9
その翌々日のことだ。
わたしの最初の伴侶となる男性――カーディフ伯爵家の次男エドワード様が、この別邸に到着したのは。
とは言っても、この牢獄から出る許可など、降りるはずがなく。
彼はスウェイに案内されるがまま、地下にあるこの薄暗い? わたしの部屋へとお越しになったのだった。
「……初めまして」
「これはこれはようこそ、カーディフ伯爵家の次男エドワード様。兄より手紙にて近いうちにこちらにお寄りになると聞き及んでおりました。本日のお忙しい中足をお運び下さいましてありがとうございます」
「そう、だね。こちらこそよろしく。ラバンシア伯爵令嬢リシェル様。噂通りにお美しい」
男性に面と向かって美しいと言われたのはこれが初めてだ。
先生からは何度も誉め言葉のように頂いていたが、それもやはり幻影のあちら側にある言葉。
現実的に、肉体を持った男の人と対面するのも、おおよそ十年ぶりだった。
かけられたその言葉に、わたしは思わず赤面してしまう。
「お許しを。褒められるようなものではございません」
「いえいえ。俺は思ったままを伝えたまでだよ」
「……褒められては困るのです」
「なぜ?」
男性を知らない小娘になったかのようで、とても恥ずかしかった。
彼はそんな私を見て、微笑み返してきた。
多くの女性とそうしてきたのだろう。
そこには、堂々たる余裕が感じられた。
「目の前にある鉄格子がそれを物語っております」
「ああ、これ。これはよくないね。どうしてこんなこと」
彼は眉根を寄せた。
白銀の髪に透き通った苔色の瞳を持ち、日によくやけた肌とたくましい胸板は、いかにも騎士という貫禄を彼に与えていた。
兄と同世代ということは、もうすでに二十四歳かその辺りの年齢になるはず。
貴族の男性としては、結婚適齢期を過ぎている。
その意味で、少しばかり彼のことを疑っていた。
女性と遊ぶ男性か、それとも性格に難があるか、暴力的であるか。
とにかく、なにがしかの問題がそこにありそう。
わたしはそう訝しむ。
「詳細はお伝えできませんが。幼い頃より、ここに住んでおります。既にそう――十年ほど」
「十年? それは長いな。ロメロからは‥‥‥」
と、そこでエドワード様は一旦、言葉を区切った。
後ろに控えている侍女、スウェイに聞かせてもいいのか。
それを迷っておられる様子だった。