祥雲啓隆の告白
第十四章
次の日、私は浦佐加先生に話を訊こうと、職員室へ行った。
見渡しても浦佐加先生はいない。。どういうことだ・・?
私は数学の小知先生に、尋ねた。
この先生、いつも思うんだけど、風邪か吹いたら飛ばされそうな小さな体だな。
「先生、浦佐加先生はお休みですか?」
「あ、秋川さん。浦佐加先生ですか・・えっと・・確か出張だと思うけど」
「出張?」
「研修会があってね。でも午後にはお戻りになると思いますよ」
「そうですか。ありがとうございました」
「あ、それより秋川さん」
「はい」
「あなた、最近どうしたの?」
「どうって・・?」
「成績が落ちてるじゃない」
「あっ・・」
「しかも、すごく下がってる」
「はい・・すみません」
「今回、虐めのことで大変だったのは知ってますけど、もう少し勉強も頑張らないと」
「はあ・・」
「でも、あなた、偉いわね」
「え?」
「私は講師だから、特に口は挟めないけど、この間の「啖呵」には驚いたわ」
「啖呵?」
「ほら、ここで。校長のこと「ハゲ!」とか言って」
「ああ~~」
「あれくらい勉強も頑張ってくれると嬉しいんだけど」
「はい、頑張ります」
「わからないところがあったら、いつでも聞いてね。教えてあげるから」
「ありがとうございます」
私は深々と頭を下げて、職員室を出た。
いい先生だな。小知先生。
数学かぁ~~なんでこの世に数学というものが存在するんだ。
でも頑張らないと、千菜美に申し訳ないしな。
それにしても浦佐加先生は出張なのか。
ま、それなら仕方がないな。
「千菜美、昨日、保護者会行ったんだって?」
教室に戻った私に美冴が声をかけてきた。
「うん、行ったよ」
「私のお母さんも行ったんだけど・・お母さん、帰って来たら泣いてた・・」
「ああ・・そっか・・」
「私、また怒られちゃってね・・」
「そっか・・ごめん・・」
「なに言ってんのよ。千菜美が謝ることじゃないよ」
「うん・・」
なんか、辛いな・・
「それにしても、校長と高峰、酷かったらしいね」
「そうなんだよ、あいつらマジで腐ってるよ」
「だね・・」
「でも、これで隠せなくなったから、よかったよ」
「うん、そだね」
「美冴、なんか・・ごめん・・お前、辛いだろう」
「ううん。だって私が悪かったんだもん」
「そか。。」
「それより、千菜美と友達になれたことの方が、何倍も嬉しいよ」
「・・・」
「私さ、どんなこと言われても、逃げないって決めたんだ」
「そっか・・」
「例え、虐められることがあっても戦うって決めたし」
「そっか・・」
「それから虐めを見つけたら、絶対に助けてあげるんだ」
「・・・」
美冴・・なんていいやつなんだ、お前は。
「私も美冴と友達になれて、本当によかったと思ってるよ」
「そう!?嬉しいな~~」
「何かあったら、私が絶対に守ってやるからな」
「ヤダ~~私、そんなにヤワじゃないよー」
「私が虐められても助けてくれる?」
「あっはは。誰が千菜美を虐めるっていうの?ムリムリ」
「あはは、そだな」
それから午後になり、浦佐加先生が帰って来た。
「浦佐加先生!」
「あ、秋川さん」
「出張に行ってたらしいですね」
「そうなのよ・・」
あれ・・?なんか変だぞ。
「え・・どうかしたんですか?」
「行ってたっていうか・・行かされたのよ・・」
「どういうことですか?」
「昨日の保護者会に出させないようにしたのね・・校長が」
「ええっっ!!」
「まあ、具体的にそう言われたわけじゃないけど、事実上、そういうことよ」
「なっんだよ・・それっ」
「私がいたら都合が悪かったんでしょうね」
「そうですか・・」
「それで、どうだったの?保護者会は」
そう訊かれて私は全部話した。
「そっか。よかったね」
「はい」
「でも、私のクラスのことは、まだ解決してないわ」
「はい・・」
「私はクラスで保護者会を開くわ」
「そうなんですか」
「絶対に、このままにしておけないわ」
そっか。浦佐加先生も、いよいよ動き出すんだな。
でも、2組にはあの親父がいるからな~
これは、かなり手ごわいぞ。
それから数日後、2組で保護者会が開かれた。
私も廊下で聞くことにした。
「保護者の皆さま、本日はお忙しい中、お集まりいただき、ありがとうございます。お渡ししたプリントにも書いてございますが、このクラスで虐めがありまして、そのお話をさせていただきたいと思います」
それから浦佐加先生は具体的ないじめの内容を話した。
「私は・・自分の息子が虐められていることなど・・全く存じませんでした・・」
力のない声で、涼介の母親らしき人がそう話していた。
「私もずっと気がつけずに、大変申し訳ありませんでした」
浦佐加先生がそう言った。
「今はどうなってるんですか?」
一人の保護者がそう言った。
「今は、解決したのですが、それは私ども教師が解決したのではなくて、ある女生徒が橋成くんを救ってくれたのです」
「ええっ?生徒がですが・・」
「はい。私たちは何も出来ませんでした。そこのとは心よりお詫び申し上げます・・」
タタタタ・・・
横に目をやると、涼介の親父が恐ろしい顔をして走って来た。
「失礼する!」
いきなりそう言って、親父が教室に入って行った。
「祥雲さん・・」
浦佐加先生がそう言った。
「なんだね!この保護者会はっ!」
「祥雲さん、落ち着いてください。どうぞお掛けになって・・」
「なんだと訊いているんだ!」
「祥雲さん!座ってください!」
浦佐加先生が、怒鳴った。
「なんだね、君はっ!前にも言ったが、息子は被害者なんだぞ!」
「だから、それは違うと、何度申し上げたらわかってくださるんですか!」
「息子は、暴力をふるわれ、顔が腫れあがったんだぞ!」
「祥雲さん、座りましょうよ」
一人の保護者から声が上がった。
「みなさん!虐められたのは息子の方なんですよ!」
親父が怒鳴った。
「それを話し合うのがこの保護者会なんじゃないですか?一方的にあなたの言い分を聞く会じゃありませんよ」
さっきの保護者がそう言った。
他の保護者からも「そうだ」という声が上がった。
そう言われた親父は、やっと座った風だった。
「この保護者会は、虐めた生徒たちを糾弾する場ではありません。今回のことをご存じなかったみなさまに、きちんと事実をお伝えする場です。先ほども申しましたように虐めはありました。しかしわが校ではその事実を隠そうとしました。私ども教師の反省も含め、今後はこのようなことが無いように致しますので、どうぞご理解ください」
「その女生徒っていうのは、誰なんですか?このクラスの子ですか?」
一人の保護者がそう言った。
「いえ、別のクラスの子です」
「そいつが私の息子に暴力をふるったんですよ!全治二週間ですよ!二週間!」
「でも、その子が橋成くんを助けたんでしょう?」
さっきの保護者がそう言った。
「だから、私の息子は被害者だと、何度言ったらわかるんですか!」
「ちょっと、祥雲さん。あんた頭おかしいんじゃないのか?虐められている橋成くんを助けた時に、そりゃ殴り合いにもなるだろうよ。それでもって暴力をふるわれたとか、筋違いも甚だしいよ」
別の保護者がそう言った。
「息子は虐めなどしていない!校長もそう言ってるんだぞ!」
「じゃあ、息子さんに訊けばわかるんじゃないか?」
「うううう・・」
後ろを振り向くと、下を向いて泣いている祥雲が立っていた。
「祥雲じゃねぇか。お前、なにしてんだ」
私がそう言うと、祥雲は教室の中へ入って行った。
「祥雲くん・・」
浦佐加先生がそう言った。
「お父さん!もうやめてくれ!僕は橋成を虐めてた。虐めてたんだよ!」
「啓隆!嘘を言うな!」
「嘘じゃない!虐めてた!それと秋川は橋成を助けるためにケンカになったんだ」
「なんだと!」
「だから、もうやめてくれ!」
そう言って祥雲は、号泣していた。
「祥雲くん・・よく話してくれましたね」
「先生・・ごめんなさい・・僕・・僕・・」
「もういいよ。わかったから。さ、行きなさい」
「はい・・」
そして祥雲は教室から出て来た。
「祥雲・・」
「秋川・・ごめん・・」
「いや、私の方こそ、悪かった。ケガはもういいのか?」
「うん・・」
そう言って祥雲は走って行った。
第十四章END




