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第45話 ワイルーの謝罪

 翌日、俺達はそれぞれ前世の実家に行くため、それぞれの車で出発をした。

 グリゼアとデルクロイは前世ではスレード家に住んでいた為、一緒の車へ行く事になった。勿論グリゼアの息子一之君も一緒である。

 実家へ行く目的はいくつかあるが、主要目的は両親が残してくれたという品の引き取りである。要は財産分与だ。


 やはりそういう内容だと緊張する。欲と欲のぶつかり合いで人の本性が垣間見えてしまうのではないかという恐怖がある。

 アリアに限ってはないかもしれないが、アリアの子供達にとっては決して心地いい事柄ではないだろう。

 地球では今世の兄竜也とも同じ事をいつかするのだろうか…。

 そんな事を考えている内にスレード家の屋敷に着いた。


「おぉ…」


 そんな声が出てしまう。

 車を止める駐車スペース確保のために馬車用の小屋や馬小屋はなくなっていたが、その他はほぼ前世の記憶のままだ。家の壁のレンガが少し欠けているが50年も経っていれば仕方が無いことだと思う。


「懐かしいですね。まだあの花壇が残っているとは…」

 グリゼアはそう言うととある一箇所の花壇を見ていた。

「あれはグリゼアが作った花壇だったね」

 俺がそう言うとグリゼアは、

「はい」

 と言って頷いた。

「ママが作ったお花畑なの~?」

 一之君が隣のグリゼアに聞くと、

「えぇ、そうよ。ママが作った花壇なの」

 と、グリゼアは優しい笑みで一之君に言った。どうやら一之君はこの前の愛理&カトリーヌ襲撃事件のトラウマで外に出る事ができないということはなさそうだ。殆ど一之君に外を見せないようにしていたらしいのであの残酷な光景を見せずに済んだのだろう。


 ちなみに、俺とグリゼアの視線の先にあった花壇には前世でグリゼアが作った花壇とグリゼアが好きな花が今も変わらず咲いていた。50年間誰かがずっと手入れをしてくれていたのだろう。


 駐車場から出ると、使用人達が出迎えてくれた。当然のことながら知っている顔は誰も居ない。

 そのまま案内されて屋敷に入ると、そこにはアリアが居た。


「やぁ、アリアただいま。で、いいのかな?」

「「ただいま戻りました」」

 俺に続いてデルクロイとグリゼアが背筋を伸ばしながらそう言った。


「お帰りなさいませ、オーヴェンス兄様。そしてデルクロイとグリゼア。ふふふ、その言葉で構いませんよオーヴェンス兄様」

 アリアは快く迎えてくれた。

「本当であればダルガーやワイルーも本日来る予定でしたが…」

 と、アリアは申し訳なさそうに言った。

「いや、仕方が無いさ…」

 俺はそう返事をする。

 アリアの息子達は今は忙しいだろう。ダルガーは戦後処理、ワイルーは事情聴取を受けている頃だろう。


「「父上!」」

「グリゼア!」

 扉から3人の男性が姿を見せる。出てきたのはデルクロイの息子のドルーガとガインツ。そしてグリゼアの兄が居た。


「おぉ!お前達か!」

「兄上!」

 3人の姿にデルクロイとグリゼアは揃って笑顔になる。


「さて、全員揃ったところで、それぞれのお部屋へ参りましょうか」

 アリアのその言葉で、俺達はそれぞれの部屋へと移動をした。



 今は俺とアリアは廊下を歩いている。

 アリアの歩く速度にあわせて俺の部屋へと移動をしていた。

「お懐かしいですか?」

 俺はキョロキョロと辺りを見ていた為、アリアは笑いながらそう言った。

「あぁ、照明が魔法ランプから電灯に変わっている所以外は殆ど変わっていないな…」

「ふふ。なるべく50年前のままにしていましたから。お兄様が帰っていらした時、あまりの変化に驚かれてしまうといけないので」


 そのアリアの気遣いがうれしかった。

 俺からすれば記憶が戻ったとは言え、たった数ヶ月離れていたような感覚だ。たった数ヶ月の間に屋敷が未来的になっていたとしたら、きっと俺はその家を前世の頃の家と思えなかっただろう。


「さぁ、着きましたよ」

 俺とアリアは俺の部屋の前へと着いた。

「どうぞお開け下さい」

「あぁ…」


 アリアに言われ俺は恐る恐る扉を開ける。


 扉を開けた先にあったのは、全く変わらない俺の部屋があった。

 いや、変わっているところは二箇所あった。

 やはり照明とその照明を明暗させるためのスイッチである。

 それ以外は変わっていなかった。


 本棚、ベッド、机、椅子。何もかも俺が使っていたままの物であった。

 俺は机に近付き、幼い頃につけてしまった傷跡を撫でた。

 この瞬間、ようやく俺はオーヴェンス・ゼルパ・スレードとして自分の家に帰って来た気がした。



 ほんの数分、俺は自分の世界に居た。


 昔ここで本を読んでいた事。


 ここで勉強をした事。


 開けた窓から野鳥が入ってきてしまい、追い出すのに苦労した事。


 この部屋でデルクロイの息子達と談笑をした事。


 アリアが嵐の夜、雷が怖いと言うので一緒に寝た事。


「…おっとすまん、アリア。昔を思い出していた」

 俺はアリアにお礼を言った。

「いえいえ、いいんですよ。私も昔、嵐の夜お兄様の布団に潜り込んでいたことを思い出していました」

 偶然ながら兄妹揃って同じ思い出を懐かしんでいた。

「はは、そうだったね。それにしても50年、よくこの状態を保存してくれていたね。ありがとう」

「いえいえ、ここには極力掃除以外で誰も入らないように言い聞かせていましたから」

 アリアはそう言ってクスクスと笑って、

「私の息子達が昔この部屋に入った時、私に見つかって大慌てをしていましたよ。私に叱られるかと思って」

「別にいいのに」

「いえいえ、そういうわけにはまいりません。きっちり叱っておきました」

「アハハ」

「まったく、お兄様のいかがわしい本を探すなんてとんでもございません!」

「うん、叱ってくれてありがとう」

 とんでもないいたずら兄弟だ。と、言いたいが、あいにく50年前はそんないかがわしい本自体が世間に出回っていなかった。

 アリアの息子達の幼少期は既にそういう本が普及していたのだろう。文明の変化の波はすさまじいな。

 しかし、あの二人がそんな事をしているとは。少し見る目が変わってしまったではないか。案外可愛らしい事をするんだな。

 …アリアも俺にそう思わせることが目的なのだろうか?

 今回の事件のほんの少し片棒を担がされたワイルーの救済を目的に情けというか身内の愛情と言うものを感じさせようとしているのだろうか。


 …いかんいかん、俺も随分と薄汚れてしまったな。第一そうだったとしても別に俺はワイルーのことを非難するつもりはない。


 全員無事だったということも自分の感情の中で冷静に居させてくれているのだと思うが、ワイルーもまた被害者なのだ。


「母上!」


 そう声が聞こえた。

「あら?貴方達」

 アリアは不思議そうな表情で声がした方向を見た。

「ん?」

 俺は部屋から顔を出してアリアと同じ方向を見ると、本来居るはずの無い二人がそこに居た。

「あぁ、叔父上この度はどうも私の愚弟がご迷惑をおかけしました…」

 と、ダルガーが、

「叔父上、申し訳ございませんでした!」

 と、ワイルーもそう言ったところで兄弟二人が頭を下げていた。

 その様子に俺は慌てて、

「いやいや、ちょっと待って、今回はワイルーの立場的には仕方が無かったんだよね」

 と、言った。

「はい、実はワイルーへ出された機密指令書は"正規"の指令書でした。妙な言い方になりますが、不正に発行されたものだったので、指令書の効果は直ぐに解除されました。さすがにあの指令書を見せられたのであれば私も弟と同じ行動をしてしまいます」

 と、ダルガーは説明した。


 ダルガーの説明でも分かるが、今回かなり権限がある上層部が不正に手を貸したようで、宇宙連邦はかなりの大事件としてニュースになっているらしい。

「と、いうか二人はここに居ても大丈夫なのか?特にダルガーは国防大臣だろ?いくら戦闘が終わったからといって、ここに居ては拙いのではないか?」

 俺はそんな疑問を二人にぶつけてみる。すると、ダルガーは、

「本来であれば確かに私がここに居る事は無いでしょう。ですが、リール国の世論上、先に大英雄である叔父上に謝罪しなくては話が先に進まないのです」

 と、説明してくれた。

 なんちゅう国だ…。


「それは…酷い政治体制だな…」

 俺は苦笑いになりながらそう言うと、


「いえ、当然のことなのです。既にこの話は国中へ広がり、ワイルーは文部大臣を辞職せねばならないでしょう」

 と、ダルガーは説明を付け加えた。


「誰かが責任を取らなくてはならない。ということか?」

 俺がそう質問をすると、


「はい…」

 そうダルガーが答えた。

「俺はワイルーに謝られる必要は無いと思う。さっきも言ったじゃないか。ダルガーも指令書を見れば実行してしまうと。それほどのものだったんだろ?その指令書ってやつは」


「「…」」

 俺が再び問いかけた質問に黙りこくってしまうダルガーとワイルー。それを見かねたアリアは、

「その事についても一度下へ集まって話をしてみては?」

 と、提案してきた。


 俺はこの状況を早く何とかしたいため、アリアの提案に乗り、兄弟二人もその提案に乗った。



 一階のリビングは大勢で食事ができる。

 最大17人で食事ができるその大机に、昔は父上と母上、そしてアリアと俺の4人だけが座るというなんとも物寂しい空間ができていた。

 それは今、この状況でも変わりはなかった。

「2人とも、この後仕事は?」

 俺がそう聞くと、

「えぇ、一度抜け出す許可をいただいております。昼食後、また戻らなくてはいけません。なにせ、リール国の英雄の件ですからね。今回の謝罪の件も重要視されているのですよ」

 と、ダルガーが答えた。

 そんなにも俺達スレード隊は英雄と祭り上げれているのだろうか。にわかには信じがたい。

「私は愚かでした…!」

 と、続いてワイルーは座りながら頭を下げた。

「私は叔父上にこの家の財や地位全てを引き継がれるという話を聞き、そうならないよう動いておりました…」

「お、お前はそんな事を考えていたのか!?確かに指令書にはそんな事が書かれていたが、実際の法律ではそんな事はできんぞ!」

「分かっております兄上…ですが、このままでは…と思ってしまい…」

 あ~、やっぱり俺に家を乗っ取られると思っていたか…。

 お家騒動がありそうな人物はスレード隊では俺しか居ない。


 レイーヌには兄が居て、尚且つスレード家(俺)に嫁ぐ存在だ。


 デルクロイは元々家長であるし、別に息子に譲ったって家長が戻ったとしても再び息子に家長の座は戻る。


 グリゼアにも兄がいるので問題ない。


 モリガンとパルクス、ミューイは戦闘員としては非常に優秀であるが、平民からの兵士であるため貴族としてのお家騒動なんてものは無縁だ。


 トリットとリズリーは一応下級貴族ではあるが、宮廷魔術騎士団トップの実力者として別の貴族の家とされてしまっている。ちなみに二人とも上に兄がいる。


 つまり、俺以外こんな問題に巻き込まれる事は無いのだ。


「まぁまぁ、ワイルー、安心して欲しい。俺はこのスレード家の名誉や財産を欲しているわけではないんだ。実際、俺の部屋にある全ての私物でさえ無い物と思っていた位だからな」

 俺がそう言うと、ワイルーは驚いた顔をして、

「そ、そうでしたか…」

 と、ガックシ肩を落としていた。

 自分が信じていた情報をあっさりと否定されたのだ。気が抜けるのも無理もない。俺の部屋にあるガラクタでさえもいらないといわれたのだ。

「いえいえ、あの部屋の物は全てオーヴェンスお兄様のものですよ?」

 そう言って、何言ってんだ?という顔でアリアは俺を見る。

「いやいや、実際あの量の物なんてどう持ち帰るんだ?本なんて俺が今住んでいる国の文字じゃないし、持ち帰ったとしてもどうやって保管をするんだ??俺の今居る家はこの屋敷の5分の1位の大きさしかないんだぞ」

 俺がそう言うとアリアは納得したみたいで、

「あぁ、その事でしたら、地球の『セイドウ』という方からメッセージをいただいております。持ち帰る荷物があるのであれば清堂家が預かる。と」

 そういえば輝明さん、なんか変な空間に武器を大量にしまいこんでいたな。まさか輝明さんが引越し業者のような事をするのだろうか…。

「そう…なのか…しかし、それは問題ないのか?法律上とか…」

「全くありません。オーヴェンスお兄様には父上や母上の形見も持っていて欲しいですから」

 しれっとそう言ったアリア。

「形見?」

 俺はそう聞き返すと、

「えぇ、父上や母上の写真とか、ビデオレターとかです」

「写真は分かるが、ビデオレターなんてものもあるのか!?」

「はい、転生される事は分かっていましたので、作成してありました。今ここでは再生はいたしませんので、お持ち帰りしていただいてからご覧になって下さい」

 まさかアリアの口から写真やビデオレターなんて単語を聞くとは思わなかったので少しポカンとしてしまう。

「分かった。うん、そうだね。確かレイーヌからのプレゼントのマフラーなんかもあったから、そういうのは欲しいし…あ、確かアリアから貰った帽子もあったな」

 俺はポツポツと思い出の品を思い出していく。

「あの帽子のことでしたか。持っていて下さったのですね」

 アリアは嬉しそうに言うが、

「いや、俺が戦場へ向かう1年前に貰ったものだからクローゼットにしまってあるはずだ」

「そうでしたね」

 と、アリアはクスクスと笑っていた。

 そして、アリアは真剣な表情になり、

「私の気持ちとしては、あの部屋はオーヴェンスお兄様の為にとっておきたいのです」

 その発言は再びワイルーに誤解を与えてしまいそうなので、俺は今後の為にもはっきりとさせておいた。

「いや、あの部屋は俺が使うべきではない。既に俺はこの家の血筋ではない。魂はスレード家の記憶はあるが、体は『前田』という新しい一族の血肉なんだ」

 俺はそう言った後、一呼吸して、

「だから俺はあの荷物を全て貰うだけにする。この家に再び来たとしても、それはスレード家の一族の権限を持っている者としてではなく、友人が来たという感覚でいいかもしれない。勿論再びこの家に来る事や皆と会う許可を貰えればの話だけどね」

 俺がそう言うと皆涙を浮かべていた。

 気持ちは三者三様だろう。

「お兄様、そんな寂しい事を言わないで下さい。確かに一族の事につきましては難しい事柄が多々ありますが、お兄様は体が変わってもお兄様です…。何度でも!何度でもこの屋敷に来ていただいてかまいません!」

「ふがいない…私…私達スレード家は国の英雄を…これではまるで追放だ…」

「私は…このような方を排除しようとしていたのですね…この方を見誤っておりました…」

「いや、皆気にしないでね。俺も自分の家があるだけだから。ほら、いろんなところにも家あっても遠く離れているから行き来し辛いし、向こうでの生活もあるからね?」

 と、皆を慰めようと俺は必死に声をかけ続けた。

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