57
肝心の一人は五両目の中間で座っているらしく『隠匿者』の支配権内ではすべてのものがこちらの支配下になる、というスキルの特性にわたしたちは大きく救われていた。
見るかにいかついその大男は、壁際に剣を携え、自身も油断のないオーラをまとっていた。
スウェイが下す一撃では逆に中途半端なダメージを与えるかもしれない。
そう思ったから、彼にはわたし自らからが肺に闇をプレゼントしておいた。
時間が経過すれば呼吸困難に陥る、そんな闇色の呪いだった。
ここから先はさすがに上流階級の貴族が利用するだけあって内装も豪華だし、等間隔に鉄道が派遣する警官が武装して立っていて、いかめしい顔つきの彼らは王国への忠誠心に溢れているかと思いきや、帝国側が運営しているだけあって様々な不満も心の内から聞こえてくる。
その中には光の神殿に対しての文句や怒りも含まれており、魔族の警官なんかは完全に王国に対して敵意を抱いていた。
驚いたのは、魔族であれば闇属性となるのだけれども、それでもこんな場所で要人警護という役職をこなせるということだ。
闇属性は国外では迫害されるどころか、光属性と同等に扱われると言っていたブレア先生の言葉は本当だったのだと、あらためて知ることになった。
王国側の貴族が多いこの場所で闇属性への嫌悪感が強いのは当たり前。
その意味で、紋章とエントス夫人、そしてわたしたちに向かって敵意を持つ者だけを探すと方向性を絞ったのが功を奏した。
七両目で目的の刺客を見つける。
それは意外にも、光の大神殿に所属する高位の巫女の一人だった。
真っ白い法衣と一筋、上から下に流れるようにして青い意匠が染め抜かれた外観だけで、彼女がどれほどの存在なのか分かってしまう。
一般の光の女神を信奉する民なら、その姿を目にするだけで頭を下げるだろう。
そんな特権階級の女性が、まさか自分の上司であるかもしれない夫人の殺害を目論むなんてきっと、この場にいる誰も想像しないに違いない。
「気を付けて。もしかしたら結界か何かで防御しているかもしれない」
「だって、『隠匿者』の範囲ならどんなものでも無効化できるでしょ」
「攻撃をうけて自動的に発動する、そんな魔法やスキルなら、数秒差で反撃してくる可能性もあるもの」
「なら、どうしますか」
「うーん」
と、わたしは思案する。
何かいい手はないものかと――辺りを見渡して発見したのは、その客室内でしたのだろう。
食事を終えたあとの皿が、通路側に張り出している専用の回収棚に置かれていることだった。
これは使えないのかな、と『探索者』でそれ以前はどの位置にあったかを確認する。
客室には刺客と思しき巫女とそのお付きの男性――こちらは護衛だろう。
二人が互いに向かい合うようにして座っていた。
食事をしていた時は、壁から引き出すようになっている簡易式のテーブルを使ったと想定されるし、その場所にナイフやフォークがどう置かれていたかを。
二人が食事中にどんな姿勢で、それらを使っていたかも、つぶさに手に取るように分かる。
「……もしかして、わたしって有能な暗殺者になれるかも」
「何を怖いこと言っているんですか。早くしてくださいよ、リシェル。まだ一両あるし、トンネルだって近づいて来ているんですから」
「分かっているわよ」
スウェイに急かされるようにして、わたしは二本のナイフが戻っていく位置を確定する。
それはそれぞれ、彼らの脇腹と胸に近い場所に突き刺さるようになっていた。
問題は――夫人が戻ってくる時間だ。
スキルを時間差で発動させても、夫人が客室に入れば‥‥‥この二人は音もなく計画を発動するだろうから。
「ごめんなさい‥‥‥」
わたしの指示に従い、二本のナイフが宙に浮く。
それらは『隠匿者』のスキル効果でガラス戸をすり抜けて室内に音の速さで突入していった。




