緊急保護者会
第十三章
「今日さ、2組の祥雲の親父が学校へ乗り込んで来てさ」
私はテレビを観ながら、千菜美にそう言った。
「えっ、祥雲って、涼介くんを虐めてた男子?」
「そう。それでお母さんさ、また切れちゃって・・」
「ええ・・。それでどうなったの?」
「あの親父、酷いんだよ。自分の息子は被害者だー!って」
「そうなんだ・・」
「まあ、あんな唯我独尊親父なら、きっと息子にも頭ごなしにもの言ってんだろうな」
「そっか・・」
「千菜美の退学のことも、あの親父が絡んでんだよ」
「そうなんだ・・」
「ごめんよ・・千菜美・・」
「なにが?」
「こんな騒ぎになって、退学とか言われちゃってさ・・」
「なに言ってるの?お母さんは間違ってないよ」
「でも・・ほんとに退学とかなったら、アンタに申し訳なくて・・」
「だから、前にも言ったけど、私だったら自分の虐めすら何もできなかったよ。涼介くんだってきっとまだ虐められていたはず・・」
「まあなぁ・・」
「私ね、お母さん見てて、乱暴だなって思うし、もういいのにって思ったりもしたんだけど、それって嫌なことから逃げてるだけなんだよね」
「そうかな」
「お母さんの場合、極端なだけで、絶対に間違ってないもん」
「そっか・・」
「だから私、もう、とことんやっちゃってって思ってるの」
「あはは、とことんか・・」
「いや・・本当は私がやらなくちゃいけないことだったんだけど・・・そんな勇気がなかったし・・」
「無理ないよ。あの雰囲気だったら、みんな千菜美みたいになって当然だよ」
「お母さんって、なんでそんなに強いの?」
「そりゃ千菜美のために決まってるじゃん」
「・・・」
「親ってのは、子供のためなら強くなれるんだよ」
「そうなんだ・・」
「ま、私の場合、性格もあるけどさ。あはは」
「あはは。かなりそれはあるね」
「なんだとーー!」
「きゃーー」
私は千菜美の体をくすぐった。
千菜美・・ごめんよ。
こんな母さんでごめんよ。
--------本日、某踏切で都内の中学に通うAさんが電車にはねられ、まもなく死亡しました。どうやら自殺とみられています。調べによりますと、日頃から虐められていたという証言もあり、警察は学校側にも事情を訊いている模様です。なお、Aさんの母親によりますと、最近まったく元気がなかったということです。では次のニュースです・・・
嫌なニュースだな・・また虐め自殺か・・・
かわいそうに・・・まだ中学生じゃないか。。
親は居た堪れないだろうな・・・
千菜美を見ると泣いていた。
「泣くな・・千菜美・・」
「ううう・・・」
「千菜美・・これからどんなに嫌なことや、辛いことがあっても絶対に死ぬんじゃねぇぞ」
「う・・うん・・」
「それだけは、絶対に許さねぇからな。よく覚えておけ」
「うん・・」
それから数日後、緊急保護者会が行われることになった。
どうやら保護者の人たちが、虐めの噂を聞きつけて、説明を求めたらしい。
それで学校側も仕方なく要望に応じたらしい。
千菜美も「母親」として出席することになった。
「お母さんも着いて行くからな」
「え・・でも、保護者だけって書いてあるよ」
「そんなもん信用できるか。きっとお茶を濁されて終わりだ」
「そうなの・・?」
「ああ。そうだ」
体育館には大勢の保護者が集まっていた。
私と千菜美も椅子に座って待った。
「秋川・・なんでお前まで来たんだ」
高峰が私を見つけて、そう言ってきた。
「うるせえ、黙ってろ」
「くっ・・」
高峰は私を睨みつけて、前の方へ歩いて行った。
「お・・おかあさん・・「うるせぇ」って・・」
「いいんだよ・・私はいつも高峰にはあんなだよ・・」
私たちは小声でそう囁いた。
「えー、本日はわざわざご足労いただきまして、大変恐縮でございます。本日お集まりいただいたのは、わが校での虐めのことについてでございます。この度は保護者の皆様には大変ご心配をおかけし、申し訳ないと思っております。それでは早速、校長からご説明させていただきます。そのあと、皆様からの質問等をお受けいたします」
「皆様、こんばんは。校長の下頭でございます。この度は皆様に大変ご心配をおかけし、申し訳ございません。それで虐めの件ですが、色々と調べましたところ、本校にはその事実がないとの結論に至りました。とは言え、小競り合いと申しますか、ケンカのようなものは多々ございましたが、それは虐めという類のものではありません。ですので、皆様のご心配には及びませんのでどうぞご安心ください」
なっっっっにーーー!!
このクソハゲ!嘘言ってんじゃねーーよ!!
私が席を立とうとしたら、千菜美が服を引っ張って私を制した。
「なんでよ、ちな・・いや、お母さん」
「千菜美・・落ち着きない」
「なんでたよ」
「まず、話を聞きなさい」
「・・・」
私はとりあえず、抑えた。
「それでは、虐めがあったと噂された、1年3組の高峰先生からご説明いたします」
そういえば・・浦佐加先生はどうしたんだ?
先生たちの中に、いないぞ。
なにかあったのか・・・
「1年3組担任の高峰でございます。えー、私のクラスの女生徒が虐めを受けているとのことですが、そのような事実はございません。先ほど校長からもありましたが、些細なケンカのようなものはありましたが、虐めではございません。ですので噂はあくまでも噂に過ぎません。どうか皆様方には誤解のなきようご納得いただければと存じます」
高峰の野郎・・・ぶっ殺す!!
私は怒りで体か震えてきた。
「では、ご質問のあるかた、どうぞ挙手でお願いします」
「はい」
ある保護者が手を挙げた。
「私は1年3組の保護者ですが、以前、授業参観の際にクラスの女生徒が「虐めがあります」と話していましたが、それもケンカということですか?」
「はい、そうでございます」
高峰の野郎・・涼しい顔して答えやがって・・・くそっ・・
「でも、あの女生徒の話では、具体的な内容だったと記憶していますが・・」
「あれはですね・・ケンカを虐めと言っただけです」
「そうなんですか・・うーん・・」
「ご心配頂くことはなにもございませんので、どうぞご安心ください」
「そ・・そうですか・・」
その保護者は引き下がった。
こうなることはわかっていた。
千菜美を見ると、体が震えていた。
「大丈夫か・・?」
「・・・」
「はい!」
千菜美がいきなり手を挙げた。
「ど・・どうぞ・・」
高峰は、バツが悪そうにそう言った。
「私は1年3組の秋川千菜美の母親です。娘の千菜美は確かに虐められていました」
すると保護者達から「ええーー」という声が上がった。
「秋川さん・・だから、それは勘違いだと・・」
「いいえ!勘違いではありません!千菜美は毎日虐められていました!先生に相談しましたが、何もしてくれませんでした!」
「秋川さん!」
「千菜美は、毎日、体育倉庫へ連れて行かれ、蹴られていました。「うざい、きもい」と言われ続けました!」
保護者から「どうなってんだー!」という声が上がった。
「千菜美が何度「やめて」と言っても止めてくれませんでした。トイレにも連れて行かれ水をかけられました。靴も隠されました。それから・・それから・・「死ね」とも言われました・・」
千菜美は泣きながら訴えていた。
千菜美・・・ううう・・私も涙が溢れてきた。
「でも・・でも・・千菜美は、その子たちを許し、今では友達になっています。家にも遊びに来てくれて、私にも謝ってくれました」
館内はシーンとなっていた。
「その子は、はっきりと「虐めてました」と言いました!でも私はその子を恨んだりしてません。だから名前も公表しません。ただ、学校はこの事実を隠し、無かったことにしようとしています。私は絶対にそれは許せません!」
保護者から「どういうことだ!説明しろ!」という怒号の様な声があちこちから上がった。
高峰も校長も汗だくになり、何も言えないでいた。
「も・・申し訳ありません・・しかし・・学校といたしましては・・その・・虐めはなかったという結論に至りまして・・」
「なにいってんだ!今、具体的な証言があったじゃないか!」
保護者の一人がそう声を上げた。
「ですが・・それはですね・・」
私は席を立ち、舞台へ上がった。
「秋川!なんだ!」
「うるせえ、私が話す」
「みなさん、私がその千菜美です」
すると保護者から「おおー」という声が上がった。
「今、私の母から説明したとおりです。虐めはありました。しかしここにいらっしゃる高峰先生も、校長先生も、虐めの事実を知っておきながらずっと隠して来たのです。高峰先生は実際に虐めの現場を目撃したにもかかわらず、無かったことにしました」
「酷いじゃないか!」
また保護者から声が上がった。
「みなさん、その時、高峰先生はなんて言ったと思いますか?「誰にも言うな、黙ってろ」と言ったんです。更に校長にもそのことを話しました。でもその時点で虐めは私たちだけで解決しましたので、校長は「今更蒸し返すな」と言ったのです。これがこの学校の真実です」
「秋川さん・・もう・・そのへんで・・」
高峰は今にも倒れそうな表情だった。
私は舞台から降りて席へ戻った。
その後は、保護者から怒号が飛び交い、校長と高峰は対応に苦慮していた。
よし。これで学校は事実として認めなければならなくなった。
私と千菜美は、途中で席を立ち、帰ることにした。
「千菜美・・よく頑張って言えたね」
「うん・・我慢できなかった・・」
「お母さんは、いつかは千菜美の口から言うべきだと思っていたから、ほんとによかったよ」
「お母さん・・かっこよかった」
「あはは、そうかー」
「また、うるせぇとか、てめぇとか言うんじゃないかとヒヤヒヤしたけど・・」
「あっはは。高峰には小声で言ったけどな」
「そうなのー?」
「でも、これでよかった。もう学校は隠ぺいできなくなったからね」
「うん」
それにしても、浦佐加先生・・どうしたんだろう。
そこが私には引っかかっていた。
第十三章END




