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車両と車両の間にある間仕切りの扉は、あちらからか、こちらから勝手に開かれていくから、わたしたちが移動する際、そこに気をつかうことはほとんどなかった。
四両目は食堂車に行こうとする人と、トンネルを越えたら別の国に入り、簡易な検閲が始まると車掌さんがアナウンスを始めていた。
耳にした乗客たちと触れないようにしつつ、歩を進める。
奥へ、奥へと進む中で先頭を行きながら怪しいとなった対象は、いつの間にか自分から率先して対応するようになっていた。
無関係化もしれない人に手を下すのは、やっぱり心が痛むけれど。
だけどわたしはためらうことはなくなっていた。
リグ、ラグ、カイエ。
三人の子供たちの顔が、手を動かす度、スウェイに伝えるたびに脳裏に浮かんでは消えていく。
元夫のエドワードとわたしの問題で、あの子たちに仄暗い未来を背負わせる訳にはいかないのだ。
その意味でも、この蛮行は誰にも悟られないで、スウェイとわたしだけの秘密に。
二人だけの共犯にしておく必要があって。
食堂車で回復したエントス夫人に再会したとき、わたしの心臓はドクンっと大きくひとつ跳ねた。
「……スウェイ」
「どうしたの、リシェル? ほら、避けないと‥‥‥ここは混在が過ぎますね」
立ち止まったわたしを見て、眉根を寄せたスウェイが訝しみながら、人を避けて隅の方に案内してくれる。
「ごめん。夫人を見たら、なんだか胸が苦しくなって」
「えっ。それは、夫人も――まさか」
「違うの。そうじゃなくて‥‥‥自分が最初に治癒した人に、もしかして酷く恨まれていたらって思ったら、ね」
「ああ、そういう。考えても答えはでないんじゃないかと」
スウェイは一寸、頭を捻るとそう返事をする。
医者が患者を思うのは大事だけれど、その後からやったことをどうこう考えても、どうしようもないでしょう、と彼女は言いたいようだった。
「でも‥‥‥」
「リシェル。これから先、多くの人を治癒していくなら、恨まれたり、批判されたりすることを恐れていたら、何もできないって。先生も言っていたじゃない」
唐突にブレア先生の言葉を借りるようにして言うものだから、さらに言葉に詰まってしまう。
覚悟が足りない、と空想のなかで先生にしかられているような気分になった。
「それはそうだけど」
「リシェルの心には、エントス夫人が自分より上だっていう、そんな恐れがあるのではないですか」
貴族として。
上流階級の存在として。自分が知る限り最高位の神殿関係者として。
その畏怖は、祖先の血がそうさせるのかもしれないけれど。確かなものとして、わたしの心を縛っていた。
それを伝えると、スウェイは「そんなの妄想ですよ」と歯牙にもかけないで笑って吹き飛ばすから、逆に驚いてしまう。
「どうして? スウェイだって‥‥‥」
「そうですね。元奴隷ですから。生きている存在は、すべて目上。何もかもが雲の上の存在でしたよ。だから言えるの。人が人を支配しようなんて、大それた妄想だって」
「……妄想」
「そう。だからリシェルはそんなものに囚われないで。カイエ様はそうやって理不尽な真似をスウェイにする誰かに怒ってくれたから。だから、私は彼女が大好きなの。リシェルも、ちょっと前に怒ってくれたじゃない。あの陰険な執事長に」
「あ、うん……そう、ね。妄想、か。妄想‥‥‥」
「そう、妄想」
見えない下らないものに縛られるなんて、人生を損しています! とスウェイは力強く励ましてくれた。




