85話:男の子はドラゴンが好き
ちなみに時刻は夜。すでに生徒たちも寮に帰っている頃で、エピンもその例に漏れず男子寮の自室に戻ってきていた。
魔法学園ヤマダでは全員に個室が与えられている……コアとしては一部屋四人とかにして「最初は仲の悪かった俺たちが親友に……!」みたいなのをやりたかったのだが、この世界における貴族と庶民の格差問題はそれなりに根深く、余計な問題が起きる可能性が危惧されたので個室になっている。なおコアはしょんぼりしていたが、それはそれとして思ったよりも「頑なに貴族としての上位の振舞い」をする生徒が多くなかったので……まあ、そこは生徒たちの善性の勝利であり、あるいはエピンやクリスといった「学園内における生徒の序列の最上位」がいるせいかもしれない。どちらであるかは今後分かっていくだろう。
とにかく、エピンはこの時間、部屋で習ったことや思ったことなどをノートに書き留め思索にふける時間であるということだ。
「オーク、か。知ってはいたが……やはり領地の騎士団は優秀だったんだな。火力は魔法使い頼りとしても、あのパワーを相手に生き残れる技術があるんだ」
実際、オークのパワーというものは凄まじい。1体いるだけでその辺の村の自警団程度なら地面の染みにしてしまう程度の筋力があり、それに相応しい重量級の武器を使う知能もある。真正面からオークに対抗しようと思うのならば分厚い鎧を着込んだ重装騎士を揃え、近づけさせない戦術をとるのが普通だ。
まあ、獣人などであれば速度で翻弄し倒してしまうこともあるが普人ではそうもいかない。
故に魔法学校の生徒たちがとれる手段としてはファイターゴーレムを使うか、ロックゴーレムを召喚できる召喚魔法使いを連れていくのがベターだと言えるだろう。
なお最適解は魔法剣士や魔法拳士であり、新入生の中ではリリカがベストだ。
そんなリリカが召喚魔法使いであるキアラと組んでいるのはまさに鉄壁コンビなわけだし、それに気付いて武術の授業に行く者も出てきているが、ある意味で他の魔法使いとは真逆の概念なので中々上手くいかないのが実情であったりする。文系や理系と体育会系の違いそのものだ。
だからこそ、リリカにコンタクトを取ろうとする者も出てきているのだが……キアラが完璧なガードを見せているので成功している者はいない。さておいて、エピンたちにはそんなものはないので今のところはカリックスに期待……ではあるのだけれども。
「カリックスに期待すると言った以上、それを信じるべきだ。俺が火力を上げなければならないのもその通り。だが、それはそれとして将来のことを思えば召喚魔法の取得も必須なんじゃないか……?」
召喚魔法使いは今、どこのパーティーでも引っ張りだこな存在だ。それは前衛の重要さを皆が理解し始めたからであり、自ら学ぶ者も増えているという。勿論、学ぶものは増えれば増えるほど大変なのは言うまでもないから、自分の専攻魔法は何である、という概念も自然と出来上がってきてはいる。
(……難しいな。こんなことをアベル先生に相談していいものかどうか)
他の魔法を学ぶ。それはアベルの教える属性魔法を信頼していないと言っているかのようでエピンは悩んでしまう。どうするべきか。どう将来設計していくべきか。思考の海に落ちていく、その瞬間。ドアを叩く音がエピンの思考を現実に引き戻す。
「エピーン! 出来たよ出来た! エピーーーーン!」
誰が来たか分かりやすい来客にエピンは思わず口角を上げながら立ち上がり……ドアを開ける。
「あ、エピン! こんばんは!」
「もう少し静かにな……って、それはもしかして」
「うん。出来たんだよエピン! アイアンドラゴンスタッフ! 君の杖だ!」
大仰な名前の杖ではあるが、確かにこの杖にはそれ以外の名前はエピンにだって思い浮かばないだろう。杖はオーブを除けば総鉄製、ずっしりと重いが、持ち歩けない程ではない。ロングソードと然程重さ自体は変わりはしないだろう。
「……まあ、とにかく中に入れよ」
「うん!」
部屋の構造自体はどの部屋も変わらないし、違いがあるとすればこの前の魔導祭で何か買ったか否かくらいだろう……あと貴族の生徒の場合は実家から持ち込んだ剣があったりするが、エピンの部屋にも飾ってあるだけになってしまった剣や初期装備品の杖が立てかけられている。
その杖も今までの常識からでは考えられないようなものではあるのだが、イヴァンの作ったこの杖は、それを軽く超える力があるとエピンにも理解できる。
「これをイヴァンが作ったのか……凄いな。魔力の通りが良い。今までより強い火魔法が撃てそうだ」
「この前のオーブを使ったからね! デザインもそれっぽくしたんだよ」
「ああ、分かるよ。火といえばドラゴンだもんな。すげえカッコいい」
「だよね! 俺が初めて作った、満足できる作品だよ!」
そんなものを自分にくれた。その事実がエピンには少しくすぐったくて。
「本当にありがとう、イヴァン」
「別にいいよ、友達だろ?」
「そうだな。だから……この際、お前のパワーアップもしないか? 俺も資金出すからさ」




