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第48話 前世の家族との別れ


「では、どうぞ!」


 と、輝明さんがOKサインを出す。


 すると、ドリアンが話を始めた。

 他のスレード隊の皆も困惑している。

「スレード隊長。今回の戦争の中で起きたワイルー殿の責任についてどうお考えですか?」

 なんだいきなり。もう始まっているのか?ってか、これビデオ撮影だよな?一体何のためにやっているんだ!誰か説明して欲しい。

 まぁ、答えるだけならば…。


「えっと。今回ワイルーは上の指示に従っただけとあります。ニセの指示と気付かなかったというのは本当に宇宙連邦からの形式の書類だったという点と、指示をした人が本物の宇宙連邦の役人だったからですよね?なので私はワイルーになぜそこまで責任を押し付けるのかがわからないのです」

 と、俺は話した。

 先程ドリアンに話した内容とほとんど一緒だ。

 すると、ドリアンは、

「なるほど。確かにワイルー殿はあなた方スレード隊を大使館に留めていただけ。法的にもまったく問題に触れていない。なのになぜかワイルーは責任を取らされている点がスレード隊長は疑問に思うと」

 そう言って頷く。

「はい。これが単に本来責任を取るべき人が取らず、ワイルーに責任を押し付けているだけであればもっと許せませんね」

 ちょっと俺も感情的になりつつほんの僅かに怒りを見せる。

 ドリアンは納得したように頷くと、次の質問をしてきた。

「なるほど…では、…」


 こんなやりとりを15分程度続けた。

 本当になんだったんだ…?


 終わった後、ドリアンはホクホク顔だった。

 疑問しかない。

「あの。なんなんですか?これ?」

 なぜ録画なんてしたんだ?

 ネットにでも流すのか?

 俺はこれ以上我慢ならず聞いてみると、


「これでワイルーに責任を押し付けようとしていた『野党』を黙らせる事ができますよ」

 と、ドリアンは言った。


 野党?


「「「「え??どういうこと??」」」」

 スレード隊の皆は揃って疑問を口にした。


「ふっふっふ。これは言っていなかったけど、ドリアン館長さんはリール連邦国の元大統領なんだ。現政権の政党に所属していたんだけど、今回の戦争でいろいろと与党が批判を受けているらしいんだ」

 と、輝明さんは説明した。



「「「「だ、大統領!?」」」」


 俺達は皆驚く。あの整備士のドリアンが大統領だって!?


「お、お前大統領だったのか!?」

 と、デルクロイが目を白黒させながら言う。


「魔道機械馬鹿のドリアンが大統領だって!?いったいどういうことなんだ!?」

 今度はそういうトリット。失礼である。


「おい馬鹿!」

 と、グリゼアがトリットを叱りつけた。

 うん、よくやったグリゼア。


「ほっほっほ。元ですよ皆様方。ここに録画されている映像。使わせてもらいますよ?」

 と、ドリアンはいたずらが成功した子供のような得意げな顔をしながら言った。


「は、はぁ。それでワイルーが救えるのならば…」

 俺はそう言うしかなかった。


「ほっほっほ。この映像を旧知の議員に送れば…。ほっほっほ」

 あ、ドリアンが悪い顔をしている。

 も、もう帰ろうかな。

 そう思って皆の顔を見ると、皆同じようなことを思っていたらしく頷いている。



 こんな感じで俺達は博物館での話し合いを終え、いそいそと帰った。





 今日も強烈な一日だったな…。


 そんな事を思いながらホテルに戻り、俺は早速妹のアリアに渡されたビデオレターを見る事にした。


 小さな10cm位の箱に入ったそれは、開けて見ると、キラキラと光ったチップであった。

 摘んで取り出してみるが、使用方法が分からない。

 ホテルに備え付けられているテレビで見るのかな?

 俺はそう思ってテレビを見る。壁に貼り付けられているタイプであり、チップ入れそうなところは無い。

 仕方が無いので、俺は腕輪に語りかけた。

 この左腕につけている通信機は殆ど地球で使われている携帯電話と同じような機能を持っており、検索機能も付いていた。

「録画、チップ、テレビ、見る方法」

 俺が腕輪に向けてそう言うと、

「<チップを腕輪にかざして下さい>」

 というメッセージが腕輪から流れた。

「…?」

 俺はかざしてどうするのだろうと考えながら言われた通りチップを腕輪に向けてかざす。すると腕輪からピッという音が鳴った。

 <送信するテレビを選んでください>と、いうメッセージが腕輪から浮かび上がる。ホテルのテレビを見ると、テレビから<『前田 竜生からデータの受信信号を確認しました。受信しますか?』>という文字が出るので、テレビのリモコンを使いOKを押す。<テレビにデータを送信します><再生>という文字が腕輪やテレビに出ると、テレビはようやくチップの録画映像を映し出した。

 すごいな!この技術!



 再生すると、そこには懐かしい顔があった…。



「オーヴェンス。見ているか?」

 父上だ。


「オーヴェンス。元気にしていますか?」

 母上だ。


「うぅ…おにぃさまぁ…」

 半泣きになりながら熊のぬいぐるみを抱く幼い頃の…俺には馴染み深い姿のアリアが居た。


「久しぶり…になるかは分からないが、ようやくこの国に帰って来たのだな?」

 父上は若干やつれているようだ。

「知っているとは思うが、今このリール連邦は宇宙連邦という国と同盟関係にある。お前達を殺した国であるが、宇宙連邦は決してリール連邦の民に非道な仕打ちをしているわけではない」

 まだリール連邦が宇宙連邦に加入していなかった時の映像だろう。

「安心して欲しい、この国はこの先かつてのような支配欲に駆られた周辺国家から圧力をかけられることはないだろう。たとえかけられたとしても滅ぼされるのは彼ら…仕掛けてくる周辺国家だろう」

 知っているよ。今もその約束は守られている。何せ再び戦争が起きても宇宙連邦軍は即座に解決してしまったのだから。

「本当は…宇宙連邦の事は恨んでいる…。だが、感謝もせねばならん。何せお前がオーヴェンスの記憶を持ったまま転生される可能性があり、尚且つお前の事を今度は守ってくれると約束したのだから…」

 父上はそう言って力なく笑顔になった。


 そして、次は母上が話を始めた。

「いつになるかは分かりませんが、私達はいつまでも待っていますからね。…例え私達が居なくなっていたとしても気を落としてはいけませんよ?ずっと…見守っていますから…」

 既に父上と母上は居ない。


 だが、『明日』会いに行く予定だ。


 そしてその後、俺達は地球へ帰る。


「貴方のことを愛しています。貴方は私達の自慢の子です」

 母はそう言った後、ハンカチを取り出し目頭を押さえた。




「うぅぅ…おにいちゃん!私も…私もずっと待っているから!」

 アリアは待っていてくれた。

 生きて待っていてくれた。

 それだけで本当にうれしい。


 父もこらえきれず涙を流していた。

 母も言葉言い終えた後、ハンカチで目を押さえていた。


 俺も涙が溢れ、その涙を止める事はできなかった。


 そして、父や母、アリアは思い思いに俺に語りかけてくれた。


 幼少期の思い出。


 俺が戦場へ行った時、どういう思いで俺を送り出したか。


 ちゃんとご飯は食べているか。


 ちゃんと暖かい布団で寝る事はできているか。


 そんな事を映像の中の家族は俺に語りかけてくれた。



「<再生終了>」




 俺はその映像を涙を流しながら見ていた。


 父上…母上…。お会いできなかったことが心に悔やみます…。



 再生が終わった後のテレビにはこの惑星の番組が流されていた。


「<―――指示をした人が本物の宇宙連邦の役人だったからですよね?なので私はワイルーになぜそこまで責任を押し付けるのかがわからないのです>」

 俺じゃん!?


 感動の涙が吹き飛んだ。


 あぁぁ…俺の顔がモザイク無しでテレビに映ってる!?


「ははっ…ははは…」

 俺の感動の一時が台無しになった。


 こうして俺は意図せずテレビデビューを果たしてしまった。





 次の日の午前中、俺達スレード隊は各自の家の墓地に居た。


 今日はアリアとそのスレード家の従者が居る。さすがに2日連続でダルガーとワイルーは来る事はできないか…。


 俺の後ろにはデルクロイとグイゼアが居た。

 二人の家族の墓も、スレード家と同じ敷地に墓があるのだ。



「父上、母上。行って参ります」

 俺はそう父と母の墓の前で言った。


「アリア、では、俺達は行くよ」


 次に俺はアリアの方に振り向き言った、


「行ってらっしゃいませ、オーヴェンスお兄様…」

 アリアはそう悲しそうな表情で見送ってくれた。


「それと、昨日はありがとうございました」

「え?あ、うん…。かわいい妹のためだからね」

「もうっ。オーヴェンスお兄様ったら…。フフフ」

 そうそう。見送る時はそういう笑顔にして欲しいな。


 俺達スレード隊はそのまま宇宙船へと移動した。





 惑星リョーキューでワイルーがこの後どうなったか少し話をしよう。


 ワイルーは大臣辞職ということにはならなかった。


 代わりにあの映像が流れたことにより、野党批判が民衆で起きたらしい。


 なんでも伝説のスレード隊隊長にあそこまで怒りを与えた野党は許さん!と…。


 リール連邦のスレード隊信仰は恐ろしいものがあるな。


 結局野党の議員が何人か辞職する事になってしまったらしい。


 怖い。怖すぎる…。どうか恨みが俺の所に来ませんように!





 帰りは同じ軍艦だった。


 転生後の里帰りは驚きの連続だった。


 惑星リョーキューがどんどんと小さくなっていく。


 寂しい気持ちは勿論あるが、地球にも俺達の生活がある。


「また来ましょうね」

 隣に居たレイーヌがそう言った。

「あぁ。今度はレイーヌの両親のお墓にも行きたい」

 俺はそう言ってレイーヌを抱き寄せ、二人で小さくなっていく惑星リョーキューを見続けていた。



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-宇宙連邦軍親衛隊本隊本部-


 宇宙連邦軍上層部は現在蜂の巣をつついたかのように大騒ぎになっていた。


 それもそのはず。今まで宇宙連邦軍内にスパイが居た事など珍しくない。

 ただ、地球各国の規模に比べて圧倒的に少ないのはやはり技術力の差である。


 一つの主力艦隊に億単位の数が居る軍人。その中にはやはりスパイは存在し、発見され次第逮捕される。ニュースで流れるとしても「あぁ、またか」というレベルである。しかし、今回は異色であった。


 宇宙連邦軍中央総司令部直轄の諜報隠密行動を行う『情報部』。

 これは、表立って行動はしないが、各地域の代表に秘密裏にコンタクトをして行動を円滑に進めるための部署でもある。


 勿論総司令部直轄で秘密厳守を規則とする隠密行動部隊。

 その中の連中の一部が宇宙連邦を裏切りヴァルカ残党軍と協力関係にあったのだ。信頼していた部署が実は敵と通じていた。これは落ち着いてはいられない自体である。


 政府の重要情報収集機関にスパイが居た。宇宙連邦にとってはかなりのスキャンダルである。

 まだ世間一般には伝わっていないのは救いであった。

 いや、リール国には情報部から話が漏れたとは広まってはいないが、政府の何かしらの機関からスパイが出たという情報は広まっている。

 この件が宇宙連邦中枢都市に知れ渡るのも時間の問題かもしれない。


「まさかあの部署にスパイが居たとは…」

 宇宙連邦軍親衛隊大将マルク・ダーカーは溜息を吐きながら報告書を見ていた。

「例の地球人達にも被害はありませんでした。やはりフー准将達をつけたのは正解でしたね」

 と、ダーカーの副官が言った。

「確かにな。しかし、カトリーヌは思った以上に地球人に執着していたな…。やはりヴァルカ大戦の影響か…?」

「かと思われます。何せ地球人にこっぴどっくやられたらしいですからね…」

「ははっ…。記録を見たよ。仮にも『姫』と呼ばれる攻撃では無いな」

「『天音姫の英雄談』絵本や小説で入ってくる情報とは全く違った印象ですからね」

 思わずスパイの話から清堂 天音という英雄の話に移り変わってしまう。

「我々親衛隊にはこのようなことがないようにしっかりと管理体制を整えなくてはな」

「はっ。よりいっそうスパイ排除の為、動いていく所存です」

 副官はそう言って敬礼をした後、ダーカー大将の部屋を出て行った。

「地球人…か。一体彼らは何者なのだろうか…」

 結局なぜ地球にスレード隊の魂が行ったのかはわからないままであった。

 偶然か、カトリーヌが言っていた通り天音姫の妨害か…。もしくは別の要因か…。答えは今後の調査に期待するしかないようである。


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-太陽系付近-


 俺達スレード隊は再び惑星マティーナを経由して地球へ戻ってきた。

 行きと帰りで変わったことといえば、護衛の艦が増えた事だろう。200隻程の艦が護衛に加わっていた。

 いくらなんでも多すぎるのではないか?と思ったが、相手は万単位の艦を相手取る事ができるカトリーヌ。(能力は落とされてそこまではいかないらしい)元からこの数は妥当…いや、少ないのかもしれない。


 詳しく輝明さんに聞いてみると、なんと地球側に寄付される艦隊の一部だそうだ。運用の殆どを人工知能やロボット達が行うので、人員を増やさなくてもいいらしい。

 さすがにこの数は地球付近に持ってくることができないので、普段は太陽系に一番近い地球人が居るスペースコロニー群の防衛隊として活動させるようだ。

 地球からも数隻出迎えの艦船が来た。


「<次のワープで惑星地球上空へ到着致します>」


 そんなアナウンスが流れていよいよ地球へ帰る事ができると思っていると、腕輪から着信音が流れた。


 この腕輪型通信機の扱いにも慣れ、迷わず通話ボタンを押す。


「<…あ~…もしもし、全員通話にしてくれてありがとう。清堂 輝明です>」

 と、輝明さんの声が流れてきた。

 声色は何だか重苦しい感じだ。何かあったのだろうか?

「<突然だけど、地球に降りる前に一度話しておかなくてはいけない事ができたんだ。今からいつもの部屋に集まれるだろうか?>」

 と、輝明さんは言った。

「わかりました」

 俺がそう言った後に、他のメンバーも返事をしていった。

 旅の終盤に差し掛かろうというこの時に、一体何があったのだろうか。


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