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クリストファー王  作者: ゆきんこ
7/21

シンディー・ワイト

今夜もこの店は盛況だね

これならお客を上手く捕まえられそうだ

王様ねえ、そんなすごい人が本当にこんな店に来るのかね?

立派なお城で召し使いに敬われ、綺麗な王妃様と優雅に遊び、大変な悩みもなく、きっと幸せに暮らしてるんだ

あたしらみたいな庶民の生活なんて気にしたこともないんだろうな

そうだ、王様には変な噂が沢山あったね

王様が近くにいても決して近づいてはいけない

どうしてそんな噂が立つんだろうね

あたしらみたいなものが王様にお目通りなんて出来るわけもないのに

まあ一度は会ってみたいなとは思うよ

あら、あそこで一人で呑んでるあの男、見事な金髪だね

羨ましい…

あたしだって女だよ

綺麗な容姿に憧れるさ

こんなソバカスだらけの顔にパサパサの亜麻色の髪…イヤになる

こんな女だって童話のお姫様になりたかったし、王子様には憧れた

金髪だってそうさ

娼婦なんてやっていても昔はいたいけな少女だったんだから


「こんばんは。今日は一人なの?」


彼の隣に勝手に座った

こういうのはドンドンいかなきゃ獲物は逃げちゃう

肴ののった皿を彼の目の前に置いた


「貰ってもいいの?」


食い付いた

これならいけるかしら?

彼の目はなんて深い青なんだろう

奥まで吸い込まれる

全てを明かされる…

下手に近づいたら破滅する

体の奥から警鐘が鳴っていた


「どうぞ。一緒に食べようと思って貰って来たんだから」


彼は優しく微笑みグラスに口をつけた

その仕草一つも絵になる男だった

仕立てのいい服だね

あたしじゃ一生掛かっても着ることの出来ない高い服

本当にこの彼が…


「お兄さんはいいとこの旦那だろ?今夜はあたしを買ってよ」


彼は一瞬驚いたような表情を見せ、元の優しそうな表情に戻った


「間に合っているよ。それに君は高そうだしね」


場末の娼婦が高いわけがないでしょ

そんないい服着ている癖にあたしの値段を気にしてる振りしてくれちゃって

そんないい服きた男がこんなとこで一人呑むものかしら?

まあいいわ

そんな簡単な断り文句じゃあたしは引かないし


「そんなこと言わないで。いいじゃない、楽しみましょ?」


彼のグラスに酒を注いだ

彼はそれを飲み干すとあたしのグラスに酒を注ぎ返した


「今夜はこうして呑めるだけでも楽しいじゃないか」


それじゃあこっちはおまんま食い上げちゃうよ

なんてお堅い御仁なんだろうね

いくら押しても落ちない男だし

どんなに呑ませても酔わないみたいだし、本当に手強い相手だわ


「イヤになるわ。目の前にいい男がいるのにお客になってくれるのはキモチ悪いオジサマばかりよ」


つい愚痴っぽくなってしまう

きっとお城にいる王様は金髪のいい男なんだわ

お祝い事で姿を見ることがあるっていっても遠くからだけだし、想像するしかないしね

彼はあたしの愚痴を文句も言わずに聞いていた

娼婦の愚痴なんて聞いていても楽しくないでしょうに


「城にいる王様?王様にだって愚痴はあるだろう」


あるのかしら?

あるとしたらどんな愚痴かしら?


「しょーもない愚痴だよ。今日はどうやって抜け出そうかなって」


なにそれ?

まあ王都で王様はお忍びで遊んでるって噂だもんね

だからあたしにも仕事が舞い込んでくるんだ

だけど本当に?

未だに信じられないんだよね

本当にこの彼が王様?

あんな噂があるような王様に見えないんだよね

こんな優しそうな男がね…

どうこの彼を誘惑しろっていうのかしら

なんだか今日は飲み過ぎてしまったわ

あたしよりも彼の方が呑んでいるのにどうして酔わないのかしら


「そんなに酔って大丈夫かい?」


大丈夫なわけないわ

こんなに酔っては仕事にならないし

どうして彼は平気な顔しているの?

どうしたらこの仕事こなせるかしら


王様が場末の娼婦と遊んでる


そんなことがスキャンダルになるのかしら?

もう王様には沢山噂があるじゃない

こんなチープな噂を作ったところで王様の足枷にもならないんじゃないかしら

眠いわ

でもここで寝るわけにはいかないわ

せめて部屋に戻らなきゃ


「さ、行こうか?」


彼はあたしの肩を抱え歩きだした

あら、お客になってくれるのかしら

垂れかかっても彼はしっかりと支えてくれた

本当にこの彼が王様ならあたし相手に満足しないんじゃないの

お城には綺麗な人が沢山いるでしょうに


「ここまでで大丈夫か?」


「部屋の前までなんて、意地悪な人ね」


ここまできてお預けなんて本当に意地悪


「せめてベッドまで運んで欲しいわ」


部屋に入ってしまえばこっちのものよ

既成事実ってやつね

彼は部屋に入るとすぐに出ていった

なによ

ベッドまでって言ったのに

そんなにあたしがイヤなのかしら

でもいいわ

あんないい男なかなか目に出来ないし

本当にあれが王様なら話しができただけでもよしとしなきゃ

お代が貰えるような仕事にはならなかったけど

外が騒がしいわ

でもあたしには関係ない

もう眠くて…

頭が痛いわ

こんな昼間から外に出なきゃいけないような用事がなければ寝てるのに

あの欄干のとこにいるの…

昨日の彼だわ

欄干にもたれかかっちゃって

彼も二日酔いかしら?

あんなに酔った素振りもなかったのに

どうしたのかしら?

いつもなら夜に出会った相手に声を掛けることなんてないんだけど、本当に王様ならお近づきになっておいて損はないはず

まだあの仕事が有効ならお代も貰えるし


「昨日は大丈夫だった?」


彼はあたしをチラリと見てはすぐ川面に目を落とした

そんなよそよそしくしなくてもいいじゃない

彼の肩に垂れかかった


「あんまり変な仕事は受けない方がいいよ」


なによ

変な仕事ってなに?

ただ彼を誘惑しろってだけじゃない

そんなに変な仕事かしら?

あたしは娼婦よ

本業ともいえる仕事をしたに過ぎないわ

なんでそんなこと言うのかしら


「春をひさぐのがあたしの仕事よ。そんに変かしら?」


彼は肩を竦めあたしを正面に向かせた

どこか寂しそうに微笑み


「依頼の相手が誰かちゃんと見極めた方がいいよ」


なによ

余計なお世話だわ

でも、依頼って

あたしが近づいた理由を知っていたっていうの?


「気を付けて」


彼は言葉を残してそのまま去っていった

なにに気を付けるのよ

彼は本当に王様だったのかしら?

やっぱり今でも王様が街で遊んでいるなんて信じられないわ

ちょっと、ぶつかってきてなに?

謝りもせず行くなんて酷いわ

なんだか胸が熱い

服が濡れている感じがするけど

もう、人の服を汚していくなんて最低ね

膝が崩れるってこういうこと?

立っていられない…

……頭がぼーとする

そのままあたしは意識をなくした


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