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カイエが見つかって、同居できるの。
その夜、双子にそう伝えたら、彼らは涙を流して喜んでいた。
スウェイも同じように泣き崩れそうになっていた。そんな家族を前に、わたしの心には重く苦しいものがのしかかっていた。自分を大事にしすぎて、わたしはカイエを探すことに及び腰になっていたのではないか、と後悔していたのだ。
もっと自分が危険を冒してでも挑むべきではなかったかという思いに、ずっと際悩まされて翌週のその日を迎えることになる。
先生が時刻を指定し、その時間になったら一台の馬車が屋敷の門柱前に止まった。
降ろされる荷物の影にひっそりと、向こう側から一人の幼い女の子がやってくる。
お気に入りのぬいぐるみをその手に抱いて、ふわふわの栗毛を思い出の中よりも長く伸ばし帝国学院の制服を着た彼女は――まぎれもなく、わたしの娘だった。
「カイエ‥‥‥」
震える声でそう呼びかける。
わたしだと向こうも分かっているはずなのに、どこか遠慮した様子でこちらに向けないカイエは俯いて下を向いていた。
リグとラグが早く行けよ、と言い背中を押してわたしたちの距離をそれぞれ、縮めてくれた。
「……お母様」
返事をするカイエの声が震えていた。
わたしだって同じくらい、声を震わせていた。
真っ黒な瞳がこれでもかと開かれて、じっとこちらを見つめている。
進んでいいのか、それともここで待つべきなのか。
その判断を、自分ですることにわたしたちは互いに譲れないような、変な感じになっていて。
そのたった一歩を踏み出せないでいたことが、これまでの数か月をわたしに後悔させてきたのだと、ようやく悟ることができた。
「おいで、ううん。わたしから行くわ」
手を広げるより、広げたまま歩んだ方が早いじゃない。
これからずっと一緒に過ごしていくんだもの。
大丈夫――わたしの他人に嫌われる人生は、もう終わったのだから。
わたしは駆け寄るとカイエに抱き着いた。
カイエは一度だけびくっと怯え、それから意を決したようにぐっと涙をこらえて飛び込んできて、それはわたしの顔面を直撃する。
これまで放り出してことに対する罰を受けたような気がして、わたしは顔を手でぶつかったところを抑えた。
「あうっ」
「ごめんなさあいいっ」
くまさんの巨大な頭部が先にわたしのあごを強打していたのだ。
全然痛くはなかった。けれど、わたしの仕草がカイエの笑顔にはつながったようだった。
「大丈夫。お母様、ドジだからカイエは悪くないわ」
「……そんなことない! カイエも悪いの……ごめんなさい、お母様。痛くない?」
「うん、大丈夫。ごめんね、カイエ。ずっと探していたの。ごめん」
「私、いろいろ行ったから‥‥‥」
腕のなかで胸に顔を埋めて「ごめんね、お母様」と泣き崩れるカイエをしかれる母親がどこにいるだろう。
「いいから、わたしは会いたかった。みんなで一緒に暮らそう」
「うんっ‥‥‥」
涙と鼻水が一緒くたになったその顔を、カイエはわたしの上着で拭ってしまう。上着はぐっしょりと濡れていた。
こうしてカイエはようやく、三人の子供の中で最後にわたしの腕の中に戻ってきてくれたのだった。
「奥様だけ抱きしめるなんてずるわ、ほら皆も!」
「そうだよ、お母様。独り占めするなよ」
「リグはうるさいのー。ほら、カイエ。こっちきて? どこで何していたか皆に話してよ」
と、ラグが言うとカイエは肯いて離れて行った。
スウェイに抱き着かれ、双子に背が伸びた? とからかわれ、兄妹たちが仲良くしながら家の中に入っていく。この半年間、両肩にのしかかっていた物が、すっと離れて行った気がした。
家に入る彼女たちを見つつ、その世話はとりあえずスウェイに任せることにして、わたしは馬車に向かう。連れて来てくれた先生への挨拶がまだだったからだ。
「良かったですね。これで親子が揃った……カイエは孤児院を転々としていたらしいのです」
「先生、本当にありがとうございました。父親はいませんが……ちゃんと母親をしてやりたいと思います。孤児院‥‥‥です、か」
挨拶をし、会話のついでに御者が降ろした荷物を家に運ぼうと持ち上げたら、先生が手伝ってくださった。
カイエは養女として、とある王国貴族に貰われて行った。しかし、そこが事業に失敗したために、孤児院に預けられたらしい。そこから転々と、里親に引き取られては、行く先々の家々が没落したり、なにかの不幸に見舞われたりして、カイエは半ば売られるようにして、帝国のある孤児院に預けられたという。
運が良かったのか悪かったのか微妙なところだが、そこに行けたのは幸運だった、と先生は言って理由を教えてくれた。
帝国の子供は一定年齢になると、学院に通う義務を負う。
孤児院から学院の寮に移動して住むことになったカイエの名前を、たまたま先生から彼女を探していると聞いていた事務員が発見し――今回のことに至ったのだと話してくれた。
「こちらのオルブレイトに転校させるには養い親が必要でしたから、取り急ぎ、私がそれを名乗っておきました。また名義を変える必要がありますが」
「そんな、そこまでして頂いて‥‥‥先生にもご家庭が」
「は? いや、私は独身ですが……」
「嘘っ。それはごめんなさい……」
三十代の若さで校長にまで上り詰めた先生。
出世街道を順調に歩んでいる彼がまさかの独身だったとは……素直に驚いてしまった。
「貴方に嘘を語ったことはありませんが、ああ、それはさておき。もう一つ‥‥‥紹介したい人物がいます。会いますか?」
「それって、どういうことですか? カイエはもう来ましたし、他に誰が――」
「それが困ったことに」
と、先生はまだそこに佇む馬車に目を向けた。
帰るために待たせているのだろうとばかり思い、車内にまだ誰かいることにわたしは気づかなかった。
「あちらはリシェルに会わせる顔がない、とか言われましてね。しかし、ここまではやって来た。子供たちの転校先から貴方のことを調べたようですが」
「何を言われて‥‥‥誰が――あなた!」
そう問いかけるように視線をやると、窓の向こうに人影が一つあり、こちらに顔を向けた。陽光をよく反射するその銀髪には、嫌というほど見覚えがある。
「……エドワード」
それは、わたしを捨てて妹へと走った、前夫だった。




