118話:夜の魔法学園ヤマダ
……夜。ウルは超ご機嫌だった。
それはキアラの成長に関してもだが、やる気が凄かったのが嬉しかったのだ。
やはり目標が見えていると成長が早いというのは確かなのだろう。
「コアがクエストだなんだって言い出した時には正直どうかと思ったけど、結果的には良かったよね! ただの青春マニア猫じゃなくて安心!」
「お前は俺を何だと思ってるんだ」
「青春置いとくと寄ってくる猫」
「間違ってないな……」
それに関しては否定できないし否定する気もないので白猫コアとしては頷くしかないのだけれども。
「で、急に来いって何さ。ボク、明日の授業の準備もあるんだけど?」
2人がいる場所は学園外周の森の、その最奥。学園を囲む壁のすぐ近くだ。此処までは生徒も来ないので、外で密談をやるならば最適な、そんな場所だ。
「うーん。まあ、懸念の段階なんだけどな?」
「うん」
「マルスからの報告だけどアレ、うち絡みかもしれん」
学園外にいる「先輩」の一人であるマルスだが、ブラックワイバーンの活動が活性化しているという話は聞いていた。その目的が何であるかは追加報告待ちだったのだが、調査範囲を広げていくと……どうにも海上にもブラックワイバーンの姿があるという話があったのだ。
「ふーん……あからさまに何かを探してるってこと?」
「その場合探してるのって学園以外ないじゃん?」
「そーだね。ていうかそれってアレじゃないの? 精霊に遅れてようやくコアを探す気になったとか」
「その可能性を考えてたんだけどな。だとしたらドラゴン本人が動くと思うんだよなー」
ワイバーンがドラゴンの配下種族であるというのは、この世界では比較的常識だ。だからブラックワイバーンが何かを探しているというのであれば動いているのはブラックドラゴンだ。
そして、これだけの規模のブラックワイバーンが動いているというのであれば、それに関してはもはや確定だと言っていい、のだが。
「王を探す態度とは違くね? 今まで動かなかったなら永遠に動かないだろうと思ってたし」
「あ、一つ気になったことあるんだけどいい?」
「おう、なんだ?」
「こういうの、ダリアン校長とやるべきじゃない? なんでボク?」
「モンスター関連の知識はお前の担当だろ……」
「あー、そういうアレね」
言われて、ウルは自分の中のドラゴンの知識を引き出すが、確かに白猫コアの言うことには一定の理がある。ドラゴンは究極の個人主義者だが、だからといっていざ王に会おうという時にワイバーンなど使うだろうか? 自分で探した方がよほど早いというのにだ。
と、いうことはやはり白猫コアの言う通りに「ドラゴンの王」を探しているわけではない。
「まー……コアの言う通りなんじゃないかな。で、これを会議にしないのはなんで?」
「うん、なんかこの近くにまでブラックワイバーンが来る気配があるんだよな。お前も知っての通り俺、学園の範囲からは出れないし。ちょっと確認してきてくれない?」
忘れがちではあるのだが、白猫コアは魔法学園ヤマダのコアだ。つまり心臓であり、心臓は身体の外に勝手に出てきたりはしない。まあ、心臓で例えてしまうと「心臓は体内を勝手に移動しないだろ」という話になってしまうのだが、そこはあくまでイメージである。
勿論、出れないといってもぶちのめすだけなら設置した学園防空網でどうにか出来てしまうのだが、やはり最初からケンカ腰ではよくない。
よくないが……もし悪い目的で魔法学園の航路を探っているのであれば、ちょっとお話合いが必要にもなってくる。
「モンスターとの話し合いで一番穏便に出来るのはウル、お前だろ?」
「まー、それはそうかも。他の連中だと……ムルムル、とかくらいしかいないかも……?」
「なんかお前ムルムルと関係性微妙だよな」
「なんでかなー。なんか合わないっていうかー」
性格の不一致というよりはムルムルのほうはウルを気に入っていて、ウルはそうでもないみたいな……そんなディスコミュニケーションというかムルムルの絶妙な性格の悪さがウルに好かれていないというか。さておいて。
「ま、いいや。じゃあ見てくるよ。方向はこの先でいいの?」
「おう」
「じゃあ、あの子でいいかー……おいで、エメラルド・ツー」
緑色の魔力が場を包み、緑……いや、エメラルド色の美しく巨大な鳥がその場に姿を現す。
羽根の一枚にまで濃厚すぎる風の魔力が行き渡った、この世界にたった1体しかいない……魔法学園ヤマダに連なる存在だ。あえて言うのであればヴァーミリオン・ワン同様に神獣とでも呼ぶべきかもしれない。
「あの子でいいか、にしては大物すぎねえ?」
「対モンスターのお話合いではナメられたら終わりだからさ。じゃ、行ってくる」
「おー、行ってらっしゃい」
白猫コアに見送られ、ウルはエメラルド・ツーに乗って飛ぶ。
その先に居るのは……もういっそ可哀想なブラックワイバーンだ。




