#116 魔王と凡人の軌跡
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「――それでは、お聞きします。あなた方は、あの日……何がきっかけで争っていたんですか」
アレクが、重たい雰囲気の中静かにそう尋ねた。
それを聞いた蒼華は、一度小さく深呼吸をすると。
「……全てがあたしの体験じゃないけど……私たちの、旅の目的を話しますね」
蒼華の言葉に、アレク側の人間は静かに息を呑んだ。
アレクは小さく頷いて応えると、蒼華もそれを見て話し始める。
「そもそもの旅の始まりは、一人の少年が……とある霊と出会うところから始まりました」
それから蒼華は、紅蓮から聞いた話を中心に今までの出来事を振り返るように語りだした。
緋神紅蓮。あたしの弟が、この世界に召喚されてすぐに国外追放という仕打ちを受けました。
こういう世界に紅蓮はすごく憧れていたから、自分だけがこの世界で最底辺にいることを分からされて、紅蓮は絶望したと言っていました。
そして、誰にも迷惑をかけないように……一人静かに死のうとしていた紅蓮の前に、一本の剣があったそうです。
それは、この世界で【聖剣】と呼ばれるモノで、その剣に宿っていた霊が、紅蓮を救ってくれました。
それから紅蓮は、その霊に『桜花』という名を与え、二人は正式に契約をしたんです。
いったん平和になったのもつかの間、紅蓮には様々な衝撃的な出来事が連続して起きたそうです。
まず、大切な一人のクラスメイトが目の前で殺されてしまった事。
そして、殺したのがあたしたちの目標でもある魔王と呼ばれる存在であった事。
紅蓮は再び絶望して、二年間もの間広大な森でサバイバル生活で生き抜いていました。
そんな中、メルちゃんと出会って、その後すぐにあたしとも再会して……紅蓮はだんだんと活気を取り戻していきました。
その後、魔王軍の四天王を名乗るマグナという男に襲われ、何とか撃退しました。
だけど紅蓮はその戦いで重傷を負ってしまって、そんな時に出会ったのが冥だったんです。
それから色々とあって、聖騎士団とエルフの森の戦士たち、それからリベンジに来た魔王軍四天王のマグナを筆頭とする魔族たちの、三つ巴がありましたよね。
そこで、あたしは魔王と出会って……殺されたマグナから、とある力を授けてもらったんです。
だけど、その貰った力は、魔王が欲しているものだったみたいで、魔王の次のターゲットはマグナからあたしに移り変わりました。
その時、エルフの里で神を召喚するという、モネちゃんを利用した悪い儀式が行われようとしていて、戦場はさらに混沌と化しました。
その儀式は紅蓮が色々とやってくれて解決したんだけど、その後に魔王の部下の、四天王の序列一位を名乗る冥の兄――式神悠が現れて、紅蓮の持つ桜花ちゃん……【聖剣】を狙ったんです。
皆それぞれの戦いで既にボロボロ状態だったところを、紅蓮と桜花ちゃんが何とかしてくれて……魔王たちは退いていきました。
あたしたちは、それから魔王たちが狙っていた私の持つ力と、紅蓮の持つ【聖剣】について調べることにして、モネちゃんの記憶を頼りにエルフの里に再びやってきたんです。
里の地下に広がっていた書庫で、この世界に大昔から存在する伝説の武具――『十大武具』について私たちは知りました。
そこには他の武具の在り処も、僅かながら載っていたので、今度はそれを頼りに『ディクス大森林』の中にある湖まで向かい……そこで新たな『十大武具』を発見したんです。
あたしたちは、家族同然に育ってきた悠が、なんで魔王軍にいるのかを知りたくて、まずは悠をとっ捕まえることを目標にしつつ行動していたんですけど……。
こちらの予想通り、悠や魔王たちが私たちの元に現れて……。
けれど、予想外だったのが前に殺されたはずの紅蓮のクラスメイトの女の子が、魔王軍の一員になって復活していた事なんです。
それからあたしたちは、紅蓮の持つ『十大武具』とあたしの持つスキル『憤怒』を狙って圧倒的な力であたしたちを倒していって……。
「――それで、目が覚めたら……紅蓮がいなくなってて……あなた達が代わりにいて……」
蒼華が話し終えると、アレクは目を閉じて唸ってしまう。
「ううむ……」
月島や相園たちも、分かりやすいようにところどころかいつまんで話されたのだと分かっていても、想像以上の出来事に今は驚くことしかできないでいた。
「まあだから、まとめると……」
蒼華が人差し指を一本立てて言った。
「あたしたちは魔王軍から『十大武具』やスキルを奪われないように強くなりながら、各地に封印されている『十大武具』を集めつつ、魔王四天王になっていた悠と影咲さんって子を正気に戻すのが目的で」
続けて冥が人差し指を立ててこう言った。
「魔王たちは、私たちから『十大武具』やスキルを奪うのが目的、ってことです」
問いかけの主題であった、『きっかけ』や『目的』を端的にまとめて話した蒼華と冥。
そのまとめに、アレクたちは「なるほど」と静かに答えていた。
「あの、すみません……」
と、そこで月島が手を挙げる。
「こちらが用意していた事前に聞きたかった事が、一応全部分かったので、新しく質問思いついたんですけど」
「なんだ? 月島君」
「あ、はい……。えっと、事の顛末とかは分かったんですけど……その『十大武具』とか、あと緋神君とかって、どこに行ってしまったんですか……?」
そう。月島が疑問に思ったのは、あの日あの場所にいたはずの紅蓮が、アレクたちと向かった時にはその場にいなかった事なのだ。
もちろん落ちていた物は回収していたのだが、その中に【聖剣】らしき武器は一切無かったのだ。
となると当然、魔王か紅蓮かのどちらかが持って行ったことになるのだが……と月島は考えていた。
「……あたしたちだって……紅蓮がどこにいるのか、分からないんですよ……」
蒼華は、何度もスキル『溺愛』を使って紅蓮の気配を感知しようとしていた。
しかし、存在自体の気配は感知できても、具体的な位置までは感じ切れていなかったのだ。
「……そうですか……」
「まだまだ聞きたいことはありますが……その、ソウカ殿。今日は最後に一つだけお聞きしてもいいですか」
「はい、大丈夫ですよ」
「それでは――――皆さまは、その緋神君とはどのような関係でいらっしゃるのですか」
瞬間。蒼華達の目の色が、少しだけ変わった。
次回は明後日更新です。
若くして尿管結石などという病気が見つかってしまったので検査してきます。
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