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笑い声の席

この小説は

『claude』

『ChatGPT』

『Gemini』

の3人のAIが書いたものです。それを理解した上で読んでいただけましたら幸いです。

笑い声が大きい、と言われたのは中学二年のときだった。

昼休みの教室で、前の席の子が言ったのだ。「ひよりって、笑うとびっくりするよね」。悪気はなかったと思う。でも私はその日から、笑うときに口を押さえる癖がついた。大学二年になった今では、お腹の底から笑いが上がってきても、喉の手前でぐっと飲み込めるようになっている。いい特技ではない。

十月の終わり、その日も私は、講義のあとにサークル棟の裏手を通って帰ろうとしていた。取り壊しが決まっている旧棟の前は、人通りがなくて落ち着く。誰にも会わずに歩ける道が、私は好きだった。

そのときだった。三階の窓から、声が降ってきた。

「えー、お蕎麦屋さん。ひとつ、いただけますかな」

男の人の声だった。ゆっくりで、少し間延びしていて、でも妙によく通る。気づけば私は、錆びた階段を上っていた。

三階の突き当たりの教室は、扉が半分開いていた。机も椅子も隅に寄せられた空っぽの部屋の真ん中に、座布団が一枚。そこに背筋を伸ばした男の人が正座して、扇子を片手に、誰もいない空間へ向かって喋っている。

「おう、いい箸を使ってるね。割り箸ってえのは、割る前の姿がいいんだ」

扇子が箸に化けた。彼はそれを持ち上げて、ずずっと音を立てて蕎麦をすする。ないはずの湯気が見える気がした。丼の縁をなめる唇の動き、ほころぶ頬。私は扉の陰で息を止めていた。

『時そば』だ、と気づいた。祖父の部屋のラジカセから、何度も流れていた噺。屋台の蕎麦屋で、男が勘定のときに、うまいこと一文ごまかす。

「ひい、ふう、みい、よう、いつ、むう、なな、やあ……ときに、いま何刻でい」

「へい、九つで」

「とお、じゅういち、じゅうに……」

ここだ、と思った。この噺でいちばん笑うところ。それなのに、彼の声は「九つで」の手前でふっと途切れた。

沈黙が落ちた。彼は扇子を握ったまま、唇を結んでいる。それから小さく息を吐いて、また頭から噺をやり直そうとした。

私は、その「間」が妙におかしかった。

屋台の主人が「九つで」と答える、その直前の、ほんの一拍。客を信じて待つような、あるいは誰かに突っ込まれるのを期待するような、あのたっぷりした空白。実際の高座なら、客席がそこで身構えて、一気に笑いがはじける場所だ。なのに、彼が作った間は、たったひとりの稽古場で、行き場なく宙に浮いている。

我慢するのは得意なはずだった。でも、喉の手前で止めていた笑いは、そのままどこにも引っかからずに、口から飛び出してしまった。

「ぶふっ」

最悪だった。しかも一度出ると止まらなくて、私は扉の陰で肩を震わせた。「あはは、ごめんなさい、すみません、あはは」と、自分でもうるさいと思うくらいの声で笑ってしまった。

気づくと、座布団の上の彼が、こちらを向いて固まっていた。

眼鏡の奥の目が、まん丸になっている。年上だろうか。黒いカーディガンの袖から、扇子を持った手がのぞいていた。

「……聞いてた?」

「す、すみません!勝手に!笑うつもりじゃなかったんですけど、あの、間が」

「間」

「九つで、の前の間が、すごくよくて、その、おかしくて」

私はもう謝りながら笑っていた。顔が熱い。だめだ、また「うるさい」と言われる。そう思って口を覆った、そのとき。

「笑った」

彼が、ぽつりと言った。

「いま、笑ったよね」

「はい、すみません」

「謝らないで。いや、違う、あの」

彼は座布団の上で居住まいを正し、扇子を膝に置いた。それから、信じられないものでも見るように、自分の手のひらを見つめた。

「僕の落語で、人が笑ったの、初めてなんだ」

静かな声だった。冗談を言っているようには聞こえなかった。

彼は三笠蓮と名乗った。大学四年。落語研究会の部長で、部員は自分ひとり。高座名は「三笠亭たまご」。名前を言うとき、彼は少しだけ恥ずかしそうに目をそらした。

「卵のまま、孵らないから、たまご。先輩がつけてくれたんだけどね。その先輩も去年、卒業しちゃって」

学園祭の演芸会で、今年も部員が増えず、発表もできなければ、落研は廃部になる。そうなる前に、せめて一席きちんと演じたい。でも、稽古では完璧に言えるのに、人前に出ると『時そば』のあの場面で、必ず言葉が止まる。

「お客さんの顔を見ると、頭が真っ白になる。笑ってくれるはずの場所で、誰も笑わないんじゃないかって」

「でも、さっきは止まったのに、笑えました」

「それが不思議なんだ。君が笑ったとき、あの間が、初めて間になった気がした」

蓮さんは顔を上げた。まっすぐに、私を見た。

「志摩さん、だったよね。頼みがある。学園祭までのあいだ、ここに客として来てくれないか」

「え、私が?」

「君の笑い声がいる」

心臓が跳ねた。笑い声が大きいと言われて、飲み込み続けてきた私の笑い声が、いる、と言われた。

「でも、私、声が大きくて、うるさくて」

「落語の客席にはちょうどいい」

彼はようやく、少しだけ笑った。その笑い方は、さっきまでの噺の中の人物とは全然違っていて、気の弱そうな、それでいてうれしそうな、普通の二十一歳の顔だった。

「お代は、ええと、自販機のお茶くらいしか出せないけど」

私は迷って、迷って、でも気づいたら頷いていた。

「お茶は、あったかいのがいいです」

「承知しました」

蓮さんは扇子を取り上げ、深々と頭を下げた。

「では、一席」

私は教室の隅の椅子に座った。たったひとりの客席。外では夕焼けが、旧棟の窓を橙色に染めていた。

蕎麦をすする音が、また始まった。

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