12
長男はリグ、六歳。
次女はカイエ、五歳。
長女はラグ、六歳。
リグとラグは一人目の妻の子供で、二卵性双生児。
エドワードとによく似た銀髪に、彼らの瞳は黒に近い鳶色をしていた。
それぞれに気が強く、幼くして母親から引き離されたせいか、他人を寄せ付けない感覚が強い。
リグは剣術が得意になりそうだったし、ラグは裁縫ができる手先の器用な子だった。
カイエは泣き虫で、いつも大きな熊のぬいぐるみをしょっていたり、抱き締めていたりした。
そのぬいぐるみはこげ茶色で、彼女の栗毛と黒目に、可愛いを付け足したかのような、マスコット的な三人目。
夜にトイレに行けないからと、スウェイの尻尾をぎゅっと握りしめていく様は、とても愛くるしいものがあった。
「スウェイ、どこにもいかないで」
「参りませんよ、お嬢様。ですから、せめて中に入る時は尾を離して―ードアを閉じられたら痛いっ」
「我慢して。怖いから」
「そんな‥‥‥」
夜の風物詩とも言うべき光景に、それは姿を変えていた。
どの子も心に闇を抱えていた。
母親とおさなくして離れた、もしくは失ってしまった。
そんな闇だ。
もしかしたらその闇は、年齢を負うにつれて消えていくものかもしれない。
死、がその原因だったなら。
成長していくうちに、納得を得るものになるのかも。
でも、親から拒絶されたものだとしたら‥‥‥。
「リシェル様はなんでそんなに強いんだよー」
「さあ? 勉強したかしら」
「俺、学院を卒業したら、もう一度、対戦申し込むからなー!」
「はいはい、お待ち申し上げておりますよ」
くっそーとリグは悔しそうにそう言い、木剣を腰に当てて礼をした。
隣でわたしたちの模擬試合を見ていたラグとカイエは興味なさげにふああっとあくびをしながら、スウェイに刺繍や裁縫を習っていた。
カイエは熊さんのぬいぐるみがほつれてくるのを、自分で修すといい、頑張ってこなしていた。
双子ちゃんたちとの触れ合いは、半年ほどで終わりを告げた。
「学校」
「そうだ、王国の子供は寄宿舎学校に入ることなる」
「そう――でした、ね」
夫は当たり前だというように、そう言った。
一年もしない間に、リグとラグは王都の王立学院へと進学し、寄宿舎学校に入ることになる。
六歳から十六歳までの長い、十年間。
でも、彼らにとっては光ある十年間。
どうか人生を彩りあるものにできる十年間にして欲しいと、夫とともにそう願った。
「カイエを養子に迎えたいという貴族がある」
「あなた、でもあの子はまだ幼いですわ。耐えれるでしょうか」
「……いずれこの家にいても、学院をでれば嫁がせることにある」
「家族、というには過ごすのに短い時間ですね。悲しい」
「慣れてくれ。君との間にできるはずの子供の為でもある」
まるで前妻二人の子供たちが邪魔でもあるかのように、エドワードはそう言った。
わたしにはそんな気は毛頭なく、むしろ、あらたに三人も家族が増えて嬉しかったのに。
その賑わいはたった半年かそこいらでしぼんでしまった。
そして、わたしがまたしても聞きたくなかったあのセリフを耳にすることになる。
「済まない。他に愛したい女性ができた。やはり、闇の属性を持つ君を我が家に置いておくには、世間体が悪い。出て行ってくれ」
スウェイに用意させたのだろう。
数個のスーツケースと共に運ばれてきたのは、わたしに付いて追い出されようとされている侍女と、一枚の紙。
離婚証明書だった。




