提案
三日後の会議室。
エマリー軍代理と話した夜にフィール庶務部長に身柄の明け渡しを伝え、翌日に命令をうずうずと待っていた調査局が対象を拘束。
その日の翌日から調査局による取り調べと庶務部警察課への引き渡しが開始された。
今回の行政調整会議でその報告がなされた。
「拘束した人間は、参謀本部作戦課職員が三人。第十七師団長、参謀長が二人。さらにその第十七師団長の友人だった第四師団参謀長を拘束しました。参謀本部作戦課職員の三人は昨日のうちに庶務部警察課に身柄を引き渡し、第十七師団関係者、第四師団参謀長は今日中に引き渡します」
発言者はエマリー軍代理。
「庶務部警察課は参謀本部作戦課職員の三人の身柄の受け渡しが完了したことを確認しています」
フィール庶務部長が事実確認をした。
「残る四人も早く引き渡すように。暗殺されては困る」
「分かっています。軍をご信頼ください」
エマリー軍代理が不服そうに言った。
「警察課は三人の取り調べをしているわけか」
「はい。しかし三人とも黙秘です」
「先に行われた、調査局によるヒアリングでは何か言っていなかったのか?」
エマリー軍代理に問いかける。
「いいえ。自分に容疑がかけられていると分かったとたん黙秘するようになりました」
「事情聴取から真相解明をすることは難しそうだな」
相当難航しそうだ。
「まあいい。これで現段階での疑わしい人間は軍から排除できたんだな?」
「はい」
エマリー軍代理の言葉を聞いて私は安心する。
「十日後に行われるネルシイの大規模軍事演習に対抗するため、我がネルシイも国境付近で軍事演習を行う。軍はその準備をするように」
「はい」
「フィール外交部長はフェーム諸侯連合、ネルシイ商業諸国連合と緊張緩和を名目に国際的な枠組みを作るよう提案してほしい」
「国際的な枠組み…?」
「ああ。その国際会議の名前をフェーニング連邦にしておいて」
「え…?フェーム諸侯連合はともかくとして、ネルシイ商業諸国連合が応じるとは思えません。ネルシイ側はユマイルと合併なんて死んでもごめんですよ」
「だから、実体はなくていい。フェーニング連邦という枠組みだけ作ってくれればいいんだ。関税撤廃や国家主権の制約とかは絶対に持ち出すな」
「なるほど…箱だけ作って有耶無耶にして、段階的に大陸統合したいということですか?」
「そうだ」
「そんな上手く乗りますかね…」
「乗るさ。今はフェーム諸侯連合が独立国だと言う体でやっているわけだから、フェーム諸侯連合の利権をネルシイ側に渡さないことにしている。
しかし、実体の無いとは言えフェーニング連邦という大陸統一国家を作ってしまえば、堂々とネルシイはフェーム諸侯連合に参入できる。ネルシイの大企業たちはフェーム諸侯連合の利権に組み入ってぼろ儲けしたいと企んでいる奴らばかりで、逆にネルシイ政府は金のかかる戦争なんてやりたくない。フェーニング連邦という空っぽな枠組みを作る代わりに、ユマイルがネルシイにフェームの利権を明け渡すわけで、彼らから見れば実質的な譲歩に見えるわけだ」
「うーん…」
フィール外交部長は納得できぬよう、唸った。
「これが実現すれば平和的な大陸統一になるわけで、ネルシイとの大戦争を起こさずに済む。平和はフィール外交部長の望みじゃないのか?」
「…分かりました。交渉してみます。私もネルシイとの絶対に戦争は避けたいですし、やれることをやります」
「頼む」
「軍事演習の際、絶対に軍を越境させないようにしてほしい。万が一軍事衝突が起きれば、交渉は決裂するだろう。あくまでも、ネルシイが侵略してきたら返り討ちにするというメッセージが送れればいい」
「分かりました」
「エマリー軍代理には難しい役目を押し付けてすまない。軍を信用できないと言っているが、結局外交には相手国と対等な軍隊が必要になる」
「いいえ。それが仕事ですから」
「行政区内の警備はどこがやっている?」
続けてエマリー軍代理に聞く。
「フェーム帝国の戦争の休暇明けの第三師団です。第十七師団よりは明らかに信頼できると確信しています」
「そうか。またユマイルの政治家が軍に殺されては、もはやどこの国の軍隊なのか分からない」
「二度と同じ過ちは繰り返しません。軍として規律を徹底します」
「軍人に二言はないぞ。しっかり頼む」




