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TAME GATE psychic record  作者: 時扉
篠崎勇羅の宝條学園事件簿
98/283

48話・泪side

※警告!!



この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件には一切関係ありません。


勇羅編48話には暴力・性描写・犯罪に当たる描写及び精神的に不快を催す描写がございます。不快を催されましたら、直ちにブラウザをバックするようにお願いします。
















































―同時刻・聖域店内地下。


「おらっっ! さっさと吐きやがれ、このガキ共!!」

「一丁前にカッコつけんじゃねぇよ! 糞餓鬼がよォ!!」


意識を取り戻した夕妬達に見つかった泪と、背後から聖龍のメンバーによる不意討ちを受け、意識を失った鋼太朗。二人は聖域地下の別室へ連行され、それぞれが男達からの尋問(じんもん)を受けていた。


ただし行われているのは、尋問と言う生優しいものでなく、最早拷問に近い。二人は天井の鎖で両腕を吊るされた状態で、男達に殴られ続けて身体中痣だらけ。夕妬は激しい暴行を受ける二人を穏やかな微笑を浮かべながら、ずっと眺めているだけ。この異彩かつ暴力的な場所では、彼の微笑みは単純に得体の知れない雰囲気を放っている。


「どぅ? そろそろ宝條学園のみんなが、何処に居るのか話す気になった?」

「……」


あれだけ激しく殴られても、悲鳴すら上げずに一貫して無言を貫く泪。夕妬の命令で顔だけは見逃されているが、それ以外の場所は既に痣だらけとなっている。それにしても彼は余りに異常だ。この血生臭い状況下においても、ずっと笑みを浮かべるだけで顔色一つ変えないとは。


気絶していた鋼太朗の方も、尋問している男に一発殴られた衝撃で意識を取り戻したが、自分が吊るされているのと、隣で尋問を受けている泪を横目で確認し、すぐに自分達の状況を察したらしい。意識を取り戻しても、聖龍の男達は鋼太朗を殴る事を止めず、既に彼も何度も殴られている。

更に鋼太朗の方は、泪と逆に顔も容赦なく殴られているものの、この場を見て全てを察した鋼太朗も一貫して無言を貫いていた。


「二人共、相当強情だね…。遥かなる高みの世界に居る、僕達に真実を語らない事自体、君達の為にならないよ」

「……てめぇらに話す事なんざ何もねぇ」


鋼太朗は床へ唾を吐きながら言い捨てる。あれだけ痛め付けられても尚、鋼太朗や泪の目は一片の曇りがなく、この絶望的な状況を覆す事を全く諦めていない。そんな態度が勘に触ったのか、鋼太朗の鍛え上げられた腹に容赦のない拳が飛ぶ。


「…が、っ?!」

「うざってぇ! さっさと白状すりゃあいいんだよ!!」

「クッサイ台詞吐きやがって、いちいちカッコつけてんじゃねーよガキが!!」


言いたい放題言いまくりながら、二人を痛め付ける聖龍の面々に、泪も鋼太朗も内心は腹を据えかねていた。元々彼らは表社会に馴染めず落ちぶれ、外にあぶれてしまった人間の集団だ。歪な裏の世界から抜け出すことも出来ない彼らは、普通に笑い日々を真っ当に生きている人間が、妬ましくて仕方がないのだ。


「男の癖に、こんなに髪伸ばしやがって。てめぇ本当にオカマみてーだな!!」

「ぐっっ!!」

「顔も女みてーだし、こいつ隣のヤローとデキてんじゃねーの!? ギャハハハハ!!」


殴っていた男の一人が、泪の薄紅色の長い髪を乱暴に掴みながら、下品な笑い声を上げる。髪を引っ張られた直後、お下げの少女が鉄や煙の蔓延する部屋の中へ駆け込んで来た。


「やめてっ! なにしてるのっ!!」

「……みなも。どうして来ちゃったんだい?」


この血生臭い部屋に飛び込んで来たのは、宝條学園の三年制服を身に付けている冴木みなも。最近自分達の周りで見かけないと思ったが、まさかこんな物騒な場所で顔を合わせるとは。それ以前に何故この場所に、宝條学園の生徒が此処にいる。宝條の人間は自分達以外には決して聖龍などと言った、裏社会の連中と関わりがない筈だ。


「泪君には何もしないって言ったじゃない! もうやめてっ、泪君に酷い事しないでっ!」

「何故……。宝條の貴方が……此処に、いるのですか?」


前回の研究所の一件といい、冴木みなもの行動はまるでちぐはぐ過ぎる。こんな状況で話をしている場合ではないが、少しでも彼女へ何か一つでも質問して、問いただす必要がある。


「みなも。彼らの話を聞いちゃダメだよ」

「…黙り、なさい。僕は、冴木…さんに、聞いて…いる、んです…」


泪の言葉が夕妬への命令したと見なしたのか、夕妬が男に視線をやり合図を送ると、泪の腹に拳が叩き込まれる。腹を強く殴られた衝撃で、胃の中のものが込み上げそうになるが、気力を振り絞って、こみ上げて来た吐き気を食い縛る。


「ぐ……っ」

「いやあああぁぁっ、やめてっ!! 泪君っ、しっかりしてっ!」


夕妬は首を傾げながら、何故彼らを止めるの。と言わんばかりの不思議そうな顔をみなもへ向ける。


「どうしてやめさせるの? 彼は僕達の敵なんだよ」

「違うわっ、そんなのは違うの! 泪君は私達の味方になるの! だから私の大好きな泪君を傷付けないでっ!」


みなもは鎖に吊り上げられたまま、傷だらけの泪の方へ向くと泪の頬に手を当て、はにかみながら優しく泪へ向かって微笑む。誰もが見とれるような少女の慈愛の笑顔、場にそぐわぬ笑顔を見せられても泪は全く表情を変えない。


「泪君…もうやめよう。こんなことしても、私の大好きな泪君は絶対に幸せになれない…幸せになれないんだよ。だから…」

「ふざけ…ないで、ください、ね…。こんな奴らの、道具になるだなんて、真っ平…御免、被ります、よ」


学園では決して見せる事のない、冷徹な表情で泪はみなもを睨み付ける。笑顔を浮かべていたみなもは、瞬間的に泪から手を放しビクッと肩を震わせ、一瞬で不安げな表情になる。


「いや…絶対に嫌っ。泪君やめて…こんな事もうやめよう。私はただ、私の大好きな泪君に傷付いて欲しくないの。傷ついて欲しくないだけなの…」

「どうだか……僕は、前にも…あなたに、言いました…よ。貴方、自分以外の、人間なんて…どうでもいいんでしょう…。自分の、事にしか、頭にない女の命令を…聞く気など…毛頭、ありません」


女性を相手に全く動じず、辛辣な言葉を言い放つ泪に対し、夕妬はみなもに近づき、みなもの目の前で優しく微笑む。


「ほら…みなも。やっぱり彼は、優しい君を理解しようとしない。彼と君と住む世界が違うんだよ、ね?」

「違うっ、違うの! 私の大好きな泪君はそんな人じゃない!」


「みなも」


みなもの反論を遮るよう、みなもの唇に夕妬の唇が優しく触れ合う。



「い、いやあああああああああああぁぁぁぁっっ!!!!」



みなもの両目からはみるみる涙が溢れ、いやいやと首を横に振りながら後退り拒絶を示す。後退さるみなもの後ろは明らかに壁となっていて、もう彼女に逃げ場はない。



「わ、私のキスが…私の大好きな、泪君の為に…大事に大切な……大切な、キスが………ぁ」

「大丈夫だよ…。みなもの全ては僕達が、受け止めてあげる。僕達こそが絶対だから…これからは僕達が、みなもだけの世界になるから……ね?」

「嫌……いや、っ…こんなの……いや…ぁ…」



いきなり腕を拘束している鎖が外され、泪と鋼太朗は灰や埃にまみれた床へ、叩き付けられるように倒れる。そして夕妬はつまらなそうな表情をしながら、今だに壁際で身体を震え上がらせ、涙ぐむみなもを見ると言葉を放つ。



「この娘。もう飽きちゃった」



夕妬の一言だけの合図を機に、聖龍の男達が一斉にみなもを囲いだす。みなもを見る夕妬の表情は笑っていない。朦朧とする意識の中で、泪は夕妬の表情を見て確信した。


宇都宮夕妬は『あの女と同じ』人種なのだと。



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