第23話 勇者に取り入りたければ、貢げばいいじゃない
楽をして勇者に認められる大作戦その2。
装備の強さでゴリ押し作戦————はあまり良くなかったみたいだ。
宮廷鍛治士のおっちゃんは、「これがあれば隕石が直撃しても生きてられるぞ!」と太鼓判を押しまくりだったが、そんな単純なものではないらしい。
まあ、転んで動けなくなるのは、確かに良くないか。
では————楽をして勇者に認められる大作戦その3。
名付けて、勇者に貢ぎまくって気に入られよう大作戦。
何か価値があるもの————最悪お金そのものでもいい————を勇者レックスに贈ることで、取り入ろうというのだ。
自分の存在をアピールしまくって、勇者レックスの印象に残る。
要はプレゼントしまくって気持ちよくさせようという魂胆だ。
誰だって、誰かにプレゼントされたら悪い気はしないだろう。
特に価値あるものならなおさらだ。
だがここで一つ問題なのは、私自身、誰かに贈り物をしたことがないということだ。
前世では誰かに何か贈るなんている金銭的余裕はなかった。
こっちに来てからは「王女様」という立場上、どちらかというと周囲から贈り物を受ける側だったのだ。
したがって、この世界では親密になりたい相手に何を贈るといいのか、リサーチする必要があった。
どんな贈り物が喜ばれるのか、何が相応しいのか、それを知らなければ作戦は始まらない。
最初はテレシーに聞こうと思ったが、テレシーは元々貴族ではない。
贈り物としてふさわしいものについては、分からない可能性がある。
というわけで、私が選んだ相談相手は————
「————それはもう、宝石ですわ!」
「宝石?」
私は相談相手である————リゼッタに聞き返す。
金色の巻き毛を完璧に整え、深紅のドレスに身を包んだリゼッタは、貴族の中の貴族、レーヴェンシュタイン家の娘だ。
彼女ならば、こういう上流社会のしきたりやマナーにも詳しいだろう。
洗練された物腰と優雅な立ち振る舞いは、生まれながらにして貴族の血を引く者の証だった。
私はリゼッタをお茶に誘い、贈り物は何を送ればいいのかを相談していた。
王宮の東棟にある小さなサロン。
白い大理石と淡い青色の装飾が施された居心地の良い空間だった。
レースのカーテン越しに差し込む陽光が、テーブルの上の銀食器を優しく照らしている。
「宝石! ジュエル! 美しければ美しいほど、希少であればあるほど、相手に深いメッセージが伝わるものですわ。格式高い贈り物と言えば、これが一番ですのよ」
「なるほどね〜〜、宝石かぁ……」
なんかそれっぽい宝石持ってたかなぁ。
そりゃあ晩餐会や儀式の時に付けるアクセサリーに色々ついてるけど、そっから引っこ抜くのもどうかと思うし。
てかそんなことしたら私が困るし。
「————どなたか、気になる殿方がいらっしゃるんですの?」
「ぶふうううっ!」
思わず気管に入った紅茶を私は吹き出した。
テーブルクロスに茶色いしみができ、慌ててナプキンで拭いながら咳き込む。
頬が熱くなるのを感じた。
「異性にアタックするんでしたら、『ルビー』がいいですわよ! ルビーは『純愛』『情熱的な愛』という意味が込められていて————」
「ちょちょちょ、そういうんじゃない————ですわよ……!」
慌てて訂正しようとして声を荒げてしまいそうになるのを何とか堪える。
勇者レックスは女性だ。
断じてそういう対象ではない。
そんな誤解を招くつもりはさらさらなかった。
「気になる人がいるとか、誰かにアタックとか————その……恋愛的な意味じゃありませんよ。どちらかというと力のある人に取り入ろうというか————よくある話じゃないですか」
「そうでしたの……つまらないですわね」
リゼッタはそう言いながら、優雅な仕草で紅茶を一口含む。
なんとか誤解は解けたみたいだ。
ほっと胸をなでおろす。
あれ————どうして『気になる人』とか『恋愛』って言葉を口にした時、頭の中にちらちらとクロの表情がチラつくのだ。
一番最近交流した異性だからだろうか————きっとそうだね。
「わたくしはルビーを贈りましたわよ————アンドレアス国王に」
「ぶふううううっ!!」
またもや紅茶を吐き出してしまう。
「え? え? なんで?」
「勿論、そういう意味で贈りましたわ。私は国王様の側室になる女ですもの」
心臓が一拍飛び跳ねる。
いやそれって————
あの時、ヴィオレッタも言っていたやつじゃないか。
お母様を捨て、側室を迎え、自分たちの血の通った新たな王を立てようというレーヴェンシュタイン家の策略。
でも、あの話は、私が王女になれば無くなるのではなかったのか。
「リゼッタ、それって————」
「————聞きましたわよ。マリナス様」
私の言葉を遮って、リゼッタは話をし出す。
整った顔立ちの彼女は薄く笑う。
その微笑みの裏に隠された計算高さが透けて見える気がした。
「冒険者になったんですってね————冒険者として功績を立てて、国王様に認められるために」
全ては女王になるため。
王位継承権を得るため。
それが私の目標だった。
しかし、その事実がリゼッタにまで知られていたとは。
「らしくありませんわね。マリナス様は権力争いにおかれましてももっと堅実に動かれるイメージがありました。冒険者になるとは随分と大胆な挑戦ですこと」
「あれは、成り行きで仕方なく……」
自分でなりたくて冒険者になったわけではない。
だが、それのきっかけ————闘技大会に単身で乗り込んだのは、確かに大胆過ぎる行動だ。
窮地に追い込まれた獣のように、無謀な選択をしてしまったことは、らしくなかった。
「まあいずれにしても、わたくしも負けてられませんわね。わたくしはお母様に言われた通り、国王様の側室を目指しますわ」
そして、孕んだ子供を、次の国王にしますわ————
リゼッタの澄んだ瞳に野心が垣間見えた。
レーヴェンシュタイン家の思惑をはっきりと告げられ、私は背筋が凍るのを感じる。
負けてられない。
そんなことをされれば、私の女王への道が断たれてしまうのだから。
私は指先に力が入るのを感じた。
「どちらが先に成功するか、勝負ですわね」
「————望むところよ……!」
バチバチと視線をぶつけ合う。
空気が張り詰め、ただのお茶会がピリピリとしたものになった。
カップに残された紅茶も冷めきってしまった。
リゼッタは席を立ち、ドレスの裾を優雅に持ち上げながらその場を後にしようとする。
だが、何かを思いついたように立ち止まった。
彼女の唇が小さな弧を描く。
「ああ————贈り物に相応しい宝石ですが、この王宮のどこかに、強い魔力のこもった宝石が隠されているという噂を耳にしたことがありますわ。それを贈られてはいかがです?」
相手が冒険者————力を求めるお方ならばね。
リゼッタはそう言って、ドアを静かに閉め、部屋を後にした。
なるほど。私の考えも全てお見通しだったらしい。
勇者に近づこうとしている意図まで。
あの母親同様、リゼッタも油断できない存在だった。
美しい容姿と上品な言葉遣いの下には、鋭利な刃が隠されているのだろう。
絶対、負けないんだから……!
私は拳を強く握りしめる。
指に食い込む爪の感覚が、私の決意をさらに固くしていた。
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
もしよければ↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!
ブックマークもお願いします!
あなたの応援が、作者の更新の原動力になります!
よろしくお願いします!




