第50話 学校で事件発生
前田邸
ようやく帰って来た前田邸。
身代わり人形の記憶もあるので、朝出て行ったばかりの記憶はあるが、体感的には約1週間ぶりである。
前世とほぼ同じ時間を過ごした前田邸。18年間の思い出はここにもある。
「では、私はこれで失礼いたしますわぁ」
そう言ってリズリーは神埼ホテルへ戻って行った。
俺はリズリーの車が見えなくなるまで見送った後、鍵を使って扉を開ける。
「ただいまー」
そう言って俺は玄関に入ると、
「おかえりなさーい」
と、母が台所から答えてくれた。
俺は自分の部屋へと真っ直ぐ行き、机を確認する。
「おぉ!」
俺は机の上を見てニヤリと笑みを浮かべる。
夏休みの宿題が終わっていたのだ。
なんと身代わり人形は宿題もしてくれていたようだ。これは素直にうれしい。
よし、これから長期休暇の時はあの人形を使おう!
「ん?」
俺は腕輪が光っている事に気付く。
そういえばこれ返していなかったな。
どうすればいいんだろう?
俺は右手の指で腕輪に触れると、画面が浮き出てきた。
「<メールが一件届いています>」
というメッセージが画面には書かれていた。
俺はキョロキョロと辺りを見回す。よし、周囲に人影なし。メールを開いて見る。
どうやら送り主は輝明さんのようだ。
「<皆様、長旅お疲れ様でした。さて、皆様が現在装着しております本日お渡しいたしました通信機は便利機能が多々付いております。通信料につきましては無料とさせていただきますが、この腕輪を使用してのお買い物はこちらでは一切負担はいたしません。誤って操作してしまうといけませんので、買い物機能は制限させていただきます。買い物機能につきましては今後の講習にて取得していただけたらと思います>」
なんだこの商品説明のようなメールは…。
「<腕輪をお選び頂いた方へ:この腕輪は周囲に地球の人や監視装置、録音装置がないことが確認をとり、使用ができるようになっています。ご安心して使用をしてください>」
さっき俺がやった周囲への警戒は必要なかったか…。
「<また、腕輪のデザインをお選びいただく事も可能ですが、標準搭載の7種類からのみ選べます。どうぞ、ひき続きお楽しみ下さい>」
…なんだろう。いつもの輝明さんじゃないような感じがする。
「<※通信機のタイプは本日ご覧頂いた物意外にもございます。『衣服』『使い魔』『ナノマシン』などございます。地球生活にはそぐわない為、今回は意図的に外させていただきました>」
「<おまけの機能として『忘れ物防止』機能を付けさせていただきます。これはもしどこかへ外したまま置き忘れても、立ち去ろうとした瞬間持ち主の脳内に信号を送り装着し忘れがないようにする機能です。入浴やご旅行の際、安心してご自由に通信機取り外しをしてください>」
絶対捨てることができない呪いの装備かよ!!
……うん、まぁいいや。どこかへ置き忘れという事が無いと考えればありがたい機能かもな…。脳内に信号を送られて気づかぬうちに手に戻ってくるとかだったら結構怖いけど。
とりあえず、せっかくデザインを選べるとのことなので、選んでみよう。
…。
……。なるほど、目立たないように細いワイヤーっぽい腕輪にする事も可能なのか。あれ?これ質量とかも変わってるんじゃないのか?
…。もういちいちこういう未来的な技術で驚いていても仕方が無いな。ちょっと休もう。
俺はそのままベッドへ横たわり眠りに入った。
夕食。
記憶の俺にとっては24時間ぶりだが、体感時間は一週間ぶりの前田家の食卓である。
「<続いてのニュースです。以前から続いております"音熊市で起きている抗争に関する情報です。"反東音熊高"を掲げる団体は再び"東音熊高校"の敷地に侵入し、警察との衝突があった模様です>」
今更ながら俺が住んでいる市は『音熊市』という名前だ。前居た高校の名前は『市立東音熊高等学校』であり、今通っている高校は『私立和水高校』である。
「いやぁねぇ。こんな事になるなんて…」
「東高の連中は血の気が多い事が伝統みたいだな。俺達が居た学校とは大違いだ」
母がテレビのニュースを見ながらいうと、父がそう言った。
「え?親父は東高出身じゃないのか?」
と、兄竜也が言うと、
「俺と美代子は北高出身だ。マイホームを建てる時にここに移り住んだんだ」
父はそう言って食事を続けた。
父の話からすると、この家で東音熊高校を卒業したのは竜也一人である。
「ふーん。俺からすれば母校がこんな調子ってのもいい気がしねぇな」
兄がそう言ったので、
「兄さんもあのデモ参加しろとかっていう誘いきているの?」
なんとなく俺がそう聞いてみると、
「は?何で自分の母校を貶めるようなデモに参加しなきゃならないんだ。…まぁ、確かにお前の件でいろいろあったけどな。俺にとっては平和で過ごしやすい学校だったんだぞ」
と、呆れた口調で俺に答えた。
「いや、そうじゃなくて、学校を守る側のデモ隊だよ。前に反学校側と衝突した学校側を支持する勢力」
俺がそう言うと、竜也は答え辛そうに、
「それはデモなのか?…まぁ、誘いは来ているわな。俺も一応OBだし」
と、言った。
「ちょっと、竜也。危ない事は止めてよ?」
母はそう心配し兄に言った。
「わーってるって。そんなん参加するより、今は大学の授業で手一杯なんだよ」
と、兄はそう言って母を落ち着かせた。
チラッと見た兄の目は少し俺に怒っているようだった。大方余計な事を言いやがってとでも思っているのだろう。母に心配させるような事を言ったからな。兄竜也は以上に家族に心配させる事を嫌う節がある。
「とにかく、世間では今こんな状態なんだ。家は東高校に近い。十分気をつけるように」
と、父は最後に締めくくった。
ちなみに前田邸と東高との直線距離は約500mである。東高への通学に関しては不便は無かったが、今の中央地区にある和水高は自宅から駅まで5分の距離で、降りてからすぐ5分の距離にあるので、今の方が楽である。
それにしても前田家の兄弟仲悪過ぎないか?
昔はそんな事は無かったと記憶にあるのだが…。
ピコーン、ピコーン!
俺は夕飯も食べ終わり、のんびりと茶をすすっていると、突然テレビから高い音が鳴った。なんだ?
「<臨時ニュースです。先ほどお伝えいたしました東音熊高校で本格的な衝突があった模様です!現場の荒山さん?>」
え?なに?何が起きているの!?
「<こちら現場の荒山です!現在反東音熊高校派のメンバーが警察隊のバリケードを破り高校の建物内へ進入しました!中に居た生徒達と抗争が開始されております!梯子のようなもので、次々と校内に侵入しているようです!>」
えぇぇぇ…!?ってか、生徒居たんかい!
「<パーン!>」
「<キャァアアア!ワァァアアア>」
「<銃声です!銃声のようなものが鳴り響きました!>」
本当に何が起きているんだ??
画面には学校へ雪崩れ込む群衆と、それを止めようとする警官達でもみくちゃになっていた。
さらに様々な場所から反東高派の連中が梯子を使って校内へ侵入しているようである。
こ、これは拙いんじゃないか?
「<パン!パン!ズドドドド、ズドドドド!>」
ちょっと待て。マシンガンのような発射音がしなかったか?
「<これは、銃撃でしょうか!?先ほどよりも一層音が激しく鳴り響いています>」
えらいこっちゃ!この家、現場からかなり近いよ!?
なんとなく家族の顔を見て見ると、
母、顔面蒼白。
父、呆然とテレビを見ている。
兄、何故か俺と目が合う。
という状態だった。
なんだよ兄さん。
楽しい食事風景が台無しになり、テレビの音だけが食卓に響いていたが、急に軽快なメロディーがテレビ以外の場所から流れ出した。
家族一同そのメロディーに疑問を感じ流れている方向を見る。
兄である。
正確には音の発生源は兄の携帯電話であった。
兄は慌てて食卓から離れて携帯を見る。
俺もとりあえず食卓を離れて自分の部屋へと移動をした。
自分の部屋に入った俺は、早速腕輪に内蔵されている通信機を起動させる。
腕輪が起動し、僅かに光る箇所がところどころに見られた。
ピピピッ!
俺は輝明さんに通信をしようとしたところ、先にメールが入っている事に気が付く。ほんと、こりゃ携帯電話だな…。え~と、なになに?
『市立東音熊高等学校にて銃撃事件が発生。付近の方は家に避難してください。避難場所へ行かれる方は誘導員の指示に従ってください』
…うん。そうだね。その誘導員っていうのを呼ばなきゃいけないのか?
周りの他の家の住人の救助もしたいが、とりあえず電話を…。
輝明さんに電話をかけてみる。
…繋がらない。きっと向こうでも大騒ぎなんだろう。
次にリズリーに電話をかけてみる。
…繋がらない。
次にパルクスだ!
…繋がらな…ガチャ!お?
「<…隊長?>」
パルクスがしゃべった!
いやいや、今は冗談を言っている場合じゃない!
「パルクスか?ようやく繋がった!ニュースを見たか?今俺の元居た学校が大変な事になっているんだが、このまま俺は待機でいいのか?なにをすればいい?」
「<了解…確認を…ん?>」
割り込みの電話が入った。
「<隊長ご無事ですか!?>」
電話に入ってきたのはリズリーだった。
「あぁ、こっちは無事だ。今パルクスに指示を…」
俺がそう言い掛けた時に、突然下の階から声が響いた。
「竜也!?待ちなさい!」
「どこへ行く気だ!竜也!」
母と父の声が聞こえた。ただならぬ感じである。
「ちょっと通信を切る。人前だと腕輪じゃなくて携帯から電話をかける思う」
「「<了解>」」
俺は通信を切ると急いで一階へと降りる。
一階へ降りて玄関を見ると、外へ出て行こうとしている兄竜也の肩を掴んで止めようとしている父と母が居た。
「兄さん、なにをしているんだ!?」
この状況で外へ出て行こうとしているなんて馬鹿にも程がある。避難をするための移動手段があるというのであれば話は別だが。
「…」
竜也は苦虫を潰したような顔をして、俺から視線を逸らす。
その態度を見た父は痺れを切らしたようで、
「一体何があったというんだ!急に外に行くなどと、今外がどういう状況なのか分かっているのか!」
と、一喝した。
「!…」
竜也は父の怒鳴り声に一瞬ビクつき、観念したように話を始めた。
「友達が…友達が東高にいるんだ!」
「友達が居るからなんなんだ!あんなところで暴力行為をしているような友人を、まさかお前は助けに行こうとしているのか!?」
父は竜也の答えにイラつきながら言った。
「そうだよ!だけど暴力行為なんかじゃない!後輩達を守るために必死になって活動しているんだ!反対団体だかなんだか知らないけど、あっちこそ暴力行為をしている集団だ!あいつが…あいつらが俺に助けを求めているんだ!」
竜也はそう言って父の手を振りほどき、外へと飛び出していってしまった。
おいおい!マジかよあの兄ちゃん、以前俺に言った事と真逆の事してんじゃん!?なにが父や母に心配かけるような事をするな!だよ。今まさにそれをしているのはあんただろう!?
ま、仲間が心配って気持ちは分かるけどね。
「俺が兄さんを捕まえてくる!」
俺がそう言って玄関で靴を履き出て行こうとすると、
「ま、待ちなさい!」
と、父から制止がかかる。
「父さんと母さんは家から出ないように!もし迎えの人が来たらそれにしたがって!いいね?」
俺は父と母にそう言うと家を飛び出した。
「迎えってなんだ!?」
家を飛び出してから父の声が後ろから聞こえた。




