#123 獣王国へ
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『ララメルト・ソフィーナ』。
それが彼女――メルの本当の名前だった。
紅蓮は彼女の正体が獣王国の姫であることは知っていたのだが、他の仲間はそれを知らなかった。
だから、蒼華達も含めたメル以外の全員が、突然現れた獣人たちの言葉に目を丸くして驚いていた。
「うそ!? メルちゃん……って、お姫様だったの!?」
「メルちゃん……とは、ララメルト姫の事でしょうか」
獣人族の男たちの中で一番前にいた男――近衛隊長のオルノーが蒼華の言葉に応えた。
「貴方たちは一体……?」
「申し遅れました。我々は獣王国ペインより参上しました王直属の近衛騎士隊……その隊長を務めさせていただいている、オルノーと申します」
「獣王国の、王直属の近衛騎士隊……?」
まるでカルマ王直属の聖騎士団みたいだな、と蒼華は思う。
「そんで、俺がドイ。この隊の副隊長をやってるモンだ」
そう言いながらオルノーと並んだドイという獣人。
二人は、並んで立つと周囲の目を引くくらいには美形な獣人たちだった。
オルノーは金の爽やかな短髪で、身長も高く、キリッとした目元をしていて……犬のような耳や尻尾を生やした獣人だった。
ドイはそんなオルノーとは対照的に、銀の長髪を後ろで一つ結びにして垂らしていて、猫のような耳や尻尾を持つ獣人だった。
そんなドイは、オルノーと同じくらいの高身長で、顔もイケメン。だからこそ、二人が並ぶと周囲の女性が卒倒するくらいには破壊力のある並びだったのだ。
「ああ、こいつらは特に気にしなくてもいい。俺らの部下だからな」
ドイは後ろにいた六人の獣人たちを指さしながら言ったが、普通にその部下たちも美形な者達であった。
「それで、姫様――」
「――今更、父上がどうして私を探しているというのですか」
オルノーの言葉を遮って、メルが先程の蒼華のような若干の怒気を孕んだ声でそう言った。
それに驚く近衛隊の面々だったが、すぐにオルノーはメルの疑問に答える。
「――ララメルト姫。王は貴女のことをとても心配して……」
「私を売った本人が!? 馬鹿なことを言わないで! 父上が、私のことを心配なんてするはずがないでしょう!?」
「確かに、一度は売ってしまったかもしれませんが……それでも貴女の御父上はすぐに取り戻そうと必死に……」
「だとしても、一度売った時点でもうあの人を家族としては見れないのよ! だから、今すぐに帰って!」
「ですが……」
いきなり始まってしまった修羅場的展開に、蒼華や月島達はただ息を呑んでその場を見守ることしかできなかった。
「いいえ、それはできません」
「どうして!? いいから帰って! そしてあの人に伝えて! もう娘はいないんだって!」
「ダメです、姫様。是が非でも国に帰って、御父上に会っていただきます」
「いやよッ! 私には……私たちにはやらなくちゃいけないことがるの!」
「――やらなくてはならない事、ですか?」
メルのその一言に、オルノーが反応を示した。
「そうよ。私たちには、どうしてもやらなくちゃいけないことがあるの。だから、国に……家に帰ることは出来ないわ」
「……そうですか」
俯くオルノーを見て、メルは内心勝ったと思っていた。
が、すぐにオルノーはこう言ったのだ。
「――それでは、王から賜った権利を使わせていただきます」
そう言いながら一枚の紙を取り出し、それを広げながらオルノーはそこに書かれている事を読み上げていく。
「――ララメルト姫。貴女が……貴女方が成し遂げたいことを、獣王国が全力でお手伝いさせていただきます。ですから、一度でいいので……御父上と会っていただけないでしょうか」
たった一度。たった一度だけ父と会うだけで、獣王国が自分たちのバックについてくれる。
そういう権利をもらったのだと、オルノーは説明した。
その提案に、メルは心が揺らぐ。
父とは会いたくないが、獣王国が味方に付くことで得られる恩恵はきっとかなり大きいだろう、と。
「……もし、断ったら?」
「その時は、実力行使であなた方を無理矢理にでも週王国に連れて行きます」
「……どうしても、私と会いたいのね。あの人は」
「それだけ心配しておられましたから」
メルは、自分では決めきれないと思って、振り向いた。
「ソウカ様……私、どうすれば……」
「――メルちゃん。お節介かもだけど、一ついいかな」
「え……は、はい」
「家族は、大事にした方がいいよ。失ってから気付くことだって、あると思うし……ね」
蒼華のその言葉は、今この場にいる誰よりも重みがあるように感じられた。
だからこそ、メルは半分仕方なく……もう半分は覚悟を決めて、オルノーに振り返った。
「分かりました。貴方たちの提案を、飲みます。ただし、私の事は姫としてではなく、メルという一人の冒険者として扱ってください」
「……かしこまりました。善処させていただきますね」
「――待ってて、グレンさん。絶対に、貴方を見つけてみせるから」
こうして、蒼華や月島達は獣王国ペインへと向かうことになった。
――『十大武具』や、転生したという召喚者の一人が待つカティア大陸に向けて、オルノーたちは馬車を用意し、皆はそれに乗って出発する。
紅蓮が今だ地底にいることも知らず、物語は動いていた。
次回は月曜日更新です。新章開幕となります。
第一部完結の章になります! 更新までお待ちくださいませ~~~