暴力事件
第十章
私は理科室を出た後、校舎の裏へ向かった。
絶対に許さねぇからな・・あいつら。
するとそこには、涼介が弱々しく戦っている光景が私の目に飛び込んで来た。
「涼介!!」
私は急いでその場に駆け寄った。
「てめぇら!さしで勝負しろや!さしで!」
「うざいのが来たぜ~~」
飯坂がそう言った。
「飯坂!てめぇ、なに人にやらせてんだよ!」
「うるせえよ」
くっそ・・・
私は涼介と男子たちの中に割って入った。
「あ・・秋川さん・・」
「涼介、大丈夫か!」
「は・・はい・・!」
「無理すんなよ」
「ぼ・・・僕・・戦います!」
「そうか、わかった!」
私と涼介は夢中で応戦した。
このモヤシ野郎めが!
おりゃーーー!!
私は往年の必殺技「金蹴り」を食らわした。
祥雲と吉塚は、股を抱えてしゃがみこんだ。
そこで一発蹴りを入れて止めを刺した。
涼介は黒川と戦っていた。
当然、涼介はやられっぱなしだったが、私は暫く見ていた。
頑張れ、涼介。怯むな。
「くそっ・・・くそっ・・」
そう言いながら涼介は、必死に戦っていた。
「おい、飯坂」
「なんだよ」
「てめぇの相手は私だ。来いよ」
「う・・・うるせえ!」
「はっ。このヘタレがっ!じゃあこっちから行ってやるよ!」
そう言って私は飯坂に殴りかかって行った。
「っなにすんだよっ!痛ぇじゃねーーか!」
「うるせえーー!つべこべ言ってんじゃねぇー!」
飯坂も殴りかかって来た。
ふんっ。なんだ、そのなまくらパンチは。
そんなもんかよ。
私は回し蹴りを二発食らわした。
飯坂は、後ずさりしながら倒れた。
私は飯坂の首根っこを掴んで、睨みつけた。
「まだやるか?」
「う・・うるせえよ・・」
「まだやるかっつってんだよ!」
「くそっ・・・」
涼介を見ると、倒れこんでいた。
ヤバイ!
「黒川ーー!!いい加減にしろ!!」
そう言って私は、黒川の腕を掴んだ。
「はっ・・離せっ!」
「やめろっつってんだよ!クソがっ!」
私は黒川に金蹴りを入れた。
「うっ・・・」
黒川はしゃがみこんで、唸っていた。
「君たち!何をやってるんだ!」
振り向くと、高峰が立っていた。
「先生・・」
「秋川!これは一体、どういうことだ!」
「どういうことって。見ての通りだよ」
「お前、暴力なんぞ使って、どういうつもりだ!」
「はああ??」
高峰、お前、マジでそれ言ってんのか。
「先生、こいつらが涼介に暴力ふるってたんだよ」
「だからと言って、お前も同じようにしていいわけはないだろう!」
「だったら、どうすればよかったってんだ!」
「と・・とりあえず、口で制してだな・・」
「はあ??口で言って聞くようならとっくにやってるさ!」
「と・・とにかく暴力はいけない!」
「お前さ、それ、私に言うんじゃなくて、飯坂たちに言えよ!」
「もちろんだ」
「っつーかさ、これはケンカじゃねぇんだよ、虐めなんだよ」
「また虐めか」
「そうだよ!涼介は、こいつらに虐められてんだよ!」
「涼介君・・そうなのか・・?」
「はい。僕・・虐められてます」
「わ・・わかった・・このことは・・」
「誰にも言うなってんだろ?誰がお前になんか言うか!」
「なっ・・なにっ・・」
「涼介、行こうぜ」
「うん・・」
ったくよ・・・なんだ、高峰の野郎。
マジで腐ってるな、あいつ。
「涼介、大丈夫か?」
私は帰りながらそう訊いた。
「うん」
「そっか」
でも涼介は、相当殴られていたから、痛いはずだ。
「でもお前、よく戦ったな」
「うん。僕・・ちょっと勇気が出て来た」
「そっか。偉いな、涼介」
「それより、秋川さん、大丈夫なの・・?」
「うん、こんなのなんでもないよ」
「すごかった・・秋川さんの股攻撃・・」
「あはは。金蹴りって言うんだよ」
「そっか。あはは」
涼介の笑顔を見て、私は少し救われた。
「千菜美~~~」
振り向くと美冴が走って来た。
「おお、美冴」
「ハアハア・・ご・・ごめん。間に合わなかった・・」
「え?」
「校舎の裏で・・ハアハア・・」
「ああ~~、いいよ、そんなの」
「で・・どうだったの?」
「行ったらさ、涼介がボコられてて・・」
「えっ、そうなんだ・・」
「でも、涼介、すごいんだよ。必死になって戦ってさ」
「そうなんだ」
涼介を見ると照れくさそうに下を向いていた。
「涼介くん、すごいね」
「いや・・ぼ・・僕は・・」
「私も黒川を一発でも殴ってやりたかった・・」
「気持ちはわかるけど、ケンカってのは、結構きついもんだよ?」
私はそう言った。
「そうだけど・・」
「やられたら戦うべきだと思うけど、自分から行くってのは、リスクを背負うことになるからな」
「うん・・」
「でも、美冴、来てくれたんだ。ありがとう」
「ううん。だって友達だもん」
次の日、私はまた高峰に呼び出された。
「なんですか」
「秋川。今日の職員会議で、お前の自宅謹慎が決定した」
は・・・??今、何て言った・・?
「はあ?」
「だから、自宅謹慎だ」
「自宅謹慎って・・どういうことですか!」
「昨日のことでだ」
「昨日のことって・・おい、マジかよそれ」
「お前は必要以上に暴力を使った。中でも祥雲は顔が腫れあがって全治二週間のケガだ」
「ちょっと待て・・・私だってケガしてんだよ」
「お前のケガは軽い」
「判定基準ってそこかよ。ってか、そもそもあいつら、私の机の上にゴミを置いたんだせ!」
「しかしだ!暴力はいかん!」
「じゃあ訊くけど、あいつらが涼介に繰り返し暴力ふるってたのはどうなるんだ」
「それは・・2組の問題だ」
「ええっっ!!」
「僕はお前の担任だ。そのお前があんなに暴力をふるったのには、私に責任がある」
「責任・・?お前に一番相応しくない言葉だな・・」
私はもう、言い返す言葉すら見つからないほど、失望しきっていた。
「とにかく自宅謹慎だ」
「そうか。で、どれくらい謹慎すればいいんだ」
「一週間だ」
「そうか、わかった」
そう言って私は職員室を出た。
この学校じゃ、正義もへったくれもないんだな。。
虐められるやつは、ただ虐めに耐えるだけ。
逆らうやつは自宅謹慎かよ・・なっんなんだ・・
「千菜美ちゃん、先生、なんだったの?」
教室に戻った私に菜々絵が話しかけてきた。
「自宅謹慎だってさ」
「ええっっ!!」
「どうしたの?」
菜々絵の驚いた声を聞いて、美冴がやって来た。
「千菜美ちゃん・・自宅謹慎だって・・」
「ええっ!なんで??」
「私の暴力がいけなかったんだってさ」
「そんなっ・・・」
麻紀も丸美も伊都香も寄って来た。
「それで千菜美は謹慎するの?」
美冴がそう言った。
「仕方ないだろ。来るなって言われたんだから」
「でも、それって絶対に間違ってるよ」
「まあな。でもこの学校じゃ、友達を助けることは悪なんだってさ」
「そんな・・」
ホームルームの時間になって、高峰が入って来た。
「先生!」
美冴がそう言って手を挙げた。
「なんだ、岩鞍」
「千菜美が自宅謹慎ってどういうことですか!」
「そのことか。これから話そうと思っていたところだ」
自宅謹慎と聞いたクラスの連中は、ざわついた。
「昨日、秋川が暴力事件を起こした」
高峰のその言葉に、みんなが「ええーー!」と叫んだ。
「暴力事件といっても、秋川が一方的に起こしたものではないが、秋川は必要以上に暴力を使い、相手の子は大変なケガを負った。その結果、秋川の自宅謹慎が決定した」
「でも・・先生・・」
今度は菜々絵がそう言った。
「なんだ、桧倉」
「千菜美ちゃんは、虐めに遭ってる涼介くんを助けただけです。それにあの男子たちは、千菜美ちゃんの机にゴミを置いて嫌がらせをしました」
「だがな、そうだからと言って、暴力はダメだ。しかも必要以上の暴力など以ての外だ」
「でも、自宅謹慎なんて・・酷すぎます」
「これは学校が決定したことだ。今後のためでもある」
「信じられない!先生!絶対に間違ってます!」
美冴がそう言った。
「暴力を見過ごすと、暴力を肯定することになる」
「じゃあ、私たちが千菜美を虐めてた、蹴り飛ばしていた、あれも暴力ですよね」
「そ・・それは・・」
「というか、暴力よりもっと酷い虐めです。これはどうなるんですか」
「もういいよ・・美冴」
「千菜美・・」
「私のやり過ぎでこうなった。それだけだ」
「でもっ・・」
「もういいんだ。みんな、ごめん」
私はそう言って教室を出た。
「千菜美!」
私の名前を呼ぶ美冴の声が聞こえた。
にしても・・・自宅謹慎か。。千菜美に申し訳ないことをした・・
悲しむだろうな・・千菜美。。
第十章END




