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この日のためだけに用意された、学帽とマント。
その二つを身に着けたまま、わたしは泣きに泣いた。
後ろで見守っていたスウェイも、鉄の柵を前にして泣いていた。
珍しくその場に下りてきていた、二人の女神官たちも涙を流してくれていた。
スウェイ以外は、何人もの女性が入れ替わり立ち代わり、この館を出入りしていたから、名前に興味が持てず、彼女たちと交流することもすくない日々。
いまさら泣かれても、と思いながら、それでも泣いて泣き疲れて。
式が終わった後には、何もかも脱ぎ捨てて、そのままベッドにもぐりこんでしまっていた。
それが、ブレア先生との最後の交信となった。
学院の過程を終了したのだから、もう不要だろうと外部との交流は、必要最低限なものに制限された。
もうあの画面の向こうにある数億の学問に、自由の源泉に触れることができないのかと思うと、虚しさに包まれた。
父母はわたしが帝国から戻ったと周囲に触れ回ったらしい。
いまでは、見たこともないわたしの容姿を描いた人物画が、王国の貴族令息たちの間を回っているのだとか。
この忌み子を事情を深く知らないそこいらの貴族に嫁入りさせて、自分たちは解放されたいと思っているのかもしれなかった。
スウェイが、買い出しに出た街中で、たまたま見つけたのです、とそれらをわたしに見せてくる。
それは似ているようで、どこか似ていない。そんなものだった。
「これがお嬢様で……で、こっちが、カミーナ様。よく似ておられますね」
「どこがよ……。髪色も瞳の色も違うわ。伯爵家は代々、銀髪に黒目。わたしはお母様に似て赤毛に黒目。妹は……たいした美人ね」
「カミーナ様は、次の光の聖女様になられるかもしれないと、もっぱらの噂です」
「ああ、そう。姉がこんな穴倉に閉じ込められて十数年。妹は一度も、連絡すらよこさない。そんな、可愛い妹がねーへえー……」
「そんな辛辣に物を言わないでくださいませ」
妹は大人気だそうです。
こんな不出来な姉がいて、さぞや悔やんでいることでしょう。
そう思っていたら、爆弾が配達されてきた。
「お嬢様。お兄様からお手紙が来ております」
「……ロメロから? 何だろう」
兄が最後に連絡をくれたのは確か、三年前のことだった。
騎士団副団長になれたのだ、と嬉しそうに報告をしてきたのだ。
わたしはおめでとうございます、とは返事したものの、それから音信不通のままだった。
なにひとつ連絡を寄越さない妹と違い、兄はまだわたしのことを覚えていてくれたのか、とちょっとだけ心が和んで、温かくなる。
「珍しいこともあるわ。今度は騎士団長にでも昇進した‥‥‥はあっ?」
「お嬢様?」
パサリ、と手紙が手中から抜け落ちた。
書かれていた味気ない、男性特有の無骨なその文章には、兄が元気であること、今度、転勤して王都に向かうこと、この土地で任されていた副騎士団長の職に、彼が学院時代の寮生活でずっと同室だった御方が抜擢されたこと。などなどが書かれていた。
ついでに、王都からこちらに転勤してくるその男性、カーディフ伯爵家の次男エドワード様が興味を持ち‥‥‥。
学生時代に兄から耳にした闇属性のスキルを持つ妹のわたしに興味を持ち続け‥‥‥会いに行くから宜しく。
そんな一文が、最後に記されていた。