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第22話 剣の腕がないなら、フルプレートアーマーを使えばいいじゃない

 朝食の後————


 2週間後の試練に向けて、僕とマリーは鍛錬をすることになる。


 マリーの強い要望————というよりも半ば命令に近い口調で、宮廷の騎士達が日々汗を流す由緒正しい訓練場を借り受けることとなった。

 彼女の地位があってこその特権だろう。


 宮廷の訓練場に一歩踏み入れた瞬間、息を呑むほどの豪華さに圧倒された。

 床には傷一つないよう磨き上げられた大理石が敷き詰められ、壁には歴代の騎士たちの輝かしい戦績を描いた壁画が並ぶ。

 武器や盾は全て手入れが行き渡っており、その一つ一つが芸術品のようだった。



 住む世界が違うんだなと思い知らされた。



 だがしかし————マリーは今、僕と同じ冒険者だ。


 お互いに支え合わないといけないバディ。

 華やかな宮廷の姫君であっても、同じ目標に向かって歩む仲間だ。


 あのドラゴンの前に立ちはだかるためには、マリーと共に強くならなければならない。

 これが今日の鍛錬の本当の目的だった————



「————というのも勿論、目的としてはあるけどね……」



 実を言えば、僕の胸の内にはもう一つ別の思惑が秘められていた。


 それは————マリーの裏人格を引き出そう大作戦その1。

 戦いに身を置けば、自然と出てくるんじゃないか作戦。


 マリーの裏人格が覚醒したあの瞬間は、闘技大会の決勝戦の最中だった。

 命の危険すら感じさせる緊迫した闘いの中で、突如として彼女の中の人格が目覚めたのだ。


 だからこそ、同じように剣を交える戦闘という極限状態に身を置けば、あの人格が再び表面化してくれるのではないかと考えたのだ。


 冒険者の世界では、平時は温厚でも、一旦剣を握れば獣のように変貌する者は珍しくない。

 それと同じ現象が、彼女にも起きると信じたいのだ。



 早く、あの人と再会したい。

 あの人の圧倒的な剣技を、息を呑むような力強さを、この身で実感したいと思っていた。


 心の中で密かに期待を膨らませていると————



「————待たせたなぁ」



 来た……!

 口調も変わっている……!


 もしかして、すでに人格が入れ替わって————



「我こそが! 偉大なる騎士王! マリナス・アンドレアスであるぞ!!」



 ガシャガシャとぎこちない金属音を響かせながら、自分の身長ほどもある巨大な大剣を、うんしょ、と持ち上げる。

 そこには、真新しい銀色のフルプレートアーマーに身を包んだマリーが、どこか誇らしげな表情で立っていた。



「え、ええ……?」


「どう? 一度やってみたかったの。どうなのよ?」


「どうって……顔見えないんで不審者かと思いましたよ」


「不審者って何よ!」



 ガシャガシャとまた音を立てて、僕に向かって怒り出すマリー。



「ふふーんだ。この装備は今回のために宮廷の鍛治職人に作らせたオーダーメイドの鎧なのよ! これを装備すれば、どんなモンスターの攻撃も跳ね返すことができるわ!」



 またも、自慢げに胸を張るマリー。


 彼女の身に纏った鎧は、確かに見事な代物だった。

 銀と金が混ざり合ったような輝きを放ち、胸当ては王国の紋章が浮き彫りにされている。


 だが、鎧の大きさとマリーの華奢な体型が釣り合っておらず、まるで子供が大人の衣装を着せられているような滑稽さがあった。

 重そうな鎧に押しつぶされないかと心配になるほどに。



「これでドラゴンでも()()()()()でもかかってこい————うわあああ!!」



 マリーは意気揚々と一歩前に踏み出そうとしただけで、あっけなくバランスを崩して前のめりに倒れ込んでしまった。



「ちょ、ちょっと〜〜! どうなってるのよこれ〜〜!!」



 ジタバタともがきながら、亀のように仰向けになったまま全く起き上がれないマリー。



 これは……先が思いやられる。




 気を取り直して、鍛錬を開始しよう。

 マリーには先ほどの鎧のほとんどを脱いでもらい、基本的な動きができるよう軽装にした。


 剣だけは、彼女が選んだ同じ大剣をそのまま持たせている。

 彼女の意志を尊重したつもりだが、それが正解だったのかは疑問だ。



「————コホン……まずは剣を振ってみましょう」


「うん……どうやって振るの?」


「まずは上段から振り下ろしてみましょう。上に振りかぶって————」



 僕はマリーの正面に立ち、手本を見せるように頭上高く剣を振りかぶった。

 背筋をピンと伸ばし、重心を低く安定させ、真っ直ぐに力強く振り下ろす。


 これらの動きは全て、勇者の戦いから独学で学び取った剣術だ。



「こんな感じです。さあ、振ってみてください」


「————こう? あ、すっぽ抜けた」


「どひゃあああ!? 危なあああい!!」



 マリーの握力から解放された大剣が、まるで投げ槍のように僕の方へ高速で飛んできた。

 僕は咄嗟に身体を捻り、ほんの僅かな差で避けることができた。


 冷や汗が背中を伝い落ちる。



「危ないじゃないですか! 剣はちゃんと握ってください!」


「あはは、ごめんごめん。いや————今のは私の編み出した遠距離攻撃よ!」


「モンスターの目の前で自分の獲物を投げ捨てたら、一巻の終わりですよ!」



 駄目かあ、とマリーは不貞腐れたように唇を尖らせる。

 どうやら剣術の基礎中の基礎から教えなければならないようだ。


 僕は深々とため息を吐き、心の中で忍耐を説いた。



「————いいですか? 剣の振り方の次は防御です。僕が振る方向に合わせて、剣を交えてください」


「こ、こう?」


「ちょいちょいちょい! 剣はバッテンになるように交えるんですよ! 同じ角度にしてどうするんですか!?」


「えへへ、今のドリフのコントみたいだったね!」


「何ですかトリュフのサンドって、お腹空いてるんですか?」


「誰が太ってるのよ!」



 そこまで言ってないですよ……


 駄目だ。

 こんなふんわりと和やかな空気では、裏人格が顔を出すはずもない。


 あの時はもっと息詰まるような緊迫感に満ちた空気感だったはずだ。

 できるだけその状況に近づけなければ、目的は達成できない。



「————分かりました。少し実戦をしましょう。本気で行くのでちゃんと守ってください!」


「ええー!? いきなり本気!?」



 問答無用で僕はマリーめがけて疾風のごとく駆け出した。


 足が地面に触れるか触れないかの速さで、まるで影のように訓練場を駆け巡る。

 一瞬で視界から消え、次の瞬間には別の場所から現れる。


 マリーの目がきょろきょろと追いかけるが、とても追いつかない。


 そして、一気に踏み込んでマリーの真上へと飛び上がった。



「おりゃあああっ!!」



 僕は全力ではないものの、それなりの力を込めて剣を振り下ろす。


 さあ、出てこい。

 このままでは攻撃を受けるぞ。


 僕の剣は、マリーにどんどん近づいていき————



「ぐへえ」



 峰打ちがマリーの頭頂部に見事にヒットした。

 思わずカエルのような奇妙な悲鳴をあげ、マリーはその場にうずくまるようにダウンしてしまった。



「……駄目かぁ」



 やはり剣を持つだけでは人格は変わらないようだ。

 危険が迫るだけでも変わらない。


 もっと別の条件、別の引き金があるのかもしれない。



「別の作戦が必要ですね……」



 僕は一旦諦めて次の策を考えることにする。

 とりあえず今日の鍛錬は、これで終了と言ってもいいだろう。


 僕は地面に投げ出されたままのマリーの剣を手に取った。



「————ん? 思ったより重い……」



 マリーの両手剣は予想以上の重量感があった。

 僕が普段扱っている剣よりもずっと重い。


 ————にも関わらず、彼女はこれを案外軽々と振り回していた。



 意外と、腕力があるんだな……


 生まれてからずっと王宮で育ったお姫様なのに……?



 僕は地面に伸びて、まだぐったりとしているマリーの方に視線を向ける。

 彼女は既に、スーピーと寝息を立てていた。

読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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