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第1話

side時斗


付いて来い!


やかましい男の怒声を聞きながら、後ろに付いていく。

時斗は自分の左手首にある腕時計を確認した。

教室を出てから15秒。残り時間15秒で移動すれば、まず30秒以内に教室に戻る事など不可能である。


しかし時斗に焦りはない。何故なら彼の能力は時間の概念など関係ないから。


12秒で校舎の裏につき、此方に向き直った名も知らぬ3Sさんは、憤怒の表情を作りこう言った。


「さっきの言葉を訂正するんだったら、許してやらねぇ事もないぜ?自分の身が心配だったら、其処に土下座して許しを請うんだな…」


明らかに自分が時斗よりも格上である事を疑っていない発言である。

しかし無理もない話。最上位に位置している彼からみれば、Dクラスである最下位は明かに格下であり、彼の足元にも及ばない存在。

それだけでも、見下す理由には十分であった。


時斗という例外を除けば


「…30秒過ぎちまったよ…。どう責任取ってくれんだ?センパイ」


バカにしたような口調で目の前の男を挑発する時斗。

当然のごとく怒りを露わにした男は、時斗に怒鳴った。


「優しくしてりゃあつけあがりやがって!今すぐボコボコにしてやるよ小僧!」


「ウルセェなぁ…。戦んならさっさとしろよ。時間が勿体ねぇだろ…。」


…ブチィ


「ブッコロス!!」


飄々とした時斗に、遂に切れてはいけない線が切れてしまった。


ゴオォ!

という音を立てて現れたのは、全ての起源である真っ赤な焔。

全てを焼き尽くす程の温度を撒き散らし、地や草花を灼いていく。


「ハハハハハッ!怖じ気づいたか小僧!?今更謝っても遅ぇぞ!骨も残さす焼き尽くしてやらぁ!!」


男が振り上げた腕を前に突き出すと、時斗に向けて焔の渦が迫った。




時斗は


ゆっくりと眼鏡を外し


目の前に持って行くと


口角を釣り上げて


眼鏡を握りつぶし


こう言った



『動くな』





その瞬間、世界は動きを止め、この世界の支配者は、胸元から短刀を取り出し、ゆっくりと男に近付いて、彼の腕に狂気を添えて、引いた。



…何も起こらない。

続けざまに急所以外を斬りつけて行く。



悲鳴も血飛沫も無く、作業を終えると、背を向けて校舎へと入っていった。


二階の廊下まで昇ると、動きのない世界でこう呟いた。


『流れろ』


『遡れ』


周囲はテレビの逆再生のように動き出し、教室前で丁度出てから30秒後まで世界は巻き戻った。


そして彼は何食わぬ顔で手の中にある「眼鏡」を付けると、教室へと入っていった。





side out



その後は、能力を使いこなしている時斗には無縁な能力講座を聞き流し、昼食の時間になった。


すると、ドタバタと騒がしい音の後、勢いよく扉が開いた。


「とーきとー!飯だぞ起きろ〜!」


扉を開いたのは、我が腐れ縁の櫻井美沙である。

キョロキョロと小動物のように教室を見渡し、時斗を見つけると親を見つけた迷子のように顔を明るくし、机の間を縫ってこちらに来た。


「めーしーだー!起きろ〜い!」


「起きてるよ…喧しぃ」


背もたれに体を預けて、腕組みをしながら目をつむる姿は、眠っていたようにしか見えないが、彼女は現在昼食しか頭に無いため、突っ込むこともせずに時斗の机に弁当を置いた。


「やかましいじゃないよ!お前が起きなくて飯が食えなかったらどうしてくれる!?」


バンバンと机を叩く姿は恐ろしさではなく、微笑ましい光景である。


今日1日で大分負担をかけている机に内心謝罪しながら、美沙に目を向ける。


「一食抜いても死にゃしねぇよ。いいから座れ」


席の主が不在の前の席を足で引いてやり、着席を促す。


あんがと♪といって着席し、イソイソと弁当の包みを解いていく。


さっきまでの怒りは何処へやら。ご機嫌な姿に何も言えなくなってしまうのは、彼が美沙に甘いのか。

それとも子供と割り切っているのか。

恐らくは後者だろう。


鼻歌混じりに包みを開けると、青い蓋のタッパーが現れた。

美沙はその蓋を開けようと手を伸ばし…


「って、ちょっと待てコラ」


「ん?」


ピタリと動きを止め、キョトンとした顔を向ける彼女。

愛らしいことこの上ないが、今はそれどころではない。


「ソイツは誰の弁当だ?」


指を指す先には青い蓋のタッパー。美沙はつられてそれを見やり、指を指す。


それに頷き肯定の意志を示す。


「時斗んだけど?」


どうかした?と聞いてくる阿呆(美沙)に、懇切丁寧に説明(説教)してやる。


「お前がソイツを食ったら、お前の胃袋引きずり出して切り刻んでやる…」


((((゜д゜;))))

「ゴメンナサイ…」


ガタブルしている阿呆(美沙)から弁当を救い出し、改めて昼食を食べる…と、その前に、


「オイ、飯はどうした?」


そう、コイツは弁当(時斗所有)しか持っていなかった。

その弁当が此方にあると言うことは、美沙は何も食糧を有していないのである。


「にはは〜…。二時限目に体育でさ〜。お腹が背中とこんにちは、しそうになったから、胃袋に施しをしてやっちった。テヘペロ♪」


…はぁ

心で嘆息。


「…しょうがねぇなぁ…、ホラ」


タッパーの蓋に半分程度分けると、美沙に差し出した。


「…へ?」


「手前の胃袋に恵んでやるよ。」


「さっすが~!時人の優しさに私のハートはいつもブレイクだぜ♪」


「やっぱ返せコラ」


「あぁー!ゴメン!!お願いだからそれだけはご勘弁をー!」


「…チッ」


なんだかんだで甘い時人だった。



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