第八話:辺境の領主は幸せを掴む
「ジョン・フリーデルは、レイナ殿を生涯守り続けます」
レイナはジョンの言葉を聞いてしばらくキョトンとしていたが、その意味を理解した途端、顔から火を噴いたように真っ赤になった。
「あ……あの……」
「私は貴女を生涯守り続けると言っています。ずっとレイナ殿の側に居続けます」
レイナは俯いて、指をモジモジさせ始めた。
「私……もう40歳だし……」
「自分も36歳です。レイナ殿と歳も近いですし貴女はまだまだ若い。とても魅力的で私はレイナ殿に夢中です」
ジョンはそう答えると左胸に当てていた左腕を降ろし、ジョンはレイナにゆっくり近づいた。ジョンに近づかれてレイナは声が更に小さくなっていく。
「ほら……私はディックを生んでますし……」
「国王は子を産んだ経験のある女性が良いと言っております。なにも問題はありません」
ジョンはレイナの肩を掴んで自分の正面に向かせ、それから指遊びをしているレイナの手を優しく肩から下方向に撫でるようにすることで腕を降ろさせる。レイナは下を向いたまま、震えながらジョンに言った。
「それに私は理人です……ジョン様は気持ち悪くありませんか?」
「それをいうなら私は400万近くの魔物を撃退した化け物です。レイナ殿は私の事が怖いですか?」
レイナは顔を上げると蒼い瞳を潤ませながら首を振る。その表情を見たジョンは笑顔を作りながら静かに腰を下ろして跪いた。そして真剣な顔になり、右の手のひらを上向きにして腕を延ばすようにレイナに差し出した。
「レイナ殿、是非私の妻となってください。必ず貴女のことを幸せにします」
レイナは瞳を嬉しさの涙でいっぱいにしながら、ディックの方を見て語りかけた。
「ディック……私……貴方を産むことができただけでも幸せだったのに、これ以上幸せになっていいのかなぁ……?」
レイナの言葉を聞いたディックは微笑んでゆっくり頷いた。ディックの頷きを見たレイナは右手で涙を拭き、左手でそっとジョンが差し出した手に触れる。
「私、レイナはジョン様の想いをお受け致します。不束ものですがこれからよろしくお願いいたします。本当にありがとうございます」
レイナの返事を聞いたジョンはレイナの左手を取ってゆっくりと引き寄せ、そのまま彼女を横抱きにした。レイナはいきなりバランスを崩したことに驚いて、慌ててジョンの首に腕をまわした。お姫様抱っこの状態でジョンはレイナに笑いかけ、レイナもジョンに微笑み返した。
幸せそうな二人の様子をみてディックは静かに拍手を送り、ロベルトも続いて拍手を送った。
◇
2週間後、ディックの屋敷には多くの馬車が到着していた。それらはフリーデル領にレイナを迎える馬車であった。
「じゃあディック、行ってくるね! 温泉を見つけたら必ずフリーデル領に呼ぶから、その時は夫婦で領地に来てね!」
「母上、またそんなことを……ジョン殿、母上をよろしくお願い致します」
ジョンは聞きなれない言葉を聞いたので困ってしまったが、それを気付いたディックが、ジョンに説明をした。
「母上はフリーデル領に温泉というお湯が湧く場所があるはずだというのです。そこを見つけたら浴場を作るので第4王女と来てくれと……まあ、いつもの母の過去の記憶です。過去の記憶のもの全てがこの世界にあるわけではないですから、あまり気にしないでください」
ディックは手と肩を上げて、そんなことはありえないという仕草をとったが、ジョンはしばらく考えてから言った。
「昔の報告に温かい川があるという報告があったような気がする。その時は確かめる余裕はなかったが……」
「ほら、やっぱり! ジョン様の領地なら温泉があると思ったの! ディック、楽しみにしていてね! でも、ダムと土手を整備してからだから、数十年後の事と思うけどね……」
するとレイナの話を聞いた二人は突然笑い出した。レイナは二人が笑っている理由がわからない。二人から仲間外れにされたように感じ、レイナは不満そう頬を膨らませた。
「申し訳ありません。母上が少し勘違いをしていることが分かりましたので……」
「勘違いって?」
その質問に対してディックの代わりにジョンが笑顔で答えた。
「レイナ殿、私は第二の理人である”武人”の子孫でもあるんです。フリーデル領には武人の血を引くものが多くいます。特に私はその血が色濃く出たようなのです。まあ、見せたほうが早いですね」
そういうとジョンは馬車の真ん中あたりを右手で持つ。その後ジョンは足を踏ん張り、そのまま馬車を片手で持ち上げた。
「ええ?!」
レイナは口に手を当てて驚いていた。するとジョンは馬車を持ち上げたまま、レイナに向かって笑顔で話しかける。
「理人はレイナ殿を合わせて4人目ですが、王国には理人の子孫が数多くいます。国王は初代の理人である賢人の直系の子孫なのです。だからレイナ殿にも頑張ってもらわないといけません」
ジョンの言葉を聞いてからレイナはその意味を理解し顔を真っ赤にした。すると今度はディックが呆れたように話し出す。
「ジョン殿が切羽詰まって私の両肩を掴んで話出した時は、骨を砕かれるのではないかと内心焦りましたよ。まあ、これで母上も理解できたと思います。ということで、フリーデル領の治水は2、3年で終わると思いますよ」
このような会話も終わり、レイナはジョンのいるフリーデル領に嫁いでいった。
◇
その十数年後、コルスタニア王国は再び水害と干ばつに見舞われた。それを機会とみた隣国が攻め入ってきたが、王国はフリーデル領とマーレン領から小麦を調達することで食料の不安をなくし、隣国の襲撃を軽々と撃退したという。その時に初老の騎士が大活躍し、隣には彼を支える聖母と呼ばれた女性がいたと語られている。
FIN.
色々な作風でものを書きたいと思い執筆をしています。今回はの長岡更紗様主催の「ワケアリ不惑女の新恋」企画に参加させて頂きました。
最終話のシーンを頭の中で描き、それに合わせた設定をプロットしていった感じです。ブックマーク、ポイントを頂けたことを本当に感謝したいと思います。
皆様が良い小説に出会えることを祈って。
茂木 多弥
※2020/7/26
りすこ様よりFA頂きました
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1489201/blogkey/2615573/
※2020/8/5
猫屋敷たまる様よりFAテロで頂きました
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