裏切り
第二十一章
私はいつ、佐介に「終わりにしよう」と言うべきか、正直迷っていた。
あのことがあって、暫くデートはしてないが、もう言わなければいけないと考えていた。
「秋川さん」
そう声をかけられ振り向くと、涼介が立っていた。
「涼介!久しぶりだな」
「今から、帰るの?」
「うん」
「そっかー、じゃ、一緒に帰ってもいい?」
「うん、いいよ」
涼介も元気そうでよかった。
こいつ弱々しいけど、なんか可愛いんだよな。
「ねぇ、秋川さん・・」
「なに」
「僕ね・・気になってることがあるんだけど・・」
「なんだよ」
「秋川さんって・・もしかして2年の緒呂納って人と何かあるの?」
「えっ・・」
「僕ね・・実は、見ちゃったんだ」
「なにを?」
「秋川さんと緒呂納って人が歩いているところ」
げっ・・見られてたのか・・
「そ・・そっか・・」
「すごく仲良さそうにしてたけど・・」
「そ・・そうかなあ?」
「うん」
「あ・・あれは・・たまたまっつーか・・」
「そうなんだ。たまたま・・」
「別に・・何もないから・・気にすんな」
「そうなんだ・・それならいいんだけど・・」
「あっ!それよりさ、お茶でもする?」
「えっ!!」
「なんだよ、驚くことでもねぇだろ」
「い・・いや・・」
「なんだ、嫌なのか」
「そっ・・そんな!嬉しいよ!」
「そっか。じゃあそこのカフェでも行くか」
「うん!」
かわいいやつだな。お茶するくらいで、こんなに嬉しそうにして。
カフェに入り、私たちは窓際の席に座った。
「こうしてると、デートみてぇだな」
「えええっ!デ・・デートって・・」
「あはは、冗談だよ」
「もうーー秋川さんったら!」
私たちは、カフェラテを注文した。
「涼介、勉強はどうだ?」
「あー、もうすぐ期末だね」
「そうなんだよ。私、困っちゃっててさ」
「なにを?」
「その・・試験が不安で」
「えー、だって秋川さん、中間は学年でトップテンに入ってたのに」
「そうなんだけどさ・・」
「秋川さんなら大丈夫だよ。きっとまたトップテンだよ」
「それならいいんだが・・」
「大丈夫!」
「そっか。ありがとう、涼介」
こいつも優しいやつだ。いい子だな、涼介。
「これ、美味しいね」
カフェラテを飲みながら涼介がそう言った。
「そうだな。美味しいな」
「秋川さんって、将来は何になりたいの?」
「通訳」
「わーーすごいね!通訳なんて」
「そかな」
「うん、秋川さんにぴったりだよ。翻訳家でもいいんじゃない?」
「なるほどー、翻訳家か。それもいいね」
「秋川さんって、勉強もできるし、ケンカも強いし、根性あるし、結構かわいいし、完璧だね」
「結構ってなんだよ、結構って」
「あはは、ごめん。とてもかわいいよ」
「あはは、おもしれーな、涼介は」
そう言って、ふと窓の外に目をやると、そこには佐介と麗華が並んで歩いているのが見えた。
なっ・・・なんだ、あの二人・・
なんであいつらが一緒に歩いているんだ・・
「どうかしたの?秋川さん」
「え・・いや・・別に」
「あっ!あれは緒呂納という人じゃないの・・?」
私の視線を追って、涼介は佐介を見つけた。
「隣にいる人は・・同じ学校の生徒だよね・・?」
「ああ・・」
「あの二人・・付き合ってるのかな」
えっ・・・私は涼介の言葉に絶句した。
付き合ってる・・?ま・・まさか・・
「涼介、私、ちょっと行くとこあるから」
「ええっ!」
そう言って、レジを済ませて私は店を出た。
私は佐介の後を追いかけた。
「あ・・秋川さん!ちょっと待って!」
涼介が私を追いかけて来た。
「涼介、もうお前は帰れ」
「ええっ!そんな」
「いいから、帰れって」
「秋川さんはどこへ行くの?」
「お前には関係ねぇよ」
そう言って私は涼介を放ったまま、佐介の後をつけた。
「佐介・・」
そう声をかけると、佐介は私を見て驚いていた。
「千菜美・・」
「これはどういうことだ」
「ああ、麗華のことか」
「そうだ」
麗華は私を見るのを避けていた。
「千菜美・・落ち着いて。ちゃんと説明するからこっちに来て」
そう言って佐介は、人通りの少ない路地へ私と麗華を連れて行った。
「千菜美・・勘違いしないでくれ、これにはわけがあるんだ」
「どんなわけだ」
私がそう言うと、佐介は私の傍に立って、私の耳に口を当てた。
なっ・・なんだ・・
「千菜美・・俺は、おまえが・・・だよ・・」
なんだ・・?今、なんて言ったんだ・・・
「佐介、よく聴こえねぇよ・・」
すると佐介はもう一度私の耳元で囁いた。
「千菜美・・俺は、お前がうぜぇんだよ」
え・・・なに??なんだ・・?
今・・うぜぇって言った・・・??
私の聞き間違いか・・・?
私が驚いて佐介を見ると、佐介は悪魔のような顔で笑っていた。
なっんなんだ・・・どういうことだ・・
「聞こえなかったのか?」
「ど・・どういうことだ・・」
「俺は、お前が、ずっとうざかったんだよ」
佐介は、まるで悪魔が囁くように笑ながらそう言い、麗華も笑っていた。
私は頭が混乱して、言葉が出なかった。
「俺が本気でお前なんか好きになると思ってたのか?」
「・・・」
「言われなきゃ気がつかないなんて、お前って超ダセーのな」
佐介はそう言って、高笑いした。
「お前さ、女のくせにえっらそーに、まるでヒーロー気取りかよ。虐めはダメだ?バッカじゃねーのか。先生にも逆らって、虐め撲滅に成功しましたー!ってか。それで満足かよ」
「お前・・なにを言ってるんだ・・」
「はっ!まだわかんねーの?俺は最初からお前なんか大っ嫌いなんだよ。この際だから教えてやろうか。俺が小学生の時虐められたってのな、あんなもん嘘だぜ。あれは俺が虐めてたんだよ。引っ越したのもそのせいさ。親が恥ずかしいとか言っちゃってさ」
「なんだと!!」
「それからな、俺がお前に近づいたのは、俺に惚れさせてとことん苦しめてやるつもりだったんだぜ。まあそれは、あと一歩ってところまで来てたんだがな。惜しいことをしたぜ」
「てめぇ・・なんでそこまでする必要があったんだ」
「まだわからねぇか?お前みたいなヒーロー気取りの偽善者には虫唾が走るからだよ!!」
「麗華!お前もグルだったのか」
「そうでございますわよ。それがなにか?」
「てめぇら・・地獄へ落ちろ・・」
「またヒーローやるのか?」
「ぶっ殺す!!」
「秋川さん!!やめて!」
振り向くと、涼介が後ろに立っていた。
「涼介!!お前、帰ったんじゃなかったのか!」
「秋川さんが心配で、後をつけて来たんだ」
「バカか!」
「ほーら、お仲間のお出ましだ」
佐介がバカにしたようにそう言った。
「黙れ・・クソガキが」
「なーに言ってんだか。俺のことが好きなくせに。でしょ?違うのかな~~」
「てめぇみたいな、クズ野郎・・見たことがねぇぜ。これまで虐めをやってたやつらは単なるクソガキだったが、てめぇは骨の髄まで腐ってやがる。人間ですらねぇぜ」
「何とでも言いな。痛くも痒くもねぇっての」
「秋川さん!ダメだよ。そんなクズ野郎、相手にする価値すらないよ!」
「涼介、お前は黙ってろ」
「いや、黙ってない!秋川さんは、こんなやつ相手にしちゃいけないよ。殴る価値も蹴る価値もないよ。お願いだから手を出さないで!」
「うるせぇ!私は今、どうしようもないくらい、こいつらをぶっ殺したいと思ってんだよ!」
「ダメだ!そんなことするなら、僕が命懸けで止めるからね!」
そう言って涼介は、私の体に腕を回して来た。
「離せ!涼介!」
「いや、離さない!」
「ダッセー。なに茶番やってんの。あ~あ」
佐介があくびしながらそう言った。
「佐介、そろそろまいりませんこと?わたくし退屈で仕方がありませんわ」
「だな」
「待ちやがれ!!逃げようたって、そうはいかねぇぞ!」
「はいはい~~そうやっていつまでもわめけ」
そう言って佐介と麗華は去って行った。
「涼介!!離せ!」
「ダメだ!止めると言うまで離さないよ!」
「涼介・・」
「ぼ・・僕は・・秋川さんを守る!あんなやつらのために、秋川さんの手を汚したくない!」
「・・・」
「お願い・・止めると言って!」
「わかったよ・・だから離せ」
「ほんと?ほんとだね?」
「ああ・・」
そして涼介は私から腕を離した。
「くそっ・・・」
私はそう呟いたら、涙が溢れて来た。
「秋川さん・・」
「涼介・・私は我慢ならねぇ・・」
「わかるよ。だけど絶対にダメだ」
「どうしてだ!」
「先生に報告しようよ」
「くっ・・あんな先公らなんか、なんのあてにもなるもんか!」
「僕、言うよ。ちゃんと先生に言って、あいつらを処分してもらうよ」
「だから・・その先公たちは・・」
「やってみなくちゃわからないじゃないか!」
「え・・・」
「これは、明きらかに虐めだよ。それを解決するのは学校だよ。先生だよ」
「でもっ・・」
「ねぇ、秋川さん・・」
「なんだ」
「みんな秋川さんみたいに自分で解決できる子ばかりじゃないんだ。だから先生に解決してもらわなくちゃ、これから虐められる子は誰を頼ればいいの?」
「それは・・」
「全部、秋川さんが解決するの?」
「・・・」
「僕、絶対に諦めないから」
「涼介・・」
「僕ね、秋川さんに助けられて、色々考えたんだ」
「・・・」
「自分で何もできなくて、先生や親に言うことすらできなくて・・でも、それじゃ虐めはなくならないんだ。やっぱり誰かを頼るべきなんだ。その誰かは先生なんだよ」
「・・・」
「ごめん・・生意気言って・・」
「いや・・涼介、お前は強いな・・」
「え・・」
「私は何でも感情任せにやってきたけど、お前はちゃんと考えてるんだな」
「そんな・・」
「私を止めるために、命懸けなんて言いやがって・・」
「それは・・」
「ほんと、バカだな、お前」
「・・・」
「わかったよ。涼介の言う通りにする。私も一緒に先生に言うよ」
「うん!そうだよ!よかった!」
涼介・・お前ってやつは・・ありがとう。
第二十一章END




