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第52話 椅子を落とせばいいと思う

「おう!竜也!久しぶりだな」

 まず、入ってから声をかけてきたのは向こうからだった。


「あぁ、純か…。久しぶりだな」

 竜也はそういって『純』と呼ばれた"女性"へ返事をした。


 やっぱり純ねぇちゃんだ。竜也の友達で、グループのリーダーだ。今は世界中を回る旅に出たって聞いたけど、日本に帰って来てたようだ。

 純ねぇちゃんは昔からこういう喧嘩のリーダー役をしていたりする。だけど不良集団のボスではないぞ?多分。


「おい、純!どうしたんだその腕!」

 竜也は純の左腕を見て驚いていた。

 痛そうに抑えているのだ。


「なぁに、ちょっとしたかすり傷だよ」

 武闘派の純ねぇを傷つけるなんてたいしたもんだな。


「反学校派が持っていた銃にやられたんですよ」


 と、一人の眼鏡をかけた男が近付いてきた。

あきらか…」

 晶と呼ばれたこの男も知っている。竜也と純ねぇと晶さんは同級生で、俺も面識はある。

 ただ、あまり晶さんとは一緒に遊んだ事は無いに等しいのでどういう人物だったかはよくわからない。


「とりあえず私が診ておいたから大丈夫だよ」

 そういっておっとりした感じで話したのはよく覚えている『野川のがわ 安奈あんな』であった。

 安奈ねぇちゃんはよくお菓子を作ってくれたので良く覚えている。

「私をかばって撃たれちゃったの…」

 と、安奈ねぇちゃんはショボンと落ち込んでいる。


「ははっ。母校の危機ってんで、駆けつけてみりゃこのざまだ。だが、"参謀"が加わったんならば話は早いよな」

 純ねぇちゃんがそう言うと、

「止めてくれ。俺は参謀と言えるほど頭は良くねぇよ」

 と、竜也は悔しそうに言った。


「だが、機転は利く。まったく、私がいない間に好き勝手暴れる連中が増えたもんだ。それで竜也、どうしたらいい?この状況」

 期待を込めた眼差しで純ねぇちゃんが竜也に聞いてくる。


「っち。どこまでやっていいんだよ!それとこっちはどれだけ被害受けてんだ!?」

 と、竜也が言った。

「もう10人以上が死んでるよ。銃に撃たれてな…。俺達ん時の隣のクラスの遠藤と岸尾も死んだ」

 と、静かに純ねぇちゃんは言った。

「遠藤と岸尾が!?…そうか」

 その時初めて兄、竜也を見て背筋が凍った。明らかに今までとは違う雰囲気を出している。明らかに怒りのオーラだ。


「お前達、後戻りはできないぞ?」

 そう竜也が言うと、


「純に呼ばれて来た時点で覚悟はしているよ」

 と、晶さんが。


「わ、私も!」

 と、安奈ねぇちゃんが。


「ふふ。私もやり返してやらないと気がすまねぇからな。遠藤と岸尾の敵討だね」

 と、純ねぇちゃんが言った。


「そうか。ならば聞きたい。なんでそこまでやられているのに玄関前に群がっている敵の団体に対して頭上から攻めない?」

 そう竜也は冷たく笑いながら言った。


 あ、この人殺る気だ。




「よし、全員位置についたな!」

 と、純ねぇちゃんが大声で確認をする。

「おう!」

「こっちもOKだ!」

「いつでもやれるぜ!」

 と、各方向から味方の声が聞こえた。


ピンポンパンポン!


 軽快な音が学校敷地内に鳴り響く。

 おなじみのお知らせの合図だ。


「<東音熊応援団の皆様、校舎の中へお入りください。立てこもりをいたします。負傷者の救助をした後、バリケードを校舎前に築いてください>」

 と、アナウンスが流れる。いいのか?こんな事流しても。


 俺達は二階の玄関入り口の真上の廊下で様子を見ていた。

「よし、皆したがってくれているな!」

 そう機嫌が良さそうに言った純ねぇちゃん。

「殿で暴れている晶さんもちゃんと撤退する事はわかっているんだろうな…」

 と、心配そうに晶さんのようすを見ている竜也。晶さんは見た目に反して純ねぇちゃん並の戦闘狂だ。次々と敵を倒している。


「よし、味方は収容できぞ!」

 純ねぇちゃんは在校生の一人から報告を受けて竜也に言った。

「こっちは皆準備OKよ」

 と、安奈ねぇちゃんは言った。玄関付近を見る事ができる窓は全て外されて、椅子等の簡単に持ち運べる物を持った人が多数居た。

 これからやろうとしている事は簡単な事だ。

 二階から下に居る連中めがけて物を落とす。

 ただこれだけだ。


「よし!やれぇ!」

 と、どこからか声が聞こえた。

 合図は竜也や純ねぇちゃんがやるわけではなく、別のグループのリーダーがやっていた。


 一斉に玄関の反学校派に向け物を投げる学校派。


「な!?」

「う、うわぁぁぁ!?」

「クソぉ!あ、悪魔めぇぇええ!」


 と、反学校派の連中は叫び声を上げている。

 悪魔ってなんだよ…。


 下を見ると何人も反学校派の連中が何人も倒れていた。

 中には椅子が直撃してビクビクと痙攣している奴もいた。

「ひぃぃ…」

「くそぉ!撤退!撤退しろぉ!」

「おい、逃げるな!うぎゃぁああ!!」


 撤退したもの、そのまま交戦をしようとした者に分かれたが、殆どの反学校派は逃げ出していった。

 交戦を続けようとした者達は降ってくる椅子や机に当たり次々と脱落していく。


「ははっ。作戦成功だな。ざまぁみろ!」

 と、愉快そうに笑った純ねぇちゃん。

「あぁ。とりあえずこれで怪我人の対応が落ち着いてできるだろう。救急車を呼ぼうにも学校に入る事ができないからな。ヘリでの救助も考えたが難しいだろう。校庭にはまだ奴らがいるだろうし、屋上にはヘリコプターが降りれるだけの強度があるかなんて分からんからな」

 そう言って竜也は難しい顔をする。

「だけど、重傷者も居るから早く何とかしないといけないよ」

 不安そうにそう言った安奈ねぇちゃん。

「とりあえず、ここを仕切っている連中に話通してみないと進みそうにないな…」

 溜息交じりにそう言った純ねぇちゃん。

「最悪屋上からのロープでの吊り上げ作業って事にもなりそうだな」

 なおも難しい顔をし続けながら言った竜也は続けて、

「その仕切っている奴らっていうところにまで行こうか?」

 と、言った。

「あぁ、分かった。付いて来い」

 そう言って純ねぇちゃんは先頭を歩き出した。

 しかし意外だったな。純ねぇちゃんが仕切っていたわけじゃなかったのか。

 あれ?それじゃぁ、さっき戦線を一時後退させた判断は勝手にしちゃってもよかったのか?



 着いた場所は二階の会議室。という場所であった。


 合成かどうかは分からないが、見た目に高級感がある皮製の椅子が机の周りに並べられている。


 その会議室では怒号が飛び交っていた。



「だ・か・ら!あんたら警察の銃使えば、あんな奴ら一掃できるだろ!もう使ってんのに何で今更ためらう必要があるんだ!」

 と、髭面のいかつい男がそう怒鳴っている。

「我々としましても、むやみやたらに銃を使うわけにはいかないのです。それに、あの混戦の中使用していては貴方達にも当たる可能性があるんですよ?あの時は銃を撃ってきた奴らに対して我々は銃を使いましたが、その後に来た連中は使っていなかったじゃないですか」

 と、今度はその髭面の男に言い返している疲れ切った表情をするスーツ姿の男が言った。会話から見て警察の人間だろう。

 …あれ?どっかで見た事あるような…。

「いやいや、あいつら銃使って無くても殺す気で俺達に攻撃しているからな!?それにあんたら警察の人間だってもう3人死んでるだろ!」

 そう髭面の男が言うと、スーツの警察の人と後ろに居た制服姿の警官二人が渋い顔をした。

「分かっています。ですから我々は一刻も早く救援の到着をバリケードを築いて待つべきなのです」

「だ・か・ら!校庭にいる連中をぶっ殺してから校庭にヘリコプター着陸させれば一気に怪我人を運べるだろうが!」

「仮に我々の銃を使ったとしても、倒せるのはせいぜい10人程度です。現在校庭に居る連中は40人以上も居るんですよ!?こちら側の人をむやみに傷つけるような真似はさせることはできません!」

「じゃぁどうしろって言うんだよ!」

 なかなかと会議は熱くなっているようだ。

 すると、スーツ姿…というか既にボロボロのワイシャツ姿の刑事が俺達の方を見ると、驚愕した表情をしていた。

 あ、見た事ある顔だ。

「あ、あなたは!?」

 あぁ、やっぱり。

「どうも、佐々木刑事!」


 そう。髭面の男と意見のぶつけ合いをしていたのは、不良集団『羽射刃暗』を大量検挙してくれた佐々木刑事だった。


「!?お、お前達か。報告は聞いている。玄関前の連中を排除してくれたんだってな。ありがとよ」

 髭面の男はそう言ってこっちを…というか純ねぇちゃんの方を見て言った。おっと、いつの間にか晶さんが近くにいるではないか。もう玄関から戻ってきてたのか。

 佐々木刑事は髭面の男の言葉を聞いて小さく溜息をついた。

 なにせ目の前で傷害事件の計画立案者達がいるのである。これは後々問題になりそうだが、今はそんな事を言っている余裕はない。

 ここで竜也が意見を言った。

「校庭にヘリコプターを降ろしたいんなら、校庭にいる連中を何とかすればいいってことだろ?」

 と、竜也は純ねぇちゃんに聞いた。

「まぁ、そういうことだな」

 そう言った純ねぇちゃんは、竜也に期待の眼差しを向ける。

「…思ったんだが、こういう方法はどうだろう?」

 竜也は皆に説明を始めた。



「なるほど!そいつはいい考えだ!」

 と、純ねぇちゃん。

「へぇ、なるほどね。それなら刑事さんでも許可できるだろ?」

 と、髭面の男性。そして、その後ろで頷く学校派のメンバー達。

「し、しかし市長がそんな許可を出してくれるとは…」

 と、佐々木刑事が戸惑っていると、

「なら、俺が"あの方"達に話してみましょうか?佐々木刑事と一緒に『羽射刃暗』を倒してくれた人達に」

 と、俺が言うと、

「な!?ほ、本当に君は何者なんだ!?」

 と、佐々木刑事は驚いていた。

 ちなみに俺と佐々木刑事の会話は何のことかわからないようで、他の者達は不思議な顔をしていた。

 そうと決まれば話は早い。

「じゃぁ、俺は電話してきます。ちなみに負傷者は何人ですか?」

 そう言って会議室を出る。

「う、ん。そうだな。頼んだよ。負傷者は重傷者が10人。軽症者が22人だ」

 と、佐々木刑事は見送った。


 さて、この件が許可されるかは分からないが、一刻も早く伝えたほうがいい。

 まずはリズリーに電話をしよう。


プルルルル、プルルルル。

 発信音が流れる。

「<もしもし、隊長ですか!?>」

 と、リズリーの声が聞こえてきた。

「あぁ、連絡が遅くなってすまない」

「<いえ、こちらも現状を衛星で把握しておりますので>」

 なんと、宇宙から見られていたのか!

「そうか、脱出をしたいのだが、その前に負傷者の救出をしたい」

「<そうですね。我々も考えていましたが…>」

「うん。こっちでも考えた案があるんだが、どうだろう?」

「<…聞かせていただけますか?>」

 俺は竜也の案をリズリーへ伝える。すると、

「<なるほど、有効な手ではありますが…。装備をお渡しできるかがわかりません>」

「やっぱり警察の人じゃないと使わせてくれないよな…。じゃぁ、これはどうだろう?」

 俺がそう言った後、とある提案をする。


「<なるほど…。その案で上に伝えて見ます>」

「わかった。なるべく早く頼む」

 そう言うと、俺達は通話を切った。


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