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第47話 リール連邦戦争博物館

 『リール連邦歴史博物館』

 この博物館はリール国が宇宙連邦に加入する前から存在する。

 その為、かなり古い戦歴も見る事ができるが、一番有名なのはスレード隊が活躍した辺りの戦いである。

 後にこの戦いは、『リール統一戦争』と言われ、当時リール連邦は周辺国を次々と併合し、更には更に上位の存在である宇宙連邦に加入するに至った戦いだ。

 『リール統一戦争』という名称はスレード隊が全員戦死した後に付けられた為、リズリーやパルクス以外は知る由もなかった。

 今回、オーヴェンス達は初めてこの戦争の名前を知る事になる。

 そして、リズリーやパルクスを含め、その場に居たスレード隊全員が自分達が関わった戦争が華々しく記録されている事実を目の当たりにした。


 現在この館内には輝明さん、そしてスレード隊の隊員が揃っていた。

 鬼一郎さんと邦治さんはフー親子と話をするべくホテルにいるらしい。


「ほへぇ~。私達の事が、かっこよく書かれてますよ~」

 と、ミューイが。


「しかし、ここまで誇張して書かれていると、ちと恥ずかしいなぁ」

 と、デルクロイが額をポロポリと掻いて言っている。


「絶世の美女って、どういうことですか!」

 と、自分に対する説明書きを見て動揺するレイーヌ。


「……」

 ただ苦笑いをしているパルクス。


「おお!俺達が乗っていたBWが展示されてる!あれ?でも俺達の機体って破壊されたんじゃ?あぁ、これ修復してあるのか」

 と、トラウマにもなりかねなかったあの時の戦いに使用していた機体を懐かしそうに眺めるトリット。


「全方位無差別に雷を落とす魔法は圧巻だったって…私、戦場では敵の方面にしか落雷はさせていませんわよ?これでは味方にまで被害を与えていそうな間抜けではないですかぁ!」

 と、文句を言うリズリー。


「うぅむ。『彼女の指揮は、かの有名な"ヴィザラウルス"提督に匹敵する』って、ヴィズザウルス提督って誰なんだ?恐竜か?」

 と、よく知りもしない人物を自分との引き合いに出されて混乱するグリゼア。


「何々?『モリガンは一睨みしただけで相手は死ぬ』だと…俺が呪いか何かを発する事ができる設定になっている」

 もはや誇張のし過ぎで人とはかけ離れている存在になっているモリガン。


-勇猛果敢で、宇宙連邦軍と戦うまで無敗を誇り、いくつもの戦場で伝説を作った"勇者"『オーヴェンス・ゼルパ・スレード』は、8人の仲間と共に英雄となった-


 …なんだ…これは。


 俺の説明文がオカシイ。


 どうやら説明書きでの俺は頭脳明晰、容姿端麗。特に容姿は絶世の美男子であり、婚約者の絶世の美女レイーヌとはお似合いの仲であった。

 戦場では敵兵1万を悠々となぎ倒し、その優れたリーダーシップは多くの兵士から憧れの的となった…。


 ふざけているのか?


 頭脳明晰って、学生時代は俺よりも優秀な奴がいたよ?それに絶世の美男子ってなんだよ!レイーヌのところは確かにそうだけどさぁ。

 それに戦場で敵兵1万をなぎ倒しただぁ!?それは味方の兵も奮戦したからだろ!間違っても悠々とではないぞ!それなりに被害は出たんだ。


 あまりにも美化されている俺達…。一部けなされているのではないかと疑う項目はあるが、皆一様に前世を説明する文が違うと騒いでいる。


「それにしても、まさかこれがあるとはな…」

 俺はそう言って7体のBWと1台の指揮車を見た。


 先ほどトリットが騒いで見ていた通り、俺達スレード隊が死ぬ直前まで使用していた当時のリール連邦軍最新兵器達が並んでいた。

 しかもスレード隊仕様である。

「マーキングや装飾まで同じにしてあるとは…」

 そう俺がぼやいていると、

「そりゃ、同じ機体だから。らしいしねぇ」

 と、後ろから輝明さんがそう言って近付いてきた。

「同じ機体…ですか?」

「いや~かっこいい機体だね。なんていうか騎士の鎧をそのまま大きくしたようだ。あぁ、同じ機体って件だけど、ガリ…えっと、ガリオニア…公国だっけ?そこで君達が死んだ後の機体を宇宙連邦が回収して修理したものだからねぇ。勿論、傷つけられた箇所は取り替えたりしたから、殆ど新品同様になったはずだよ。今も動かそうと思えば動くらしいし」

 と、輝明さんは説明をしてくれた。

 これ、動くのか…。

「死亡事故を起こした車両…じゃなくて機体ってなんか嫌ですね」

 と、ミューイ。

「幽霊でも出そうって話か?それはないんじゃないか?」

 と、デルクロイ。

「まぁ、死んだ本人がここに居ますしね…」

 と、レイーヌが苦笑いをしながら言った。

 もう既に魂は全員転生しているので、この機体を使ったからといって化けて出るような事は無いはずだ。

 目の前に自分が使用した棺桶のような存在を見て、なんだか複雑な気分になった。

「そういえば、BWに乗った事があるんだったら、将来清堂家のBWのパイロットになってもらうっていう選択肢もあるなぁ」

 などと、輝明さんは俺の進路を期待している。

「うん、いいね。これよりも技術の進んだBWに乗ってもらうけど、元から感覚は掴んでいるはずだから…」

 妄想膨らむ輝明さんを見ながら俺は、

「輝明さん、俺達をここへ呼んだって事は、何か見て欲しいものがあったって事ですよね?何せ今日は俺達以外居ないんですから、何かまずいものっていうことですか?」

 と、聞いてみた。

 何せこの博物館、普段の入館人数は知らないが俺達以外の人物が居ないのだ。

 それもそのはず。『本日休館』という看板が出されていたからだ。

 まぁ、戦争をした翌日に来る客なんて居ないと思うが…。

「あぁ、その事なんだけど、どうやらここの館長さんが、このBWの事について話があるそうなんだ。もうそろそろ来る頃かと思うよ。さっき挨拶した時に、一度ここへ顔を出すって言っていたから」

 と、輝明さんは言っていた。

 このBWをどうするかを話す?確かにスレード隊が使用していたものだが、何でこのBWの処遇について俺達と話す必要があるんだ?

 維持費が大変とかだったら、別に捨てるなり売りさばくなんかをすればいいのに。俺達に許可がいるなんて話じゃないだろう?

 そんな事を考えていると、

「あ~!スレード隊の皆さん、お久しぶりです!ようこそいらっしゃいました!」

 と言う声が聞こえた。

 声がする方向を見ると、一人の老人が急ぎ足でこちらへ向かってきていた。

 俺達は戸惑いつつも頭を下げる。

 すると、俺達の近くまで来た老人は、急に敬礼をして、

「ドリアン・ベベネクト上等兵であります!」

 と、元気良く言った。

 ドリアン…ベベネクト?

 一瞬誰だと思ったが、一人の青年を思い出してきた。

 確か前世で会った時は、19歳位だったかな?

 あ、今完全に思い出した。彼はリール連邦のBWの整備をしていた整備士だ!

 彼は機械の扱いがかなり上手く、初めて手にしたBWという兵器の構造を見る見るうちに吸収していった優秀な人材だった。

 年齢は俺よりも上だが、階級は俺の方が上だったので、彼はここまでかしこまっている。

 ちなみに当時の階級は上から、

俺:中佐

グリゼア:少佐

デルクロイ:少佐

レイーヌ:大尉

モリガン:大尉

トリット:大尉

パルクス:大尉

リズリー:大尉

ミューイ:中尉

 であった。


 そうか…。ドリアンも年を取ったな。そして今気が付いたが、名前が地球の果物の名前だな…。


「まさか生きて再び会うことができるとは思いませんでした!」

 と、何故か涙を浮かべて感動しているドリアン。おかしいな。あんまり接点がなかったような気がするが、そんなにうれしい事なのだろうか?

「整備士のドリアンか!久しぶりだな!いや、ですね!」

 俺がそう言うと、

「おぉお!覚えてくれていましたか!私は感激しております!まさか英雄の方々に会えるとは!」

 ドリアンは既に泣いていた。

 あぁ…彼が涙を浮かべていたのは懐かしい人に会えたからというわけではなく、憧れの人に会えた感動だったのか…。

 それに思わず敬語を使うのをやめてしまったぞ。サプライズが強烈すぎる。

「ささっ、お話は来賓室でさせていただきます!」

 と、ドリアンは俺達を誘導した。



「それで、俺達に話しとは?」

 俺は全員が座る事を確認して、話を切り出した。

 スレード隊の皆も興味心身で聞いている。

「えぇ、実はスレード隊の皆様に遺品…と言っていいのか分かりませんが、前世の所有物を返却しようかと思うのですよ」

 と、言ってきた。

「前世の所有物ですか?軍服とか、剣とかですか?」

 俺がそう聞き返すと、ドリアンは、

「えぇ、そうです。ただ、元々スレード隊の皆様が所有していなかったものもお渡しするリストの中にあるのです。例えば皆様がお亡くなりになられた後の戦果の勲章や報酬も含まれ、その報酬の中にはマントなどの衣類や剣類も含まれているのです。なにせスレード隊の皆様は戦果が多かったため、かなりの量の報酬があるのです。実物をお確かめになりたければ、この館内にありますのでご案内いたします」

 そう言って、各自の名前が入った封筒を渡してくれる。リズリーとパルクス以外が着けている携帯端末は借り物なので安易にデータを渡す事はしないのだろう。


 リストを眺めると納得した事がある。

 確かに衣類や剣がリストの中にある。ただし、さすがに現代日本に武器を持ってはいけないので、貰う事はできない物もいくつかある。

 写真も付いているので、衣類についてはいるものいらないものと分ける事ができる。

 あぁ…指揮車の中に積んであった荷物も全てリスト化されているのか…。殆どいらない物だな…。ん?なんだこれ?

 俺は一番最後の行に書かれていた物を見て目を疑った。


「あの…すんません、この書類最後の行間違ってませんかね?なんかBWがリストに入ってるんですが…」

 デルクロイも俺と同様に一番最後の項目を見たらしい。ドリアンに恐る恐る質問をしていた。

「はい、間違いありません。そのBWは先ほどご覧になっておりました皆様が前世で最期に使用したBWでございます」


 館長はシレッとそう言った。

「え?あれもらえるんすか!」

 妙に機嫌が良くなったトリット。

「いや待て、あんなもの貰ってどうするつもりだ!」

 と、モリガンは慌ててトリットに注意をした。

「私は軍で使用していた指揮車って書いてあります!スレード隊とは別の隊で使用したものらしいです!これ、貰ったらどこに置いておけばいいんですか?」

 と、ミューイは不思議そうな顔をする。

「私も指揮車が支給されていますが…。これはミューイが言うとおり地球へ持って行ってもおいそれと置いておける物ではありませんね…。一体、どうしてこのようなことになっているのでしょう。本来ならば軍の備品ですよね?」

 グリゼアが館長に質問をした。

「実は、スレード隊のようにBWで功績を上げた兵士には、BWで功績を支給しようとしたのですよ。一般的に功績を上げた兵士には剣や鎧などを渡すような感覚です」

 まぁ、確かにBWは武器と防御の両方を兼ね備えているな。当時のそこら辺の武器や防具に比べると圧倒的だろう。ただ…、

「それにしても少し過剰過ぎませんかねぇ?これ、兵器ですよ?」

 と、デルクロイが苦笑いをしながら言った。

 うん、この制度は馬鹿だろう。現代日本の感覚で言えば一般兵士に報酬として戦車や戦闘機を渡す事と一緒だ。

「えぇ、ですがあまりにも皆様の功績が大きかったため、このぐらいの報酬になってしまったのですよ。更には法律上死亡した人…と言いますか転生した方に金銭を渡すわけにはいかなののでこのような物品になった経緯があるのです。ですので、実際にBWや車両が支給される方はスレード隊の皆様以外ではおりません」

 そうは言ってもどうすればいいんだ。

 確かに地球ではオーバーテクノロジーだが、そもそも魔力で動くこれは普通の地球人には使えない。庭先に置く事もできない上、輝明さんに預けて今後使用するとしても、輝明さん達の方が更に上の性能を持つBWを持っているはずだ…。

「我々が受け取りを拒否した場合、これらはどうなるのでしょうか?」

 と、俺が質問をすると、

「その場合、このまま博物館の展示物となります」

 と、ドリアンは答えた。

「…それでしたら、その方がいいと思います。このまま俺が使っていたBWはこの博物館の為に役立ててください」

「そうでしたか!それはありがたいことです!あのBW達は全てこの博物館の目玉展示物でして」

 俺の回答に館長は機嫌よく答えた。

「でしたら俺のも…。正直置く場所が無いっス」

 と、トリットも続けて言い、全員がリストにあったBWや指揮車を博物館に譲る形となった。


「では、買取とさせていただきますね」

 と、ドリアンが言った言葉には驚いた。

「え!?金銭は渡す事はできなかったのでは?」

 そう俺が言うと、

「確かにそうですが、物品を買い取る際にはさすがに金銭のやり取りは発生致します。ただし、歴史的価値は高いのですが、一応法令で決まっている額でしか買取はできません」

 と、ドリアンは答えた。

 どうやら、俺達が貰ったとしてもかなり制約があったみたいだ。

 一つは厳重に保管する事と、売却はしないということだ。

 これは一応国からの褒美であるため、安易に売りさばいたりする事はできないそうなのだ。

 売る時はリール国または宇宙連邦加盟国のみに限られ、その金額もある程度決められているそうだ。

「なんか、ちょっと残念な気がするっスよね。巨大人型兵器に乗るって、今世でも結構憧れたことがありますから」

 などと言っているトリットに対し、

「ははっ。大丈夫だよ。もっといい機体を君達が僕のところへ来ればあげるから」

 と、輝明さんが笑顔で言っていた。

 一体どれほどの高性能な機体をいただけるのだろうか…。というかくれるのか?マジで?




 結局、俺達は殆ど何も受け取らなかった。

 BW等の大型兵器は勿論のこと、剣や鎧も受け取らなかった。

 勲章もあったが、博物館の客寄せに使ってくれるのであれば問題はなかった。


 俺達が譲ってもらったのは『記録』である。


 正確なことを言うと、写真や映像であった。


 これらはコピーをいただいたので、博物館にとっては全く影響は無い。


 写真は、俺達スレード隊のメンバーが写っていたものだ。

 勿論そこに写っているのは前世の頃の姿であり、体感時間で一ヶ月も経っていないのに懐かしさを感じた。


 特に、全員が写っている写真は俺の大切な宝物となった。


 これを自宅である前田家に飾ったとしても俺以外の家族が見たら誰だかわかんないんだろうなぁ。


「ドリアン館長。ちょっと相談したいことがあるのですが…」

 と、ここで輝明さんがドリアンにこそっと話しかける。

「はい。なんでしょうか?清堂殿」

 と、ドリアンは不思議そうに聞く。


「実は、現スレード家の次男の件で…」

 輝明さんがそう言うと、

「現在のスレード家の次男というと…ダルガー君…じゃなくて、ワイルー君ですかな?ワイルー君の件というと…」

「はい。彼が辞職に追い込まれていると小耳に挟んだもので…」

 輝明さんがそこまで言うと、バッとドリアンは俺の方を見る。

 なんでそんなに焦った表情を俺に向けて来るのだろうか。それになんで輝明さんはドリアンにワイルーの事を相談するのだろうか。

 そして、ドリアンは俺に向かって恐る恐る口を開く。

「スレード隊長もこの話は…」

 と、聞いてきた。

「え?あ、はい。聞いています。俺が原因でワイルーが辞任に追い込まれるなんてことは納得できなくて…。騙したのはヴァルカ残党軍であり、ワイルーは上からの命令に従っただけなんですよね?俺としてはそんなこと許せなくて…」

 俺がそこまで言うと、ドリアンの顔は真っ青になってくる。

 なんでそんな表情になっちゃうの??

 俺はそんなドリアンの状態に疑問を抱きつつ、輝明さんに、

「あの…輝明さん。なんでこの話をここで…?」

 と、たまらずに聞いてみた。


「え!?あれ?清堂殿。私のことは話していないので?」

 ドリアンは俺の発言に我に戻ったようで、輝明さんにそう尋ねた。

「えぇ。あなたの前職を聞いてしまうと、畏まってしまい自然な態度が期待できないと思っていましたので…」

「な、なるほど。お気遣い頂いたのですね…。わかりました…」

 ドリアンはそう言うと、

「ちょっと待っていて欲しい」

 と、言って部屋を出ていった。




 ドリアン戻ってきたのは3分後だった。

「スレード隊長。こちらの箱に向かって先程の言葉をもう一度お願いできますか?」

 携帯電話サイズの黒い物体であった。カメラだろうか?

「それならばドリアン館長。私がそれを持ちますので、対談形式でお話をしてみては?」

 輝明さんがそう提案すると、

「なるほど。それはいいかもしれませんね…」

 と、ドリアンは言った。


 いったいなんなんだこれ?


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