ラブストーリーゲームは突然に
私が白い生き物、カツシロウを握って暴れるのを、藤崎というと男性がなだめてきた。
「茉莉花様、どうか落ち着いて。もう怖いことはありません。
私が茉莉花様をお守りしておりますから」
そのまま聞いたら悩殺ものの台詞も、いまの私には落ち着かない。
「守る? ていうか、貴方はなんなの? この白いナマモノのやったことがわかってるの? てか、召喚とかなんなわけ?」
肩で息をしながら聞き返すと、白いナマモノを握って振り回した手をがっしりと、でも痛くないように掴んで、男性が言った。
「私にもわかりません、が、なにものかかに襲われて学校の裏で倒れているところを見つけたとき、この白いものがそばにうずくまっていました。
もう、あなた様を一人にはしません。
私が油断していたのです。ご婦人用の化粧室の中までは確認できず、外でお待ちしていたのが悪かったのです。
あなた様はまだ学校に慣れていらっしゃらない上に、周りのお嬢様方の一部が目をつけられている。ならば、やはり、個室をお取りすれば良かったのです。
幸い、貴方様を連れ去った先にいらした勝浦様が倒れた貴方様を見つけてくださった。間をおかずに学校の事務所経由でご連絡下さったので、すぐにお迎えに上がれました。
今後はこのようなことのないように、重ねて身辺を守らせていただきますので、ご容赦ください」
一気にそう言われて、暴れるのをやめた。
え?
トイレに行った隙に何かに襲われて?
勝浦様?
勝浦…
そこまで聞いて、ふと頭の中にある画面が思い浮かんだ。
あ、そういえば。
つい半年ほど前、始めた携帯のゲーム。
乙女ゲーとかいうやつ。
「課金しないと深い話までわからないんだけど、無課金でも遊べるの。
毎日ログインする時にフレンドにハートを送り合うと、お互いに1話話を進められるから、一緒にやってくれない?」
そうねだられて、ついつい惰性でやっていた、ソーシャルゲーム。
それの冒頭がそんな感じだったような…
確か、「現代の学園生活で幕末ヒーローと恋に落ちる!百花繚乱☆恋月夜」だったか?
で…茉莉花…あ、あぁ〜
心当たりがある。
それ、私が作った主人公の名前だ…
部屋の壁にある鏡を見れば、少し明るい茶色のショートボブの眼鏡の女の子が、こちらを見てた。
右のまなじりに、ホクロが一つ。
あぁ… うん、心当たりあるわぁ。
それは私が作ったアバターの特徴だった。
眼鏡とホクロは、私の、若い頃の姿を模したもので。
そう。亡くなったあの人と会ったばかりの頃のだわ…
そう気付くと、ベットの横で立ち上がって暴れていた体から力が抜けて、膝から崩れ落ちそうになった。
それをとっさに脇から支えてベッドに腰掛けさせてくれる、藤崎さんとやらの腕の頼もしさに頼りながら、そのまま再び私は意識を手放した。
ゆっくりゆっくり更新します。