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「旦那様? これは――どういうこと‥‥‥」


 思わず声が震えた。

 夫の後ろに立つスウェイはいきなりこの事実を告げられたのだろう。

 普段の物静かな彼女にしては珍しく、白黒まだらの尾を膨らませて怒りを表現していた。

 エドワードはふっと小さく微笑み、自分にはまるで関係ないような口ぶりでもう一度、同じセリフを繰り返す。


「聞こえなかったか? 他に愛したい女性ができた。やはり、闇の属性を持つ君を我が家に置いておくには、世間体が悪い。出て行ってくれ」

「出て行けって? だって、あなたが言い出したのですよ。わたしの属性を無効化できるから、庇護していれば世間様にも顔が立つからと、そう‥‥‥」

「三年も前の話だ。あのときはそうすることが一番良いことだと思った。現に、君に尽くしてきたはずだ」

「……」


 尽くしてきた。

 それはどうかとも思った。

 けれど、彼のおかげであの牢獄から出ることができたのだから、その意味では救ってくれたと言ってもいい。

 でも、この身のすべてを捧げたのも、あなたがそうしてくれたからなのに。

 これは、ひどい裏切りだと思ってしまった。

 いや、そう思わざるを得ない‥‥‥なんだろう。

 胸の奥がぐにゃりっと傾いだ気がした。


「助けて‥‥‥」

「なに?」

「……助けていただきました。闇の底の牢獄から、光の指す世界へと導いて頂きました。でも、こんなことを言われるようなら」

「なら、なんだ? 俺が人でなし、とでも言うのか?」

「違う、そんなことは言わない。あなたは家族だってわたしにくれた。血のつながらない子供達でも、わたしにとっては本当の子供のような気がしていました」


 でも、と。

 そこから先が言葉にならない。

 誰なのだろう。

 彼をわたしから奪ったのは。

 彼の、心をその身に独占できたのは‥‥‥誰なのだろう。

 その相手への憎しみが彼への怒りにとって代わり、わたしの胸の奥にはどす黒いなにかがどんどん沈殿していく。

 これをぱっと解き放ったらどれほど気が楽になるだろうと、そう思ったほどだ。

 だけど、それはできなかった。


「おい、なんだその暗闇は? おい、リシェル! お前、何をしている!」

「奥様! リシェル!」


 意識がその闇に呑み込まれて行きそうになった。

 後からスウェイに聞いたところ、その時のわたしは全身から薄暗いもやのようなものを放出していたという。

 スウェイの声が、遠くに聞こえたと思ったら、あの声が光のように心のなかに響いてきた。

 何もかもぶちまけたいと思うその感情が、少しだ和らいだ。


(私の賢いリシェル。決して、あきらめないように。そのスキルを与えたということは、神はあなたを見ているということになる。心を狂わせないように)


 ――先生。

 三年前のあの日。

 卒業を迎えたあの時。

 恩師であるブレア先生が下さったあの言葉が、わたしの心の歩みを狂気の淵で留めていた。



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