束の間の平和を噛み締めて
その後。ミリアナの転移魔法で安全が確保された客人に怪我はなく、パーティーも転送先に選ばれた広間で引き続き行われることとなった。
安全が保障されたということで、最初は不安そうな顔をしていた客人も、次第に楽しめていたようだ。トラブルこそあったが、最後には誰もが終わりを惜しみ、満足して帰っていった。
パーティーが終わり、2人はカインの私室で肩の力を抜いていた。今日はミリアナも、カインの部屋に泊まる予定だ。
侵入者のこともあったため、夜間も勤務になるかもしれなかったが、そこは国王や部下が気を効かせてくれたらしい。職場を追い出された、と不貞腐れた顔のカインが教えてくれた。
「ふぅ……」
ドレスのままソファーに座るミリアナは、自分の手を見つめる。そこには、うっすらと魔力が渦巻いていた。久々に膨大な魔力を使ったからか、上手くオンオフができていない。
「…やはり、もう少し訓練が必要だな。腕が訛っている」
ミリアナは悔しそうに呟いた。その言葉に、カインは苦笑いを浮かべる。
「今日1日で、普通の魔道士が一生かかっても使えないほどの魔力を使ったんだぞ。高熱を出して気絶してもおかしくない魔力消耗のはずなのに、君はピンピンしている。これ以上、一体何を鍛えるっていうんだ」
「魔力自体は、2割程度しか使っていない。ただ、上手く切り替えができないんだ。前はもっと上手かった」
「……恐ろしいな」
カインの言葉に、ミリアナはちらりと視線を上げた。そして、きょとんと首を傾げた。
「いやいや、それを言うならカインの剣術だって恐ろしいだろ。なんだあの動き。人間がしていい動きではないだろう」
「俺は前世も人間だった」
「勇者を人間判定するな。あれを人間というなら、どこかで神がトチ狂ったに違いない」
ミリアナは、そう言って、少し不満そうに口を尖らせた。カインは、そんな彼女を愛おしく見つめる。しばらくして、その視線に気が付いたミリアナは、ほんの少し驚きながら口を開いた。
「なんだ」
「……俺のことを信用してくれてありがとう」
突然の言葉に、ミリアナは今度こそ驚いた。そして、ふにゃりと笑う。
「ははっ、こちらこそ。背を預けてくれたことが、本当に嬉しかったよ。ありがとう」
それきり、部屋には静寂が満ちた。穏やかな時間。その中で、ふと、ミリアナは静かに口を開いた。
「なあ、カイン」
「ん?」
「私たちは、どう頑張っても平凡にはなれない。それは今日、改めて感じただろう」
「…ああ」
戦いを思い出したカインは、小さく返事をした。平凡な生を願ったところで、強さはどうしようもない。元々、力があれば有効活用したくなってしまう性分。勇者のサガだ。
「なら、せっかくだ。『最強の夫婦』を目指してみないか?」
ミリアナの言葉に、カインは不思議そうな顔をした。
「『最強の夫婦』?」
「何千年も先まで語り継がれるほどの、最強の夫婦になろう。……それこそ、勇者と魔王の伝説を塗り替えるぐらいの」
ミリアナはそう言って、くすくすと笑った。その言葉には、どこか悪戯っぽい響きが混じっていた。
カインは、ミリアナの言葉を聞き、前世を改めて思い出す。
勇者と魔王。
それは、決して良い思い出ではない。互いに傷つけ合い、多くのものを失った。その結果得たものは、呪いとなった賞賛だけ。ミリアナに至っては、命を落としている。
だからこそ、ミリアナは、そんな過去を塗り替えようと提案したのだ。
伝説を塗り替えるには、それを上回る伝説が必要だ。
そして、それを成せるのは自分達しかいない。
カインは、そのことに気づいた。
「いいな。楽しそうだ」
「ははっ、そうこなければ。人間の一生は短いらしいからな。全力で駆け抜けるぞ!」
今からワクワクしているミリアナに、カインは柔らかい笑みを浮かべる。それは、他者が見たら驚きのあまり固まってしまうほど優しい笑みだ。
「ああ。初めて死ぬのは惜しいと思ったよ」
「これからは毎日思ってもらうぞ。私を残して死ぬなんて、許さないからな」
これは、最強の夫婦を目指す、元勇者と元魔王の物語。
カインにも、ミリアナにも、まだ孤独に抱えている秘密がある。
でも、今は打ち明ける時ではない、と互いが思っていた。
今は、束の間の平和を堪能する時だ。
「そういえば、国王が今夜のお礼に何か贈りたいと言ってたぞ」
「本当か!それなら、3年後に飲む用の高級な酒でも頼んでおくか」
小さな歪は大きくなり、いずれは世界を巻き込むこととなる___
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