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でんでん伝説  作者: 彼岸花


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16/16

でんでんでんせつ

 ダイガン卿が謀反を起こしてから、二年の月日が流れました。

 謀反の際に破壊された王城の壁は、今ではすっかり修復されています。王都を囲う防壁も直され、国からの補填により民家も建て直されました。一部区画が纏めて新しく見える事を除けば、王国はすっかり復興し、傷跡は消えたと言えるでしょう。

 そしてダイガン卿は捕らえられ、今も城の地下牢に幽閉されています。

 本来、王権の簒奪を企てた者は死罪となります。その血縁さえも無罪放免という訳にはいきません。ですが死者が出なかった事、それとダイガン卿(爵位は剥奪されたのでもう『卿』ではありませんが)との取引もあって、極刑は『延期』され続けています。

 騎士団の取り調べ曰く、ダイガン卿は、本当に人のため、古代文明の復興を試みていたようです。それも先祖代々、遥か昔から。

 最初は穏便に、人々の意識を変えようと努力していたようです。ですが何十年、青春も何もかも費やしたのに……人々の意識は殆ど変わらず、無力感に包まれていました。

 そこにシャミルの『事故』が重なりました。

 あの事故についても、金で雇われた従者が「本当に事故を起こした」事が原因でした。ダイガン卿としては遺跡で軽い事故を起こし、積極的な調査を世論に促すのが目的だったと証言しています。

 むしろあそこまで派手な事件になった結果、ダイガン卿に疑いの目が向き、アヌフィスの事を知られる前に事を起こさねばならなくなったようです。草原でシャミルと会った時も、内心破れかぶれだったのでしょう。

 そして王権を簒奪する際も、親族には一切知らせませんでした。万が一失敗した時、家族だけでも守ろうとしたようです。上手くいく可能性は低かったでしょうに、それでもやっておくぐらいには、家族への情もあったようです。

 勿論いくら事情を汲んでも、王権の簒奪を試みた輩を無罪には出来ません。とはいえ何も知らない一族(中には幼い子供までいます)に罰を与えるのは、臣民達の目線では少々残虐に聞こえるのも確かです。

 そこで王はダイガン卿に、古代遺跡と兵器に関する情報を渡す事と引き換えに、一族の生命を保証する事を約束しました。『対価』があるから生き延びているという形にし、爵位の剥奪と首謀者の幽閉で罰を与えた事にしたのです。

 結果として王国は古代文明に関する更なる知見を得ました。今は未発見だった遺跡の調査が進められ、様々な知識が得られつつあります。それらの知識は、いずれ王国の発展に役立ち、滅亡の危機を遠ざけてくれるでしょう。

 ――――なんて人間達の都合は、でんでんにとってはどーでも良い事です。


「ウジュウジュ〜」


 今日もでんでんはのんびりと暮らしていました。目の前にある草をもりもりと食べ、満腹になれば一休み。そしてまた何かを食べるという一日を過ごします。

 此処、王都にある最大の庭……王城庭園で。


「ひ、ひぇえええぇっ!?」


「ば、ば、ばけ、ばけ……!?」


 その姿を見た若い、というより幼いメイドや騎士は、大いに恐怖しました。騎士の中には、剣に手を伸ばす者もいます。


「この生き物こそ、古代兵器アヌフィスを打ち破ったでんでん様だ! でんでん様はとても穏やかな方だが、怒り出すと止められない! 無礼がないように!」


 そんな『新人』達に、年配の騎士がちょっと叱るような声色で説明します。

 でんでんの名を聞いて、恐怖していた若者達は一瞬呆けた後、目を輝かせました。先程までの恐怖は何処へやら。剣を抜こうとした若い騎士など、申し訳なさそうに顔を顰めます。

 勿論でんでんにとっては、人間達の感情なんて興味もありません。


「でんでーん。おやつ、持ってきましたよー」


 興味があるのは美味しいもの――――例えばシャミルの焼いたビスケットなどです。


「ウジュゥウ〜」


 二年前よりも身長が伸びた王姫シャミルに、でんでんは遠慮なく近付きます。そしてシャミルが両手に持っていた金属製のトレイ……その上に乗ったビスケットを地面に置くと、早速でんでんはこれを食べます。

 ビスケットはとても大きな、子供が夢に見そうなとびきりサイズ。

 シャミルの両手では収まらない特大品が、トレイの上で山盛りになっていました。でんでんはこれを歯舌で突き刺し、口の中へと運びます。

 とっても甘い味が口いっぱいに広がり、でんでんは大喜び。更にバクバクと食べていきます。


「ふふっ。たくさん食べて、可愛いですね」


「ええ」


 シャミルがでんでんの食事を眺めている横で、遅れてやってきたメイド服姿の従者が賛同します。

 今やでんでんは王国の『人気者』です。

 何しろ王国を襲った古代兵器アヌフィスを打ち破った、本物の英雄なのですから。王都の子供達は「大怪獣でんでん」に夢中であり、多くの臣民が好感を寄せています。巨大カタツムリという見た目から、嫌悪する人も少なくはありませんが……それはそれとして、英雄なのは否定出来ません。

 王国政府としては国民感情への配慮が必要であり、こうしてでんでんのお世話をしています。同時に、でんでんの一族――――ディーエンデンという生物がどんなものであるかも調べていました。

 アヌフィスを倒した以上、でんでんはアヌフィス以上の脅威でもあるのです。たとえ今は大人しくとも、野生動物であるなら突然暴れ出すかも分かりません。調べ、弱点を把握し、いざという時に備えるのは、国家として当然の対応です。

 無論、勝てるかどうかは別の話です。今は言うまでもなく、そして未来であっても。


「……ところで姫様。私の記憶違いでなければ、でんでん、昔よりも大きくなっていませんか?」


「ええ、そうみたいですね……」


 シャミル達が話すように、でんでんは二年前よりも大きくなったのですから。

 具体的には五十センチほど身体は育ちました。背負う貝殻も少し大きくなり、その分厚みと重さも増しています。殻はより丈夫になり、振り回すパワーは以前までの比ではないでしょう。

 しかし、何故でんでんは大きくなったのでしょうか?

 一つは、栄養状態の良さがあります。王国政府が餌として与えている大量の野菜屑は、熱帯雨林の草や落ち葉よりもビタミンやミネラル、アミノ酸が多く含まれています。更にシャミルが定期的に食べさせてくれるビスケットには乳製品が使われ、これによりアミノ酸、そして貝殻の成長に欠かせないカルシウムが多く含まれていました。

 更に王城では多くの肉料理が作られ、その過程で骨もたくさん廃棄されています。骨は堆肥化によって処分されており、出来た堆肥は庭園の肥料などとして再利用されています。

 お陰で王城内の土は、熱帯雨林のようにカルシウムが豊富。そこに生える植物にもカルシウムが多く、でんでんの貝殻の成長に必要な分を賄えたのです。

 そしてもう一つの理由は、そもそもでんでんが育ち盛りであるため。

 体長三・五メートルにもなったでんでんは、繁殖能力を備えています。その意味では成体と言えるでしょう。ですがディーエンデンは成体となっても、成長が止まる事はありません。雨などによる貝殻の溶解速度と、再生時に消費するカルシウム量が釣り合うところまで巨大化していきます。

 その最大体長は、優に十メートルを超えるほど。

 でんでんはディーエンデンという種から見れば、まだまだ子供のような生き物なのです。今の時点で密林最強種族を名乗れるほどの強さを持ちますが、その強さは発展途上に過ぎません。

 十メートルもの巨体を手に入れてから、ようやくでんでんは真のディーエンデンになったと言えるでしょう。


「このまま大きくなったら、()()()()()()()になっちゃうかも知れませんね」


 シャミルもぽつりと呟いた、その伝説の種族に。


「ディーエンデン、というのは?」


「最近調査された遺跡に載っていた言葉らしいです。曰く、巨大な貝殻を背負った賢王。あらゆる武具を跳ね除け、一度怒れば都市が滅びるとか」


「賢王どころか厄災では……?」


「かも知れません。でも、ディーエンデンのお陰で災いが寄り付かないともありますし。恐らく伝説の生き物の類ではないかと、学者達は考えているそうです」


 けらけらと笑いながら、シャミルは軽く話を流します。本当に、でんでんがディーエンデンな訳がない、ディーエンデンはお伽噺だと思っているからです。

 だって。


「いくらなんでも、一つの群れの怒りを買った結果世界の七割が轢き潰されたなんて……誇張にしたって大袈裟ですもの。もしそれが本当なら、古代文明滅亡の原因はでんでん達って事になります」


 彼女達は本当のディーエンデンを見た事がないのですから。


「ウジュウジュ〜」


 でんでんに至っては、自分がディーエンデンの一体である事すら知りません。そんな事には興味すらなく、毎日楽しく暮らせれば良いのです。

 逆に、毎日の楽しさを邪魔するのであれば何人足りとも許しません。

 これからも幾度となく、でんでんは強敵と戦うでしょう。王国の存続を揺るがす脅威とも、自然を荒らす邪悪とも……あくまで自分の気分のままに。大きく、強くなる肉体の前に、あらゆる敵は粉砕され、でんでんの安寧と、ついでに世界が救われていくでしょう。

 その果てに積み上げられた功績は、遥か未来でこう伝わるのです。

 でんでん伝説、と。

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― 新着の感想 ―
『知らぬが仏』とはよく言ったものですね。 仏っていうかカタツムリですが(;^ω^)
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