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第51話 学校抗争

 さて、飛び出して兄を追いかけて見たものの、なかなかと思った以上の速度を出せない前田 竜生。

 オーヴェンスからの感覚で言わせて貰うと遅い部類である。

 それは、竜生自身が体を鍛えていないという事が原因なのだ。

 失敗した。身体強化の魔法を使えばよかった。


 そしてリズリーの携帯に電話をかけながら走ったので、かなり息が切れてしまった。リズリーには簡易的な説明をしたあと、何かあった際は連絡をするように言いつけた。今は足をフルに動かして徐々に兄に迫り、


「兄さん!おい、竜也!」

 と、叫ぶ。


「んな!?」

 驚いたように竜也が振り返り、俺を見て止まった。


「なんでここに居るんだ!」

 竜也は俺が近づいてきたことを確認すると、怒りながら言ってきた。怒りたいのはこっちだっての!

「兄さん。友達が心配なのは分かるけど、何で俺に言った事と違う事をするんだ?兄さんは父さんや母さんに心配をかけるような真似はするな。と言っていたよね?」

「う…それは俺は友達を助けようと」

「それは立派な事だけど、俺だって助けようとしてこの前いろいろと行動していたんだ。兄さんは良くて俺は駄目なんて事は言わせないよ」

「ぐ…」

 ばつが悪そうに俺を睨む竜也。

「別に俺は兄さんの行動を悪いとは言わないよ。だって俺だって同じ事をこの前していたんだから。今だってそれが悪い事だなんて思っていない」

「へ?」

 俺の言葉が意外だったのか竜也はキョトンとしていた。

「父さんや母さんには兄さんを捕まえてくるとは言ったが、俺は兄さんがこれからどうしたいか。という考えで協力するか連れて帰るかを決めたいと思う」

「いったい何を言っているんだお前は…」

 俺が出した提案に戸惑う竜也。

「兄さん。兄さんはどうやって助け出そうとしているの?」

「いや…どうやってって、一緒に学校内に篭城して…」

 竜也がしどろもどろになりながらそういう。

「それは根本的な解決になっていないよね?」

「どういうことだ!」

 俺の言葉で竜也がカッとなったらしく、少々声を荒げた。

 カッとなりやすい性格なのだろうが、状況が状況なだけに興奮しているのだろう。

「あのさ、なんで篭城しようっていう答えになるの?とりあえず助け出したいっていうのならあの学校から外へ連れ出しちゃえばいいんだろ?」

「それだと学校を連中に占拠されちまうだろ!」

 はぁ…やっぱり竜也はそういう考えだったか…。

「学校占拠されて問題があるの?」

「はぁ!?俺達が卒業した学校だろ!?」

 俺は卒業していないよ竜也…。

「兄さん。学校が占拠されたら終わりなの?別に人質とか取られなけりゃ学校を明け渡しても別にいいじゃん。その後じっくり攻略するなりすればいいんだし。とりあえず今は人命優先だろ?学校って建物自体には思い出があるかもしれないけど、今一番優先させなきゃいけないことは兄さんでも分かるだろ?」

「うぐ…まぁ、確かに人命優先だが…」

「そうだろ?ひとまずこっちの陣営の救出さえしてしまえば、後はテロリスト共が校舎に入った後校舎に向かって銃撃なり爆撃なりすれば敵は一網打尽だ」

「は!?い、いや、さすがにそんな事は望んで…」

 途端に竜也は顔を青くする。おっと、まずいまずい。つい前世の考え方で話してしまった。

 爆撃はないよね。

「最後のは冗談だ。人命優先って事で後は兄さんが兄さんの友達を説得して学校から避難すればいいんだ!それができなきゃ兄さんを連れて帰る」

「…わかった…」

 と、竜也はしぶしぶ了承した。




 俺達が学校へ着くと、そこは阿鼻叫喚の世界であった。

 反対派と思わしき面々が流血しながら倒れたり、警官隊と衝突している様子であった。

 既に正門からは反対派が雪崩れ込んだようで、現在は警官隊に再度食い止められてはいるが、警官隊は前後に暴徒が居るので対応に苦戦しているようだった。


「こっちからは無理だ。壁側から行こう!」

 学校に通っていた時の記憶を頼りに俺は兄を連れて学校の側面へと移動する。


 しばらく歩くと良い場所を発見した。

 人目が少なく、頑張れば登れる壁だ。

「よし、ここならば」

 俺はそう言って壁に背をつけ前方で手を組む。

「さぁ、兄さん!」

 そう、俺は竜也の足を自分の掌に乗せて壁を越えようとしているのだ。

「え!?マジかよ!」

 竜也は俺がやろうとしている事に見当をつけたのか、若干腰が引けていた。

「迷っている時間はない!跳んだら用務員倉庫の屋根に捕まればいい!」

 と、俺はほんの僅かに飛び出ている屋根を見て竜也に指示を出す。

 本当はこんな事素人にやらせるべきではないのだが、万が一力の加減を間違えて向こう側へ跳んでいっても、直ぐ近くに用務員用の倉庫があるので、そこにぶつかるだけで済む。

「くっそ!行くぞ!行くからな!」

 竜也は俺の所まで助走を着け、俺の両掌に足をかけてジャンプをした。

「うおっ!?」

 思った以上に跳んだため、竜也は驚いて近くにあった倉庫の壁にぶつかったようだ。

 竜也が用務員用倉庫の屋根を掴んで落ちてこない事を確認して、今度は俺がジャンプをする。

 先ほどの竜也を上に上げる動作といい、身体強化魔法を使えば大丈夫だ。おや?竜也が間抜け面しているが気にしないでおこう。

 先程走ってくる際もこの魔法を使えばよかったが、何せあんな僅かな距離を走っただけで疲れてしまうなんて思っても見なかった。落ち着いたら鍛えよう…。

「兄さん、降りるぞ!」

 俺がそう言うと、

「えぇぇ…」

 と、情けない声を出す竜也。俺は迷わず下へ飛び降りる。無論身体能力強化の魔法を使って。

 だが、竜也はそんなわけにも行かないので、おっかなびっくりまずは腕の力のみで壁に捕まりながらゆっくりと飛び降りた。

「うぎゃ!」

 しりもちをついたが怪我はしていないようだ。

「さぁ、急ぐぞ!」

 俺は竜也が起き上がるのを手伝い、校舎へと走った。


 正面玄関はかなりの混戦状態だった。


「邪悪なクソガキどもを殺せー!」

「テロリスト共めー!」


 頭に鉢巻を巻いた反学校派と思わしき人物達と学校指定のヘルメットを被った学校側の人たちとで殴り合いや棒での叩きあいをしていた。

「こ…これは」

 竜也は絶句してその光景を棒立ちで眺めていた。

 ん?一人俺と竜也に気付いて駆け寄ってきたぞ。

「このテロリストめ!」

 そう言って襲ってきたのは白いヘルメットを被った少年だった。つまり学校側の人間である。なんとこの両団体はお互いをテロリストと罵って戦っているようだ。

 だが、ここでのテロリストといえば反学校側だろう。

 銃を使ったのも反学校側だろうし、無許可で学校へ入り生徒達を襲っているのは間違いなく反学校側の者達なのだから。


「まて!俺達は東高側だ!」

 そう言うと、青年はピタっと止まり俺の顔を見る。


「お、お前、前田か?」

 おそらく俺に言ったのだろう。

「あぁ。そうだ」

 俺はそう答える。あれ?何処かで見た顔だな…。あ、同じクラスだった奴じゃん。多分。

「お前、なんでここに!?か、関係ないだろう?それに来るならなんでヘルメット被ってないんだよ!ヘルメットが無いなら白い帽子っていう話しらないのか!?」

 同じクラスの奴なら当然なぜ俺が学校を去ったか知っているだろう。その事情を知っているからこその疑問のはずだ。

「この学校のOBをつれてきたんだ。敵味方判別の手段については知らなかった。とにかくここに居るはずの…だれだっけ?」

「え?あぁ、『百瀬ももせ じゅん』にあわせてくれ」

 兄は俺に話を振られて慌てて答える。

 俺はその百瀬 純という名前に驚いたが、同時に兄をここまで必死にさせる理由として納得する事ができた。それほど兄にとっては重要な人物なのだ。

 まさかあの人が"帰ってきている"とはな…。

「お、OBの方でしたか!では、早くこちらへ!」

 顔を覚えている程度で名前を忘れてしまったその元クラスメイトは、俺達を混乱の中誘導し、校舎の中まで入れてくれた。

 一階部分の窓側は全て机によってバリケードが作られており、一定の間隔でっ人員が配置されている。窓から反学校派が進入する事はなさそうだ。



「百瀬先輩はこの中です!確認してきます!あ、そうだ。貴方のお名前は…」

「前田 竜也だ」

 と、兄が答えた。

「わかりまし…え?前田?」

 元クラスメイトがそう言って俺の顔を見る。

「俺の兄さんだよ」

「え?そうだったのか!?わ、分かった」

 元クラスメイトに案内されて来た場所は最上階にあった音楽教室だ。


「ちょっと待っていて下さい!」

 と、元クラスメイトは俺達に言って音楽室へと入る。


 しかし警備がザルだな…。一応俺が顔パス代わりになったのだろうか?

 もし俺がこの学校自体に恨みを持って学校側を襲おうとしたのであれば大問題だぞ…。


「入っていいそうです!」

 先に入った元クラスメイトが音楽室の扉から顔だけ出してそう答えた。

 俺と竜也はお互いの顔を見て頷きあい、竜也が先頭で俺達は音楽室へと入った。


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