不穏
午後議長の書類を認可する仕事をやったのち、私はエマリー軍代理のいる軍代理の部屋まで向かった。
私は軍代理の部屋をノックする。
「どうぞ」
よく響く声が聞こえたため、私はドアを開けて中に入った。
「わざわざ来ていただいて申し訳ありません、ウォール議長」
「いやいい」
「ソファーがありますので、おかけください」
すると大きな部屋の右隣に、三人掛けソファーが二つ向かい合って存在していた。
私が手前のほうに座ると、エマリー軍代理が向かい合い壁側のソファーに座った。
「わざわざ内密に話したいことというと」
「先行調査結果に示されて、今は最終調査結果を作成している段階です」
「ああ」
「思ったよりきな臭いです。注意したほうがよろしいかと思います」
私がエマリー軍代理のことを真っ直ぐ見つめる。エマリー軍代理も決して視線をそらさなかった。
「きな臭い?」
「ええ。第十七師団が首都の行政区警備へ転用された際、彼らは人手不足でした。第十七師団長が参謀本部作戦課の人間と掛け合い、いくつかの師団から人を呼んでもらうことになったんですが、その時に参謀本部側は『第三十三師団のエブレイ・ユートク准尉をよこしてほしい』と師団長に言われたそうです」
「まさか、軍がエブレイ准尉を使って意図的にハンナを殺させたというのか?」
「分かりません。証拠が参謀本部作戦課職員の証言しかなく、非公式の場での発言だったようなので書類等は何も」
「しっかり調べろ。有耶無耶にしてはならない。個人的な恨みではなく軍が組織的にかかわっていたなら、もはや文民統制の問題だ」
「もちろんです」
私はため息をついた。
「事実なら問題の次元が全く違ってくる」
「このことなんですが、本来最終調査報告書の発表を待つべきです。しかし参謀本部としては、二週間後にあるネルシイの大規模軍事演習にぶつけて、ネルシイとの国境付近で軍事演習を行いたいと考えています。
最終調査報告書を待ってから関係者を拘束してからでは間に合いません。参謀本部内部の人間も関わっているわけで」
「だから今のうちに左遷と調査局による拘束を行いたいと。軍がトカゲのしっぽ切りをやっているようにしか見えないだろう」
「早く行動したいというのは、おっしゃる通りです。我が国だけの問題ならばそれで問題ありませんが、ネルシイとの関係があります。我が軍が全く準備ができていない状況で、ネルシイが軍事演習ののち攻め込んで来た場合どうなさるおつもりですか?」
「つまり、ハンナ諜報長官の死は軍を円滑に進めるうえで障害になっていて早く火消がしたい、そういうことだな?」
私は苛立ちを抑えられなかった。
「そういうことではありませんが、ネルシイは私たちユマイルの国内事情を全く考慮してくれませんよ」
私は天井を見上げた。難しく難解な問題だった。色々な人々の利権が関わって、考えれば考えるほどこんがらがり、疲れる。
放棄してしまいたかった。だが、そのたびにハンナの死がよぎる。ここで私が大陸統一を諦めれば、彼女の死は無駄になる。
「…分かった、調査局の拘束を許可しよう。ただし、一つだけ条件がある」
「なんでしょう」
「拘束後、彼らの身柄は庶務部警察課に引き渡せ。軍は疑わしい人間を排除したいのだから、それで問題ないはずだ。参謀本部調査局に預けると、口封じに始末される恐れがある」
「分かりました。フィール庶務部長に私から伝えておきます」
「いや、いい。私が夜、フィール庶務部長に伝える」
エマリー軍代理が苦笑した。
「私はちゃんと引き渡しますよ」
「参謀本部の人間がハンナ諜報長官の死に関わっている恐れがあるわけだ。今の軍を信用できない」




