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第16話 今世でも婚約者ができました

 そして食事会当日。

 デルクロイが前田邸まで迎えに来てくれた。


「どうも、はじめまして!私、井野口 正嗣と申します!本日ま皆様をお迎えにあがりました」


 玄関先で迎えに来たデルクロイがいつもの豪快な態度とは違い、丁寧に父、母、兄へ挨拶をした。


「どうも、竜生の父、『前田まえだ 辰夫たつお』です」

「今日はよろしくお願いいたします。母の『前田まえだ 美代子みよこ』です」

「兄の『竜也』です」

 家族はそれぞれ挨拶をした。

「では、お乗り下さい」

 デルクロイにそう促され、前田一家はデルクロイが用意した車に乗り込む。広いなぁ。この前海に行った時に乗った車と同じくらいか?




 そんなわけで、俺達は神埼ホテルへ着き、用意されていた最上階のレストランで食事をする事になった。

 ホテルのお偉いさんに案内され、俺達は神埼家の面々の席へと移動した。

 場所は個室になっており、夜景が良く見える。きれいだ。


 デルクロイは個室に入ると同時に、


「よう!邦治」


 と、邦治さんを呼び捨てにして、片手を挙げて挨拶をした。

 おや?知り合いとは聞いていたがここまで砕けた挨拶ができる仲だったか。


「!?正嗣さん!なぜここに!?」


 おっと、邦治さんが驚いてしまったぞ。ちょっとしたサプライズになってしまったかな?

 あれ?レイーヌもレイーヌの今世での母と思われる人物も立ち上がって驚いてしまったぞ。しまった!レイーヌにはデルクロイは発見したといったが、今世の名前まで言っていなかった。

 そう俺が思っているうちに、

「ん?竜生坊っちゃんが言ってなかったか?従者を一人連れて行くって」

 と、デルクロイは邦治さんの問いに答えた。


「「「従者!?」」」


 あらら、今度は父母と兄を驚かせてしまった。そこらへんの説明していなかったなぁ…。ってか、デルクロイがいきなり従者とか言うと思わなかった…。

「じゅ、従者?あなたがですか?し、しかし私に仕えている者が言っていたのは若い女性だったはずでは…」

 邦治さんがうろたえてしまっている。仕方が無い…。

「えぇ。その人も私の従者です。複数居るものでして…」

 と、俺は説明した。

「は…はい?ふ、複数ですか…。なるほど…。しかし正嗣さんが従者とは…」

 そう言った邦治さんは俺とデルクロイを交互に見ている。

「おーい。メインは俺じゃなくて竜生坊ちゃんだろ?ってか、こんな所で突っ立っててもなんだ。座ったらどうだい?」

 デルクロイ。それ普通あちらが言う事だから!

「えぇ、そうですね…。どうぞ皆さんお座り下さい」

 邦治さんのその一言で、状況が飲み込めない前田家の面々はカクカクした動作でそれぞれテーブルに座る。


「それでは…挨拶の方から」


 と、邦治さんが促し、それぞれ挨拶をはじめた。

 ここでわかったことといえば、レイーヌの今世の母の名前は『神埼かんざき 真知子まちこ』ということと、現在のレイーヌには兄が一人、姉が一人いるらしい。つまり今のレイーヌは末っ子だ。

 兄は仕事に都合で今日は来る事ができず、姉の方は今の夫と海外へ行っているらしい。

 上二人は既に結婚しているようだ。


 自己紹介が終わり食事が始まっても両家はソワソワと落ち着きがなかった。

 原因は…。


「おぉ、このワインなかなかと美味いな。流石は邦治。いいものを揃えておる」


 そう。この豪快に今ワインを一気に飲み干したデルクロイの存在である。

 両家の人間がチラチラとデルクロイを見る中、デルクロイはそれを気にも留めず出てきた料理に対してあーだこーだと言っている。


「あっはっは。元治もとはる麗奈れいなも残念だったな。こんなにうまいものを食べ損なうとは…いや、奴らなら二人ともこの料理、いつでも食べる事はできるか」


 ん?元治?麗奈?レイーヌの今世の兄と姉だろうか?


「ご冗談を…。あなたならいつでもここと同等の品を食す事は可能でしょうに…」

 なんとも渋い顔でそう言った邦治さん。


「しかし…」


 そう言って俺と竜生の父を見て、

「失礼な話ですが、前田家の調査をこの二日でしました。一般家庭だったので簡単に調査ができ、何の変哲も無いご家庭と思っておりました」

 と、邦治さんは言った。

「ですが、その認識は間違っていたようでしたね。もっと時間をかけて調査をするべきでした。前田 辰夫さん。あなたのご家庭はいったいどのような家系なのです?」

 邦治さんがそう質問すると、竜生の父は、

「い、いや。私の家はごく平凡な家庭でございます」

 と答えた。

 だろうね!

「いやいや。辰夫さん。従者が居てその一人は資産家の家長。これが平凡な家庭とは、それもご冗談が過ぎますよ…」

 邦治さんは苦笑いを浮かべながらそう言った。

「え…えぇ…。まぁ、そのこと…。なんですが…」

 原因を作った俺が言うのもなんだけど、しどろもどろに答えている父の姿は見ていられない。

 父辰夫は俺を横目で見ながら説明しろ。という顔をする。

 うぅん、どういう話を作ろうか…。そう考えていると、


「邦治、前田家のお父さんに話を伺っても多分答えは出ねぇぜ」


 と、デルクロイが食事を止めて言った。

「どういうことでしょうか?」

 当然邦治さんからこういう質問が出てくる。

「あぁ、簡単に説明すると、俺は前田家にお仕えしているわけじゃぁない。前田 竜生様に仕えている身なんだ」

 と、言い出した。


「「「え!?」」」


 両家の人間は余計に混乱しているようだった。

「俺はな、竜生様にとある事情により一生仕えると忠誠を誓った身だ。これは冗談ではないぞ?坊ちゃんが望めば… いや望まなくても俺の資産の一部を譲渡する用意がある。これは俺の家族も了承済みだ」

 デルクロイがそう決意を表明するが、みんなポカーンとして聞いていた。

 資産を一部譲渡する?ちょっと待って。初めて聞いたよその話。


「いったい家の竜生と何があったんですか?」

 たまらず父、辰夫がデルクロイに聞いてきた。まぁ、そうなるわな。さて、どういう話にしていくつもりだ?それ によって俺はデルクロイの発言を肯定するような振る舞いをしなくてはいけない。

 すると、デルクロイは、

「多くの恩があるのですよ。一例として私が日課のジョギング中に発作を起こして茂みに落ちたところ、救助してくれました」

 と、俺がやったという話を皆にした。

 ってそれ俺とデルクロイの前世であった事じゃん。

 俺は治癒魔法は苦手だが、治癒魔法を発動できる使い捨て2級魔方陣の巻物を使用して助けたな…。


 ちなみに魔方には特級、そして1級~6級まで7つの階級が存在する。

 2級でもちぎれた手足をつなげる事ができる高級魔法なのだ。巻物の値段もかなり高い。


 あの時デルクロイは死に掛けていたが3級の魔方陣でも助ける事ができた。

 だが、あいにく持っていなかったため、2級を使った。まぁ、素人がどういう級までで良いなんて判断できないし、 できる人物といえば死に掛けていたデルクロイだった。

 その時の話を今しているんだな…と、思っていたら、

「あぁ。2年前の発作の事ですか。あれは自力で救急車に連絡したと思っていましたが、竜生君に助けてもらっていたんですか…」

 納得したように邦治さんは頷いていた。

 ってか、デルクロイは今世でも同じような事がおきていたんだな。今世の場合魔術の概念が無い世界だけど、どうやって治ったんだろう?

 あれ?そう言えば今世で大けがをした場合ってどうやって治療するんだ?


「これはあくまで竜生様に助けていただいた話の一部です。言い出せばキリがありません。おそらく一生かかっても 返せないくらい恩があります」

 そんなには無いだろう。でもまぁ、これはでまかせかな?


「ふむ…。それで従者になった。という経緯か…。しかし今の時代でそのようにして従者になる者がいたのですね… 。正嗣さんらしいといえばらしいですが…」

 ハハっと笑いながら邦治さんは言った。

 すると、


「あのぉ。お二人はどのようなご関係なんでしょうか…?」


 と、父がデルクロイと邦治さんに聞いた。うん。俺もそれ気になっていた。どちらかといえば邦治さんはデルク ロイに頭が上がらない。そんな雰囲気だ。


「あぁ。それならば私がご説明いたしますよ」

 と、先ほどの笑みとは違うよりいっそうやわらかさを感じる笑みで邦治さんは父に説明を始めた。

「実は私の妻真知子は正嗣さんの妹なんですよ」

 マジか!と、いうことはデルクロイは邦治さんの義兄になるのか!

 おっと、真知子さんが頭を下げたので俺も下げ返す。

「当然私の義兄なんですが、正嗣さん、義兄と呼ばれるよりも名前で呼ばれる方が良いみたいで…」

 だからデルクロイを義兄さんとは呼んでいなかったのか…。

「それに私は彼に頭が上がらない存在でして、私が今立てているこのホテルや会社など、多くの土地を殆ど無償で貸してくれています」

「ん?今はちゃんと金を取っているぞ!」

 ここでデルクロイが不思議な顔で言った。

「それでも他よりもずっと安いですよ。それに新しく本社を移動して建てる時には経営が落ち着いてから金を払ってくれれば良い。それまでは固定資産税等管理費分だけ払ってくれ。とおっしゃってくれたので、かなり助かったんですよ…」

「あぁ。確かにそう言ったな。だけどよ、邦治もたった1年で黒字にしちまってその年からちゃんと賃金払うなんて敏腕すぎるだろぉ」

「それは最初予定していた土地分の経費がかからなかったからです…」

 お互いにヨイショをしている二人である。

 そういう経緯があって邦治さんはデルクロイに頭が上がらないのか…。邦治さんの態度にはそういう理由があったんだな。



 それからは何の変哲も無い思い出話デルクロイと邦治さんはして、邦治さんは辰夫や竜也に仕事の事や学校の事を聞いて話していた。



 食事も終わり、一息ついた頃には両家の心の距離は僅かに近付いている気がした。

 そして、邦治さんがここで重要な事を話し出す。

 そう、俺とレイーヌの件だ。

「竜生君。娘をよろしくお願いできるかね?」

 相変わらずやさしくそう言った邦治。

 まさかこんなに早く返事を貰えるとは思っていなかった。

 俺の答えは決まっている。もちろん。

「はい。もちろんです。これからもよろしくお願いいたします」

 と、答えた。

 父も、

「こんな息子ですが、しっかりお嬢さんを守るように言い聞かせますんで」

 と、言っていた。父さんありがとう…。という気持ちになる。

「はっはっは。こちらこそ、粗相が無いよう言い聞かせます」

 邦治はそう言って笑っていた。

「しかし…」

 と、邦治さんは言葉を続け、

「今こんな事を言うのは大変失礼になってしまうが、最初は無理にでもお断りしようと思っていたのですよ…」

「お父さん!?」

 レイーヌは邦治さんの言葉に驚く。

「私が調べた時には、彼がかなり積極的であり正義感あふれる男という印象でした」

「ほうほう。流石邦治、いい目をしている」

 と、デルクロイは邦治さんを褒めた。

「竜生君自身がいじめを受けた時に行った行動ですが、あの学校の教師、生徒、この市の教育委員会や実力者といわれた小岸議員を敵に回しましたが勝利しました。これだけ強大な敵を前にしてもくじけなかった強靭な精神力は素直 に驚きましたよ…ですが…」

 邦治さんはそう言って俺をしっかりと見据えて、にこやかな表情から真剣な顔となり、

「あなたは多くの人から恨まれる立場にもなりました」

 邦治さんにそう言われた瞬間、以前電車の中で偶然会った小岸議員の娘小岸 愛理のあの異様とも言える状態を思い出した。しかし、あれで恨まれたのならば完全な逆恨みだ。

「君は逆恨みと思うかもしれない、いや大抵の人は逆恨みと思うよ。だが、それでも恨みというのは変わりない。つまり君がいつ復讐に遭うかわからない立場なんだよ」

 うん。それは確かに考えていた。

 真っ先に復讐に来るとしたら泉や朝川ではないかと考えていた。

 邦治さんは俺が考えている事を読み取ったのか、

「なるほど、覚悟はしていたようだね。もちろんそうなると、恋人となり君と一緒に居ることになる麗華にも危険が及ぶ可能性がある」

 と、言った。

 なるほど、つまり…。

「つまり、そうした理由から麗華を守るために君との付き合いは認める事ができなかった…」

「ほぅ。だが、その認めない理由、解決などしていないのだろ?」

 デルクロイがそう質問すると、

「この子はね…、麗華は小さい頃からわがままを言わずに過ごしてきたんだ。本当に手のかからない子だった。わがままでいうとこの子の姉のほうがすごかったからね…。だけど、初めて麗華は婚約者問題の時、我侭を言ったんだ。 流石に驚いたよ。今まで私の言う事を素直に聞いてくれたのにどうしたんだ?とね。反抗期かと思っていたら自分で婚約者を探したなんて言い出して、とてもじゃないが信じられなかったよ…」

 神埼家、前田家両家の人間とデルクロイは邦治さんの言葉に聞き入る。

「だからこそ思ったんだ。この子がやっと自分の意思を見せてくれたんだ。その願い、どんな結果になろうとも叶えてあげたいと思ったんだよ…」

 その後、

「こんな親おかしいかな?」

 と、言って邦治さんは笑っていた。

 確かに自分の娘の願いが娘自身に危険が及ぼうというのに願いを叶えてあげようという親は珍しいかもしれない。

「ま、俺も守るし大丈夫だろぅ」

 と、デルクロイは笑っていた。

「まぁどちらかというと浮世離れした麗華の言動に竜生君が耐えられるか心配です…」

 邦治もそう言って笑っていた。

「ちょっと!お父さん!?」

 レイーヌは顔を真っ赤にして抗議した。

「大丈夫だと思うぜ。坊っちゃんと嬢ちゃんは前世からある運命の糸で繋がっているとワシは信じているからな!」

 おぉう…デルクロイ。際どい際どい!前世の頃の話がばれたらまたややこしい事になりそうだ。

 ほら、邦治さんが訝しげな目でデルクロイを見ているぞ!

 こうして話は締めくくられ、食事会は終わりとなった。


 帰りは再びデルクロイに送っていってもらい、俺を含め前田家の面々は自宅へと戻ってきた。


 全員気が抜けたのか、リビングのテーブルで椅子に座って休息している。


「皆、今日はありがとう」

 俺がそう言うと、父は、

「気にするな。良かったじゃないか」

 と答え、母は、

「よさそうな娘さんでよかったわね」

 と言い、兄は、

「あぁ…」

 と、小さく声を出した。




 こうしてスレード隊のメンバーは合計5人となり、後は4人となった。

 このまま順調に揃っていけばうれしい。


 だが、揃った時にどうする?転生した原因を探すのか?


 う~ん。考えてはいなかったが、少なくとも今世で平和に暮らしている事が分かればそれでいい。

 グリゼアのように苦境に立たされているというのであれば助けていきたい。


 それが今後の課題になってくるだろう。


 今日はもう寝る事にした。

 だが、寝る前にデルクロイとレイーヌにそれぞれメールをしておく。


 デルクロイには今日の送迎と、神崎家と俺を取り持ってくれたお礼。


 レイーヌには改めてデルクロイにお礼をしたいが、近々一緒に何かお礼の品を選ばないか?という内容だ。要はデートをしたいという内容である。


 デルクロイからは、「坊ちゃんのためならお安い御用ですよ!」という内容が。

 レイーヌからは「お礼なら早い方がいいと思います。明日でも良いですか?」という内容だった。

 レイーヌへの返信はもちろん大丈夫。という内容を送った。

 その後、明日の予定をレイーヌと立てて就寝となった。


 まだ夏休みは始まったばかりだ。


 明日のデートを今から楽しみである。


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