99話:貴方の近くにいつでも猫
(青春だよなあ。うんうん、とっても青春だぜ)
当然のように射撃練習場に来ていた白猫コアは満足そうに呟いていた。
青春といえば友情・努力・勝利。そして恋愛だ。
まあ、エピンの場合はまだ憧れという感情なように見えるが……まあ、仕方ないだろう。
エピン自身は、自分がクリスのことを好きだと思っているだろうし実際そうだろう。
だからヘンリエッタのことは憧れとして自分の中で処理するのは真面目なエピンの感情の動きとしては当然だ。
(別に好きな人が複数いたっていいと思うのは……俺が間違ってんのか?)
視線の先ではエピンとヘンリエッタが魔法の練習をしている。手取り足取りやっているのでエピンがあからさまに動揺しているのが白猫コア的にはニコニコしてしまうポイントなのだが……まあ同じヤマダ一族にも理解してもらえないのでさておこう。
(このまま見ていたいのは山々なんだがなあ……)
物陰に立っているダリアンに仕方なさそうな、本当に仕方なさそうな表情で頷き白猫コアはダリアンと共にコアルームへと転移する。
ダリアンと白猫コアと、イリシア。ちょっと珍しい組み合わせに白猫コアは首を傾げてしまう。
「なんだよオイ。どういう組み合わせだこりゃ」
「今回は私がダリアン校長に頼んでコアをお呼びしました」
真面目な表情のイリシアに、丸まろうとしていた白猫コアは佇まいを直してピシッと座る。イリシアが言うのであれば本当に真剣な話なのだろうと、そう思ったからだ。
「言ってみろ。何があった?」
「外の世界に動きがあります。精霊たちからの報告ですので、確度の高い話です」
「疑ってねえよ。わざわざ言うくらいだ。ヤバい話か?」
「魔塔が、此方の位置を探ろうとしています」
「……ふーん?」
それは中々に面白い話だ。魔導祭の時にも何かしようとしていた魔塔の魔法使いはいたが、一体魔法学園ヤマダを探して何をしようというのか?
基本的に魔法学園ヤマダは空を飛び、ずっと場所を変え続けている。勿論追おうと思えば出来るかもしれないが、追えばどうにかなるものでもない。そんなことはとっくに分かっていると白猫コアは思っていたのだが、どうにもそうではないらしい。
「イリシアが分かったってことは、精霊に探させようとしたってわけだな」
「はい。けれどまあ、精霊王はコアですので……適当に理由をつけて断ったそうです」
「だよな。それだけなら問題なさそうに聞こえるけど」
「ええ、それだけなら」
しかし、そうではない。そして此処からが問題なのだ。
「……どうにもドラゴンに話を持っていったようで。一部のドラゴンは人間からの貢物を受けて多少の願いを叶えることもあるらしく。ブラックドラゴンが興味を示しているという話があります」
「ドラゴンねえ……この学園の目的には関係ないからほっといたけど、うーん……」
コア自身本当に忘れがちだが、ドラゴンの王として設定されてしまっている。だから何かあっても問題ないと考えてはいるのだが……それにしても、そこまで魔法学園の位置を特定しようとしているとなると、本当に只事ではない。
「確かにきな臭い話だなあ……探りを入れたほうが良いな」
「ええ、精霊にも引き続き協力を求めます」
「そうしてくれ」
イリシアに頷くと、コアはダリアンに視線を向ける。
「今回の件、ダリアンはどう考えてるんだ?」
「何か大きい動きがあると見てよいでしょう。精霊だけではなく、何かもっと別の手段を講じたほうが良いかもしれませんぞ」
「お前が言うなら……うん、そうするか」
具体的にどういう手段を講じるかはこれから考えないといけないが……潜入に特化した人材か、あるいは情報集めに特化した人材か……その両方か。
「はー……ほんとこういうのめんどくせえなあ。女神さまには恩があるからさあ、あんまし過激な手段はとらないようにしてるけどさあ。許されるなら魔塔を全部折って回りたいよな。こうポキポキって」
実際やるには魔塔の中から人を追い出してから折る必要があるから、それはそれで面倒くさそうだな……と思ってしまう辺りが白猫コアの悪人ムーブの限界ではあるだろうか。たぶん女神もその辺りの善性を見抜いていたのだろうとダリアンは考えている。まあ、とにかく。コアはやると言ったらやる。であればコアに任せて何も問題はない。なんだかんだ言っても、この学園の中心はコアなのだから。
「では実際の対策はお任せするとして……どうですかな? 学内は」
「うーん。まあ、いいんじゃね? とはいえ学習深度の差が気になるな。リリカ組とエピン組ばっかり突出してるからな……そこも何かサポートしてやらなきゃならんけど、これは次の会議で決めるか」
部活動も幾つか申請がきているようだが、王族限定のロイヤルクラブだとか貴族限定のノーブル部だとかは早々に却下している。結局のところ、貴族組のほとんどの視野が狭いとしか言いようがない。これは明確な改善ポイントだろう。
「やるべきことが多すぎるぜ……本当に必要だったのは軍師だったんじゃないか?」
軍師が必要かどうかはさておいて。世間の雰囲気がどう変わろうと、魔法学園は今日もいつも通りなのだ。
第二章、これにて終了でございます。




