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車掌さんに連れられて、たどり着いたそこは食堂車‥‥‥の一角に用意されている長椅子を二つほど組み合わせた簡易ベッドの上に寝そべる、五十代の女性だった。
こんなに揺れる車内で、ろくなクッションもなく寝かされているのはとても辛いだろうと思った。
彼女が身分ある人ならこんな応対はしていなかった?
身分社会というものに属する自分だけれども。
このやり方はどうにもいけ好かない。
「あちらの方です」
「その前に、もう少しよい環境を」
「……と、言いますと?」
「これほど揺れる車内ですよ。寝かされているだけでは、安定も何もないではないですか。もっと柔らかいものを敷き詰めたり、まだ寒い地方です。毛布の一枚でも用意して差し上げて」
「すぐに手配します!」」
車掌さんはそこまで気が回らなかったといい、こちらの要望をかなえるためにどこかに走っていく。
ご婦人に近づいてよくよく観察する。
ふわりと広がったスカートは薄い菫色。
その上に白いボタンシャツを身につけ、上からは浅黄色のガウンを羽織っている。
ブラウンの髪を、銀色の糸で丁寧な縁取りがされた黒い大きな帽子の内側に、しまわれていて喉元で締めたその首紐がまず、苦しさを倍増しているように見えた。
「それを取って差し上げて」
「いやしかし、それをしては顔が露わになる」
彼女が倒れた頃からそばにいるのだろう。
家族なのかそれとも全くの他人なのかわからない彼は、初老の品の良い男性で。
礼儀作法にしたがって言うならば正しい判断をしていた。
でも今は緊急事態だ。そんなことは忘れて、患者さんを一番に考えなくては。
「マナーなんて考えてる場合じゃないんです、彼女が苦しんでるんですよ」
「じゃあちょっと待ってあなたは誰だ」
「わたしは治療師です。先ほどこの列車の車掌さんに依頼をされてここにやってきました」
はい、どうぞ。と、上着のポケットに入れておいた帝国学院発行の治癒師の認可証を、彼の鼻先に突きつけてやる。
そうするとあっという間に態度が変わった。
「おお、これは素晴らしい。帝国で学ばれた方がこのような田舎にいらっしゃると。神の導きだ」
「彼女のことを看させていただいてよろしいですか?」
「もちろんだとも。是非、看てやってくれ」
「失礼ですがご家族か友人の方?」
治癒だって魔法を使う。
普段なら魔道具なり、ポーションなり、薬草なりを用意してその場に挑む。
しかし、ここには何もない。
仕方がないのでまずは、患者さんの容態を知るために、探索用の簡易結界を張ることにした。
女性が寝ている周囲から人々に退いてもらう。
「いやあ、この旅が始まってたまたま‥‥‥」
「たまたまなんですか」
「食事を共にする程度の仲だ。名前しか知らん」
「そう‥‥‥なら、彼女の名前で呼びかけてあげてください。少しでも心が楽になるはず」
彼はわかったと言ってご婦人の名前なのだろう。
「パーシャ」「パーシャ」と折り返し、叫んでいた。
わたしはやはり、子供の頃からのトラウマがある。
魔力の色を見せることには拒否感が強い。無色の結界を敷くにとどめた。
「さあ、彼女の病魔が巣くう場所はどこ? その姿をわたしに示しなさい」
そして、魔力に指示を飛ばし、円形の陣をあたりに敷くのだ。
その内側にある存在のことが多くを知れるようになる。
ご婦人の痛みの要因は、肺の辺りに見える黒い影だった。
その部位が弱り、気管が普段通りに動くための血液が行き渡っていない。
脈拍はどんどんと下がっていき、息もまた絶え絶えになりかけている。
急がなくては。
わたしは、ブレア先生から習った、闇属性のスキルを使う治癒法を使うことにした。




