警戒し、集中力を極限まで高めている。
双子のニカとチカは二人歩幅を合わせ、いつもと変わらない様子で歩みを進めていた。
そして、僕はこの伝説的な舞台に身を置く緊張感で胸が高鳴りながらも、拳に力を入れて、やる気に満ち溢れていた。
足音が響くたびに、自分の心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
やってやるんだ。
マリーと一緒に、皆の役に立つんだ。
そして、マリーは————
「————マリー?」
僕は、ふと後ろを振り向く。
いつもなら僕の隣を歩いているはずの彼女の気配が、突然消えていた。
その時————マリーは石床に倒れ伏していた。
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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