109話:図書館は青春スポット
そんな白猫コアが図書館などという青春スポットで手を抜くはずがない。
魔法学園ヤマダにおける図書館とは三階建ての立派な……それこそお城のような建物であった。
中に入れば無数の本棚と、そこにギッシリ詰まった本が来館者を出迎え魔法の明かりが真昼のように館内を照らしている。
実に素晴らしい場所だ……では何故ここに来る生徒の数が少ないのか?
それは簡単で、本で魔法に役立つ知識を得るという習慣がないからだ。魔法知識を独占する魔塔が全部悪い。
「これは……凄いですわね……」
だから、図書館に来たキアラの驚きも当然のことだろう。入り口から入ってすぐに分かる膨大過ぎる情報量。何処に何の本があるのかも、これでは分からない。分からないが……入り口近くのカウンターの向こうでやけに豪奢な椅子に座っている少女がいることにも気付いていた。
年齢はキアラよりも下に見える。あくまで見えるというだけの話だ……召喚魔法教師のウルのような例だってある。彼女も幼い外見だが、カウンターにいる少女も同じくらいに見える。
薄い紫色のゆるいウェーブのかかった長い髪と、美しい切れ長の、髪と同じ色の目。
口元に浮かんだ笑みは気の強さを感じさせるが……不思議と「性格が悪そう」と見えてしまうのは何故だろうか?
ドレスかと思う程度にはフリルのついた濃紫色の服は少女らしさと妖艶さを併せ持ち、何かの本を優雅に読み込んでいる。
何の本だろうかとキアラが目を凝らせば「たのしい罵倒」と書かれていて思わず「うっ」と声をあげてしまう。
「……あら」
そのキアラの呻きに気付いた少女は当然のように本から顔を上げて、キアラへと視線を向けてくる。
何かを考えるようなその表情は、すぐにからかうようなものに変わって。
「別に使わないわよ? 罵倒は楽しくなんかないものね?」
「ならなんで読んでるんですの……?」
「読むのは楽しいじゃない。新しい知識は自分の力になるもの」
「まあ、そこだけは同意しますけれど……」
本を閉じてカウンターに置いた少女は椅子に深く腰掛け、足を組みかえる。彼女なりの話を聞く姿勢、なのだろうか?
「私はムルムル。この図書館の司書よ。よろしくね?」
「私はキアラですわ。よろしくお願いします」
「で、どんな本をお探しなのかしら」
「モンスターに関する本があれば……出来るだけたくさん載っているものが良いのですけれど」
「それならこの辺りね」
ムルムルが指を動かせばどういう理屈か、本棚から幾つかの本が抜けて浮遊し近くの机の上に重なっていく。まるで本に意思があるかのようだが、キアラにはハッキリと分かった。これは魔法だと。
「あ、あの!」
「あら、なぁに?」
「その、失礼ですが……ムルムル先生のその魔法は……」
「超能魔法。サイキックと読み替えてもいいけど。かなりクセの強い魔法よ?」
そう、コアの世界の基準でいえば超能力。この世界でいえばそれもまた魔法だ。ムルムルの言う通りに癖が強いため、学園案内でも然程大きく取り扱ってはおらず、ほとんどの生徒は図書館の項目を見てもムルムルは司書の先生であると認識しているだろう。
しかしだからこそ、キアラはそこに自分に足りないものを見たのだ。
「あ、あの! よろしければその魔法をご教授頂くわけには……」
「今習ってる魔法は?」
「召喚魔法ですわ!」
「うーん……ならまあ、いいかしらね……」
召喚魔法との組み合わせになる魔法の候補は幾つかあるが、超能魔法は結構相性がいい方だ。何故なら……上手く使えば、武器にも防具にもなる魔法だからだ。多くの召喚魔法使いの弱点である「本体が弱い」を無理なく強化できる方法というわけだ。
「まあ、でもそれは後でね」
「ど、どうしてですの⁉」
キアラの抗議にムルムルは積まれた本を指差す。そう、キアラのリクエストした本だ。
「まずは、リクエストした本を読んでね? 欲しい情報があるから来たんでしょう?」
「えっと……はい、その通りですわ」
「さっきも言ったけど、新しい知識は武器になるのよ。馬鹿に教えるつもりはないから、しっかり読み込みなさい。超能魔法は馬鹿には使えないんだから」
これは嘘ではない。というか超能魔法というものの根本でもある。生活魔法に匹敵するほどの便利な魔法であるが、そうであるが故に使う者にも相応の理解力を必要とするのだ。エピンたちが収納魔法を覚えようとしてカリックスにしか習得できなかったように……だ。
「わ、分かりましたわ」
大人しく椅子に座って本を読み始めるキアラを見て、ムルムルは小さく微笑む。此処でまだゴネるようであれば理由をつけて教えないつもりだったが、そういう意味でも良い生徒になりそうだ。
(魔法でエゴを通せば魔塔が建つ。それはこの世界の歴史が証明してる。だから……貴方はどうか素直に育ってね?)




