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カンっ、カンっと足音が車内に響く。
パーシャ夫人の立てるヒールの音色だった。
それは規則正しくも打ち付けられる雰囲気は、穏やかなものではない。
彼女がわたしとスウェイの見つめるガラス戸の前に立ったら、それは勢いよく押し開かれた。
続いて、怒気を孕んだ罵声のようなものが飛んでくる。
「貴方ですか! わたくしを治療して下さったのは!」
「え、ええ。そうです、ラバンシア伯爵家のリシェルと申します。あなたは‥‥‥」
「わたくしはエントス家のパーシャと申します」
気忙しそうに、老女は返事をした。
あれだけ苦しそうだったその顔はすっかり見違えるように健康そうな色が戻っていた。
でも、眉間に寄せられた皺だけは――痛みによるものだとは思えなかった。
エントス家。
残念ながら、わたしには聞き覚えの無い家名だ。
もちろん、それはスウェイも同じらしい。
侍女は席を立つと、老女にそこを譲り、自らは窓際に立った。
「これはどうも。リシェル様? 本当に? あなたが?」
「は? ええ、はい。間違いありませんが、まだ痛みが残っていらっしゃる」
と質問すると、一旦はその怒りが引っ込んだようだった。
パーシャ夫人、いいえ、ここではエントス夫人という方が正しい呼び名だと思う。
彼女は怒りのために最低限の礼儀作法を見失うような、そんな愚かな女性ではなかったようだ。
すーっと大きく息を吸うと、目を軽く瞑り、それから思い直したように、わたしの額辺りに焦点を当てて口を開いた。
「……まずは、感謝を。大変、苦しい思いをしておりました。あなたのおかげで救われました。謝意を述べさせていただきます」
「それは、どうも。調子はいかがですか」
「あの――」
と、エントス夫人はこちらを見ようと遠くから立ち上がっている自称、王国一優秀な治癒師たちを一瞥してから、ふんっと鼻を鳴らした。
「あの詐欺師のような連中に治療を施されたらと思うと、寒気が立つようです。調子はすこぶるよくなりました。本当に‥‥‥ええ。ありがとうございます、リシェルさん」
「いえいえ、お元気になられたら、何よりです」
「ただ――」
「はい?」
老婦人の顔が曇った。
眉間の皺も元通りだ。
やはり、治癒に関して文句があるらしい。
もしくは、それに使った属性に関してかもしれない、とわたしは直感で閃いていた。
「あなたが闇属性だというのは、本当なのですか」
「どなたから伺われたのでしょうか。嘘ではありません」
やはり、と老婦人の顔が重く沈痛なものに支配されていく。
そんなものに治癒されるなら、まだ死んだほうがましだった。
そんな感じにも見えた。




