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三両目を出て食堂車を通過し、六両目に差し掛かろうとしたら、今度はちょっと待て、とそこを守る王国の衛士に歩みを止められた。
「どちらにおいでですか、御令嬢方」
「あいにく、元夫人なの」
そう言い、わたしは自分の身に着けている伯爵家の紋章入りの指輪を突き付けてやる。
元夫人と言われて面食らっているところに、すかさずスウェイがわたしの身分証明書を衛士の眼前にどうぞ、と差し出した。
「これは大変失礼いたしました、ラバンシア伯爵‥‥‥令嬢リシェル様。御身分の確認が義務付けられております。どうか、ご理解ください」
「いいの。慣れているから」
つん、とした素振りで衛士を見ることなく、そう返事をする。
気取っているわけではなくて、これが、貴族の普通なのだ。彼らは目下の者、身分が低い存在とは目も合わせない。
「それで、どちらに? これより向こうの車両に、お名前があったとは記憶にありませんが」
「あら、いい記憶力ね。それなら、聖女様が我が家から輩出されたことも、知っているのではなくて?」
まさか、とそんな顔を衛士がする。
彼の脳裏で、わたしが少し前に読んだ新聞の記事でも再生されているのかな? ちょっと戸惑いの顔を浮かべて、いや、でも待て、と彼は訝しんでこちらを見た。
「あの御方はいまごろ、王都に」
「その姉です。実姉です」
「あ、これは‥‥‥大変失礼いたしました。では、どちらにお越しですか」
「そんなことまで、あなたが知る必要はありません。そこに行けば、あちらから扉を開いてくださいます」
「はあ‥‥‥」
戸惑ったように言い、彼はその扉を守るもう一人の衛士に目配せする。
緊張が漂い、しかし、もう一人の年配の方は規則ですので、と重苦しそうに吐き出した。
「七両目。エントス夫人のお世話を先ほどしました。食堂車で。信じられなければ、車掌様にお伺いなされては、どう?」
「あ、あの時の治癒を」
「そうね」
そこまで言って、彼らの態度が軟化した気がする。
エントス夫人の名前は、なかなかに有用らしい。
わたしが彼女に会いにきたと分かると、若い衛士が伝令でもするかのように、夫人の客車へと走って行き、姿を消した。
どうやら、そこまでしないと上級層の安全というものは守れないらしい。
‥‥‥それにしても、ここではまともに爵位を理解され、身分ある人として扱われているのにどうして‥‥‥?
「あの時」
と、わたしが疑問を口にするのと、若い衛士が早足で戻ってくるのは、ほとんどタイミングが一緒だった。
普段からよく訓練されているのだろう。
駆け足に近い速度で戻ってきても、息切れ1つしていない彼は、大袈裟な儀礼的に見える挨拶をする。
「お待たせ致しました、ラバンシア伯爵令嬢リシェル様」
そして、告げられる驚きの家名。
「カナルディア男爵夫人がお会いになられます」
「……男爵」
その前についている名前が問題だ。
この王国の名前、そのままじゃない。
上級層にも‥‥‥程がある。呆気に取られているわたしの背中をスウェイがとんっと叩いて我に返らせてくれた。
「何か」
「いいえ、なら――案内して頂戴」
「恐縮です」
衛士はどこか嬉しそうにそう言い、扉を開いてくれた。




