第9話 初めての報酬、ゲットだぜ!
街に戻る頃には日がすっかり傾いていた。
東門をくぐってまっすぐギルドへ向かう。両手にはずっしりと薬草の束。我ながらよく摘んだものだ。これが全部お金になると思うと、自然と足取りが軽くなる。
ギルドの扉を開けると、朝とは違って中はさらに賑わっていた。依頼を終えた冒険者たちが戻ってきているらしい。酒を飲む声、笑い声、武器を片付ける音。一気に活気づいていた。
カウンターにはまだミレイさんがいた。
「ミレイさん! 薬草採ってきた!」
声をかけると、ミレイさんが顔を上げた。俺の抱えた薬草を見て少し目を見開く。
「ずいぶんたくさん採ってきましたね」
「だろ? 最初は全然見分けつかなくて焦ったけど、コツ掴んだら止まらなくなってさ」
カウンターにどさっと薬草を置く。ミレイさんがそれを手に取って一本ずつ確認し始めた。
そこでようやく少し不安になってきた。
もし全部間違ってたらどうしよう。自信満々で持ってきて「これ全部ただの雑草です」とか言われたら立ち直れない。さっきまでの達成感が急に心もとなくなる。
ミレイさんが薬草を一本ずつめくっていく。その横顔を固唾を呑んで見守った。
「うん、ちゃんとした薬草ですね。状態もいいです」
「マジで!? よかったー!」
思わずガッツポーズが出た。ミレイさんがくすりと笑う。
「根元から綺麗に摘めてます。乱暴に引きちぎる新人も多いんですが、これは丁寧ですね」
「お、そう? なんか嬉しいなそれ」
褒められると普通に嬉しい。薬草を摘んでただけなのに、ちょっと誇らしい気持ちになった。
ミレイさんが薬草を数えて束に分けていく。
「全部で四束分ありますね。一束で銅貨五枚ですから、銅貨二十枚になります」
そう言ってカウンターに銅貨を並べた。ちゃりんと小気味いい音がする。
俺はその銅貨をじっと見つめた。
異世界での、初めての稼ぎだ。
二十枚。多いのか少ないのか正直よく分からない。でも自分で働いて自分で稼いだ金だ。たかが薬草採取。でもこれが俺の異世界での第一歩なんだと思うと、なんだかぐっとくるものがあった。
「これが俺の初給料か……」
「給料というか報酬ですけどね」
「同じようなもんだろ。いや、感慨深いなこれ」
銅貨を一枚つまみ上げてしげしげと眺める。ずっしりした本物の金属の感触。これがこの世界で生きていくための金だ。
「ところでミレイさん、これってどのくらいの価値なの? 銅貨二十枚って」
「そうですね……宿屋の一番安い相部屋が一泊で銅貨十枚くらいです。パンと具なしスープの簡単な食事が銅貨三枚ほど」
頭の中で計算する。宿に泊まって飯を食ったら、それでほぼ消える額だった。
「え、一日働いて、一泊と飯一回で消えんの?」
「銅級の薬草採取なら、そんなものですね」
「世知辛っ!」
思わず叫んでしまった。世知辛い。あまりにも世知辛い。これじゃ貯金どころか、その日暮らしで精一杯じゃないか。
「だから言ったでしょう。地道にコツコツって」
ミレイさんがちょっと面白そうに言う。さっきガドにも同じことを言われた。地道に。コツコツ。なるほど、痛いほど分かった。冒険者、想像の百倍は地味で世知辛い職業らしい。
「でも、ちゃんと依頼を達成して報酬を得たんです。立派な一歩ですよ」
その言葉にちょっと救われた気がした。
確かにそうだ。世知辛かろうが何だろうが、俺はちゃんと依頼を達成した。スライムには負けたけど薬草はしっかり採ってきた。前に進んでる。それは間違いない。
「だな! よし、明日もやるか!」
銅貨を握りしめて気合を入れ直す。落ち込んだのは一瞬だった。考えてみれば初日からこうして稼げてるんだ。上等じゃないか。
「あ、その前に。今夜泊まる宿、どっかいいとこある? 安いとこで」
「でしたら、この近くの『木漏れ亭』がおすすめです。安いですし、女将さんがいい人なので。冒険者もよく使ってますよ」
「お、サンキュー! ほんとミレイさん助かる!」
「……仕事ですので」
また同じことを言って、ミレイさんは少し照れたように目を逸らした。
稼いだ銅貨をポケットに入れてギルドを出る。
外はもう夕暮れだった。空がオレンジ色に染まって、街の明かりがぽつぽつ灯り始めている。異世界の夕暮れも地球とそんなに変わらない色をしていた。
異世界一日目。
スライムに負けて薬草の見分けに苦労して、光るうさぎと戯れて、初めての報酬を稼いだ。盛りだくさんな一日だった。
明日からも、こんな日々が続くんだろう。地味で、世知辛くて、でも——なんだろう、悪くない。
不思議とそう思えた。
「さーて、飯と宿だ! 腹減ったー!」
夕暮れの街に俺の声が響いた。




