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わたしのスキル『追跡者』はなかなかに有能だった。
わたし、闇属性、殺意を抱いたこと。
その三つに関して、車両に乗車している各個人を判別し、検索にヒットすればすぐさま、わたしに伝わるようになっている。
「右側の奥、ヒゲの紳士」
「はい」
「左側、手前。喪服の老女」
「老人を殴るのは気が引ける」
「その席、手前の帽子を被った軍人さん」
「こんな車内で帽子を被るなんて殴られても文句言えないですねー」
「二つ向こうの‥‥‥少年? 親に殺意抱いているわ」
「なら、その親にしましょう。子供は守られる存在ですから」
「えーと‥‥‥待って速度を緩めましょう。さすがに半径三メートル以内で検索はきついのよ」
「おやおや、もう御歳ですか、お嬢様。スウェイはこんなに元気なのに」
いまで先頭から三つ目。
つまり、元々、そこにいた車両に戻ってきたことになる。
ここまでの間に、スウェイがその手に掛けたのは、八人。
意外なほどに高確率で人というものは殺意を簡単に抱くのか、それとも、わたしたちが狙われているのか。
などなど悩みながら、侍女が剣の腹で頭や胸を叩き、軽く行動不能にする。
しかし、それをリアルタイムで痛みの感知などさせたら、とんでもないことになってしまう。
他の乗客からしてみれば、目の前から見えない危機が、暴風が迫っているようなものだ。
どんな鈍感な人間でもそれには気づくだろう。
だから、時間差で。
スウェイが殴りつけた約三十分後に、痛みがでるように『隠匿者』で、被害者たちの肉体を調整しながら、わたしたちはここまで戻ってきたのだった。
「はあはあ……ただ、ただ‥‥‥剣を振り回してるだけのあなたに言われたくない‥‥‥」
ぜーはーと、普段使いなれないスキルを常用することに、肉体が拒否反応を示していた。
滅多に走らない生徒を、なにかの罰でぶっ倒れるまで走り込みさせるのとおなじようなものだ。
普段とは数段上のレベルで肉体を、精神を、スキルを酷使しているのだからこうにもなる。
自分たちの客室に一度、落ち着くことにしたわたしは、大きく胸で息をしていた。
「あいにくとここにはなぜかお菓子がありまして」
「それ、さっき食堂車で購入してきたやつ‥‥‥」
「そうともいいます。あとから食べようと取り置きしていたのが役に立つとは」
エントス夫人がしたように、スウェイは厚みのある紙のナプキンにクッキーをいくつか包んで、ポケットにしまっていた。
甘いものが大好きな彼女のことだ。あとから一人で楽しむ気だったに違いない。
「……それ、ちょっともらえないかしら」
「剣を振り回すだけの侍女には、体力を回復する甘いものが必要なので」
侍女はつん、と澄ましてそう言った。
しかし、客室に備えつけのポットから、カップに水を注いでくれる優しさは忘れていないようだった。




